高齢ドライバーは危険? ~高齢者の自動車運転に関する実態と意識についてのアンケート調査から見えることとは~
[このコラムを書いた研究員]
- 専門領域
- 食料安全保障、マイクロファイナンス、超高齢社会
- 役職名
- 主席研究員
- 執筆者名
- 新納 康介 Kousuke NIIRO
2024.12.11
流れ
- 調査から見える“高齢ドライバー”に対するイメージは?
- イメージと実態は異なるので “要注意”
- ニュースを見たことで“高齢ドライバー=危険”の印象を持つ?
- 今回の調査から得られるヒントは?
- 高齢ドライバーに「運転しないで」と頭ごなしに言うべきでない
- 男性と女性では運転に対する自信の度合いが異なる
- バイアスを排したデータに基づく議論を
みなさんは、”高齢ドライバー”に対して、どんなイメージをお持ちでしょうか?
MS&ADインターリスク総研は、2017年から「高齢者の自動車運転に関する実態と意識について」というアンケート調査を継続的に行っており、今回4回目となる最新の調査結果をまとめました。調査では、20歳から90歳までの男女1,000人にインターネットでアンケートを行いました。
調査結果からはどんなことが見えるのか?そのポイントについて、調査にあたった当社基礎研究部の新納康介主席研究員に話を聞きました。
調査から見える“高齢ドライバー”に対するイメージは?
ーーまず、今回の調査では高齢ドライバー(75歳以上)に対するイメージに関する質問がありましたが、その結果について教えてもらえますか?
新納)高齢ドライバーの運転が「安全だと思う」と回答した人はわずか8%だったんです。「高齢者の危険な運転は直接見ていないが、ニュースなどを見て、危ないと思う」と「高齢者の危険な運転を見たことがあり、危ないと思う」と回答した人を合わせると8割を超える人が「高齢ドライバーの運転が危険」だと感じていました。過去の当社の調査でも同じ傾向ですし、2019年に警察庁の有識者が行った調査※1の結果も同様の内容でした。
※1 警察庁(2019)『高齢運転者交通事故防止対策に関する調査研究』
【図1】あなたは、高齢者(75歳以上)の自動車運転についてどうお考えですか
単位:%
イメージと実態は異なるので “要注意”
新納)ただ、これをもって“高齢ドライバー=危険”と判断するのは、注意が必要だと考えています。
確かに、警察庁の統計によると、75歳以上のドライバーの交通事故は2023年には3万件を超えて、前の年から10%以上増えているのですが、一方で、同じ統計では、次のことも明らかになっています。
- 原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者10万人あたりの交通事故件数でみると16~19歳、20~24歳の層の件数は、65歳以上の層の件数を上回っている
- 交通事故件数でみると、50~54歳の層の件数が最も大きい
したがって、世間的なイメージと事故発生件数の観点では少なからずズレが生じているのではないかと考えています。
ニュースを見たことで“高齢ドライバー=危険”の印象を持つ?
ーーそのズレは、どうして生じているのでしょうか?
新納)先ほどのグラフを見てほしいのですが、高齢ドライバーの危険な運転は直接見ていないけれど、ニュースなどを見て“危ない”と思っている人が半数近くいるのがわかると思います。
昨今報道されるような高齢ドライバーによる、アクセル・ブレーキの踏み間違いなどによる大事故等の報道に触れることにより“高齢ドライバー=危険”というイメージが広まっているのではないかということが、調査結果からは見て取れます。
ただ、さきほど話したように、10万人あたりの交通事故件数でみると若年層の方が多いですし、交通事故件数でみると40代後半から50代半の中年層の方が多いのが実態です。高齢ドライバーによる交通事故ばかりが誇張されて報道されているのではないかと考え、調べてみましたが、そうした偏りも見られませんでした。
では、なぜ多くの人が“高齢ドライバー=危険”というイメージを持っているのかというと、認知バイアスが働いていると考えられます。人は、直感、偏見、錯覚、一方的な思い込み、誤解などにより、自らが思っているほど合理的には行動ができないことが明らかになっていて、このような心理現象を認知バイアスと呼びます。このため、人は「思い浮かびやすい」、「簡単に思いつく」ことをもとに意思決定をする傾向があります。大きく取り上げられたニュースによって、“高齢ドライバー=危険”というイメージが想起されやすくなっているとみられます。
今回の調査から得られるヒントは?
