プラスチックの製造とリサイクルの未来 「地表にある炭素」を使って気候変動を緩和できる?
[このコラムを書いた研究員]
- 専門領域
- 気候変動
- 役職名
- マネジャー上席研究員
- 執筆者名
- 坪井 靖展 Yasunobu Tsuboi
2024.11.26
流れ
- そもそもプラスチックってどう作られる?
- 使い終わったプラスチックはどうなる??
- プラスチックのライフサイクルから発生するCO2
- 「地表にある炭素」からプラスチックを作る?
- 循環型の世界を目指して
朝、歯を磨くときに使う歯ブラシ。お昼に買うコンビニ弁当の容器。そして、夜寝るときに電気を消すときに押すスイッチ。私たちの暮らしのいたるところにあるのが、プラスチック製品です。一方で、プラスチックは製造や使い終わった後の処理の過程で、二酸化炭素(CO2)を排出します。
気候変動緩和のためCO2排出量の削減が求められる中、プラスチックを作る化学会社が今取り組んでいるのが「地表の炭素」を使ってプラスチックを作る新たな技術開発です。一体どういうことなのか、わかりやすく解説します。
そもそもプラスチックってどう作られる?
プラスチックは、「地中にある炭素」である原油を採掘したうえで、蒸留・精製して得られるナフサをナフサ分解炉(エチレン装置)で熱分解して生成されたエチレン、プロピレンなどを原料として作られています。それらを重合という化学反応でポリエチレンやポリプロピレンなどに変え、固体のペレットにします。このペレットを溶かして固めることでプラスチック製品ができあがります。
使い終わったプラスチックはどうなる?
使い終わったペットボトルなどの廃プラスチックを粉砕したものをもとに作業服やバッグなどを作る。化学的・熱的に処理・分解することで元と同じ品質の原料に戻し、再度プラスチックや化学品を作る。また、廃プラスチックを燃やして得られる熱を利用して温水などを作る。これらが廃プラスチックの代表的な処理方法です。それでも処理しきれないものは、焼却したり、埋め立てたりします。
プラスチックのライフサイクルから発生するCO2
ナフサ分解炉の工程で、CO2が発生します。また、廃プラスチック処理における焼却によってもCO2が発生します。
一方で、プラスチックの存在により、重い容器を使わずに済み、軽い自動車の製造が可能になっています。重い物を輸送したり、重い自動車を走らせたりすると、余計にCO2が発生します。つまり、プラスチックは社会にとってCO2排出の削減に大きな効果をもたらしているのです。
それでも、地球温暖化は世界の喫緊の問題です。2024年11月にアゼルバイジャンのバクーで開催されたCOP29でも、様々な議論が行われました。気候変動に関するニュースを見ない日はありません。そのような中、化学会社はプラスチックのライフサイクル全体でのCO2削減に取り組んでいます。
「地表にある炭素」からプラスチックを作る?
大手化学会社のサステナビリティレポートなどから、気候変動緩和のための様々な取り組みがされていることが分かります。
これらの企業が取り組んでいるのが、これまで使っていた「地中にある炭素」である原油ではなく、「地表にある炭素」の活用です。
「地表にある炭素」とは、以下のようなものがあります。
- 植物(光合成を通じて、大気中のCO2を取り込んでいます)
- 大気中のCO2や製造工程で生じるCO2
- 廃プラスチック(原料などに炭素を含んでいます)
植物など生物由来の資源から生成したバイオマスナフサは、石油由来ナフサの使用量を減らします。バイオマスナフサから作られたプラスチックは、原料の植物などのバイオマスが成長過程でCO2を吸収しており、その分ライフサイクルのCO2排出量は減ります。
さらに、CO2からプラスチック原料を作る技術も開発されています。これが実現すれば、化学産業だけでなく他産業が排出するCO2からもプラスチックを作ることができます。その分石油由来ナフサは不要となり、大幅なCO2排出削減になります。
廃プラスチックをリサイクルし、新たなプラスチック製品として再生する。バイオマスやCO2からプラスチックを作る。これらが実現すれば、従来通りプラスチックの利便性を享受しながら大幅にCO2排出を減らすことができます。これらの開発には様々な課題がありますが、化学会社各社は世界の気候変動緩和に貢献するために取り組んでいます。
循環型の世界を目指して
石油化学工業協会は、2024年1月に「サステナブル社会実現に向けた石油化学産業の取り組み」を公表しました。その中で、「石油化学産業は、『化学の力』によるカーボンニュートラルと循環型社会の構築に貢献する」、「化学産業はソリューションプロバイダーとして、炭素循環実現を目指す。地中の炭素をこれ以上消費せず、現在地表に存在する炭素を活用する」としています。
将来的にバイオマスや廃プラスチック、CO2からプラスチックやその他化学製品が製造されるようになれば、地中の炭素である石油由来ナフサを使う必要がなくなり、地表の炭素を循環させることができます。これにより、新たなCO2を発生しないため、カーボンニュートラルな世界に近づきます。
化学産業は全産業の95%以上に素材を供給していると言われています。化学産業が低炭素な素材を供給することで、ほぼすべての産業の温室効果ガス削減に貢献し、その効果は計り知れません。
まさに『化学の力』は、世界のカーボンニュートラル実現に大きな影響を与えそうですね。
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