コラム/トピックス

メタンの濃度が急上昇?排出と緩和策の現状とは ~COP29のサイドイベント参加リポート~

[このコラムを書いた研究員]

石川智則
専門領域
気候変動、全社的リスクマネジメント
役職名
基礎研究グループ長
執筆者名
石川 智則 Tomonori Ishikawa

2024.12.9

この記事の
流れ
  • COP29に参加してきました
  • そもそもメタンって?何から排出されるの?
  • メタンの増加は人間活動が原因?
  • 緩和策を進める難しさ
  • メタンの緩和策はすすむのか?

“メタン”と聞いて、みなさんはどんなことをイメージしますか?
牛のゲップに含まれるメタンが温室効果ガスの1つという話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。実はこのメタン、大気中の濃度が工業化の前の2.5倍以上に達していて、国際的には排出に対して課題意識が高まっているんです。

こうした中、先月(11月)にアゼルバイジャンのバクーで、COP29(気候変動枠組条約第29回締約国会議)が開催されました。実際に会場を訪れてみると、日本ではまだまだ注目度が高いとはいえない、このメタンに関するイベントが多数開催されていました。“メタンの現状”を報告します。

COP29に参加してきました

COP29はバクーオリンピックスタジアムで開催されました。スタジアムの横に大規模な仮設スペースが設けられ、国、国際機関、環境団体などがパビリオンを出展していました。私は、そのパビリオンなどで開催されるパネルディスカッション形式のサイドイベントに参加して情報収集をおこないました。

COP29に行く前、サイドイベントを200~300調べてみました。すると、メタンに関するテーマが多いことに気づきました。

「世界はメタン排出に課題意識があるのでは?」

国内では、気候変動×メタンというイベントの開催は少ないように感じていたので、現地に着いたらメタンをテーマにしたサイドイベントに出席することにしました。

次回の</span>COP30開催国のブラジルパビリオン
次回のCOP30開催国のブラジルパビリオン

アゼルバイジャンの会場に到着してから、まず日本のパビリオンを訪れ、企業の展示を視察しました。気候変動や脱炭素の具体的なソリューションとして、人口衛星による温室効果ガスの測定、表流水・地下水の流量解析、小型人工衛星の開発等、模型や解説パネルを用いた説明が行われていました。このような展示は他のパビリオンにはない工夫で、日本の最新技術を世界にアピールできる絶好のチャンスだと感じました。

日本パビリオンの展示
日本パビリオンの展示

そもそもメタンって?何から排出されるの?

ここで、そもそも「メタンとはどういうものなのか」について説明したいと思います。

メタンの排出は、人為的なものと自然からのものがあります。人為的なものが60%で、化石燃料の採掘、稲作などの農業、家畜(牛のゲップなど)、有機廃棄物などから生じます。自然からのものは、湿地、森林の土壌、海洋などからで、主に有機物が微生物に分解される際につくられます。

そして、世界気象機関の温室効果ガス年報(2024年10月)によれば、メタンによる放射強制力(大気を温める効果)は、温室効果ガスの16%を占めます。66%のCO2と比べれば影響は小さいのですが、大気中のメタン濃度(2023年)は工業化以前の265%(CO2は151%)に達しています。また、メタンの温室効果はCO2の28倍もあります。

メタンの増加は人間活動が原因?

そして近年、メタン濃度が急上昇しているんです。温室効果ガス世界資料センターの解析によると、世界平均濃度の増加量は2021年に17ppbになり、1984年以降で最大になりました。2011~2020年の増加量の平均値は8ppbなので倍増しています。こうした上昇の原因は、人間活動(人為的なもの)である可能性が否定できないのですが、科学的に解明されていません。原因がわかれば、将来のメタン濃度の予測や緩和策の検討に影響を与えると考えられます。

メタンに関しては、日本でも人口衛星(GOSAT)でCO2やメタンを含めた温室効果ガスを観測しているように、COP29でも人口衛星によるメタン濃度の観測、観測精度の向上、観測データの活用の進展が確認できました。地域単位の観測データは、水田の分布とメタン濃度を把握できるシステムの開発に活用されていました。また、地図情報等他のデータとの組み合わせで、より詳細な高濃度場所の特定も可能になっています。この技術を用いれば、化石燃料採掘場等の高濃度排出場所の特定ができるそうです。

緩和策を進める難しさ

COP29のサイドイベントに参加していると、途上国の出席者からさまざまな意見が出されていました。その中から、2つの国のスピーカーによる発言内容を紹介します。

インドからの参加者は次のように話していました。
「水田からのメタン排出が課題の農業は、鉄鋼業や化学業等と同じHard to Abate業種(CO2排出削減が難しい業種)である。農業で生計を維持している国民の多くが貧困層であり、緩和策の推進は難しい」
貧しい中で農業に従事していることから、メタンの排出を緩和するための取組をする余裕はないという訴えでした。

また、ナイジェリアからの参加者からは次のような発言がありました。
「有機廃棄物からの排出では、ゴミ収集を行う労働者の労働環境改善等に資金を回さなければならず、温暖化対策だけでなく、人権問題にも目をむける必要がある」
温暖化対策の必要は認めつつ、それ以前に途上国の置かれた現状に向き合ってほしいという内容でした。

途上国には、温暖化対策の前に何とかしなければならない課題が山積しています。

メタンの緩和策はすすむのか?

昨年のCOP28では、グローバルストックテイク(世界全体の気候変動対策を評価する仕組み)の中で、「CO2以外の排出削減、特にメタンの排出を2030年までに大幅かつ加速度的な削減」に貢献するよう各国に呼び掛けられました。それから1年が経過しましたが、まだまだメタンへの関心は高いとはいえず、CO2緩和のためには大きな資金が入るもののメタンには十分な資金が入らない現実があるそうです。

トランプ新政権が化石燃料の生産を拡大すればメタン排出が増加します。また、途上国が豊かになれば食生活の変化で牛肉消費量が増え牛のゲップが増えるかもしれません。COP29に参加してみて、十分な緩和策なきメタン排出増加のポテンシャルに、漠然とした気味の悪さを感じました。

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