ーー実態と異なる可能性があるとはいっても“高齢ドライバー=危険”というイメージが広がる中で、高齢の親を持つ中高年の方の中には、「親が自動車を運転するのが不安」と感じ、免許の返納を勧めたり、運転しないよう説得したりするべきか悩んでいる方も多いと思います。今回の調査から、そうした方たちのヒントになるような内容はありますか?
新納)2点挙げたいと思います。
1つ目が、当社による今回のものを含めた複数の調査で、ドライバーは年を重ねるほど、運転に対する自信を持つ傾向が続いている点です。
2つ目は、高齢ドライバーの中でも、男性と女性では、運転に対する自信の程度が大きく異なるということです。
高齢ドライバーに「運転しないで」と頭ごなしに言うべきでない
ーー1つ目の「年を重ねるほど運転に対する自信を持つ」という傾向がわかると、高齢ドライバーとのコミュニケーションに活かせる点があるのでしょうか?
新納)運転に自信を持っている人に対して「危ないから免許を返納して」、「運転しないで」と頭ごなしに言うのは、逆効果になる可能性があるということです。
運転に対して自信を持っている人は、自分を過大評価し自信過剰に陥ってしまう認知バイアスがかかっている可能性があります。その場合、自分の考えに合わない意見に対しては反発したり無視したりしてしまうので、頭ごなしに言っても効果がありません。
今日では、ドライバーの運転挙動を日々データ化・スコア化して確認することで自身の運転の改善に活かすことができる「テレマティクス」のようなサービスも広がってきています。こうした客観的なデータをもとに、話し合うのもよいと思います。
男性と女性では運転に対する自信の度合いが異なる
ーー2つ目の、男性と女性の高齢ドライバーでは、運転に対する自信の度合いが違うということからは、どんなことが言えそうですか?
新納)女性も、高齢になるにつれて運転に対する自信が高まるという傾向はあるのですが、全年代において男性より「自信がある」と答えた人の割合が低く、30ポイント以上低くなっている年代もあります。
【図2】自動車運転に対する自信(男女、年代別の比較)
単位:%
「高齢ドライバー」とひとくくりにいっても、男性と女性でこれほど運転に対する自信の度合いが異なるのであれば、女性の高齢ドライバーの場合は、免許返納などの話をする際、男性の場合と比べると抵抗なく受け入れてもらえるかもしれません。年齢だけで判断するのではなく、性別による違いもあることを踏まえて、話をしてみるとよいかもしれません。
バイアスを排したデータに基づく議論を
ーー今回のアンケート調査結果をまとめたレポートを読んだ人に対して、どんなことを考えるきっかけになってほしいと考えていますか?
新納)ここ数年で、「高齢ドライバー=危険」というイメージが独り歩きしてしまっている点を懸念しています。データを見ると、必ずしも高齢ドライバーだけが突出して危険であるとは言えないからです。
ですから、様々なデータに基づいて、高齢ドライバーも含めた事故防止の取組を検討していく必要があると思います。
また、高齢ドライバーの免許返納などを検討する際も、バイアスを排したデータに基づくことが重要です。そもそも、特定のドライバーの運転が危ないのかどうかを判断するには、年齢だけではなくドライバー個別の事情を踏まえるべきです。
とはいえ、一般的に人は年齢を重ねるごとに認知機能が低下するといわれていますので、運転適性診断やスコア化された客観的な指標を利用して、加齢による認知機能の低下に気づき、自覚していただくことが重要だと考えます。
高齢ドライバーのご家族を持つ方には、先ほど少し触れましたが、ぜひ「テレマティクス」を活用して、安全に運転を続けられる状態なのか、運転を控えた方がいいのか、そして免許の返納を検討した方がいいのかについて、対話をしていただきたいと思います。
「高齢者の自動車運転に関する実態と意識について」のアンケート調査結果は、以下のボタンからご覧いただけます。