コラム/トピックス

TLPTとは? 攻撃者の視点からセキュリティを強化する手法

2025.3.25

デジタル化が進む現代において、サイバー攻撃の脅威はますます深刻化しています。

こうした脅威に備える手段の一つとして注目されているのが「TLPT(Threat-Led Penetration Testing)」です。TLPTは、攻撃者の視点から企業のシステムを評価し、脆弱性を発見してセキュリティ体制を強化する重要な手法です。

本記事では、TLPTの基本的な定義や仕組み、実施方法に加え、ASM(Attack Surface Management)との関係についてもわかりやすく解説します。ぜひ最後までお読みください。

TLPTとは何か

TLPT(Threat-Led Penetration Testing)は、業種や業態に応じた実践的なペネトレーションテストの手法です。特有のサイバーリスクを対象に、現実的かつ効果的な評価を行うことを目的としています。特に金融機関で多用されており、欧州や英国、香港などの金融当局もTLPTの枠組みを導入し、リスク管理態勢の強化に役立てています。

一般的なペネトレーションテストと混同されがちですが、両者には以下のような主な違いがあります。

チーム体制

TLPTでは、「レッドチーム(攻撃側)」「ブルーチーム(防御側)」「ホワイトチーム(調整役)」の3チームが協力して実施されます。一方、一般的なペネトレーションテストではレッドチームのみで行われることが多く、この点でTLPTはより現実に近い攻防を再現できるのが特徴です。

テストの範囲

TLPTの範囲には、システムやIT資産だけでなく、人や対応プロセスも含まれます。これにより、従来のペネトレーションテストでは把握しきれなかった脆弱性を特定することが可能です。

TLPTの主な目的

TLPTの目的は、サイバー攻撃に対する防御力を評価し、システムの脆弱性を発見して改善を図ることです。企業はTLPTを通じて、どの部分が脆弱であるかを明確に把握し、それに基づいて適切な対策を講じることが可能です。また、攻撃者が狙う可能性の高い経路をシミュレーションすることで、具体的な脅威への理解が深まり、より効果的な防御策を取ることができます。

TLPTが必要とされる背景

従来の境界防御だけでは高度化するサイバー攻撃に対応しきれない現状が、TLPTの重要性を高めています。多くの国や地域では、業種ごとにカスタマイズされた攻撃シナリオを用いることで、現実的な脅威への評価と防御力の強化を進めています。

TLPTの仕組みと攻撃シミュレーションの主要な構成要素

ここからは、TLPTを実施する際に必要な要素や攻撃シミュレーションの手順について解説していきます。

TLPTにおける重要なコンポーネント

TLPTを実施するためには、攻撃シミュレーションに必要なさまざまなツールとリソースが必要です。具体的には、攻撃を模倣するためのペネトレーションツールや、攻撃の結果を評価するための分析ツールなどが含まれます。さらに、ブルーチーム(防御側)とレッドチーム(攻撃側)が協力して、攻撃シナリオを策定し、シミュレーションを実行します。

攻撃シミュレーションでは、攻撃者の視点から実際の攻撃を再現するため、より現実に即したセキュリティテストを行うことが可能になります。

攻撃シミュレーションのプロセス

TLPTの攻撃シミュレーションは、まず攻撃シナリオを策定することから始まります。このシナリオは、企業が直面し得る脅威を想定して作成されます。たとえば、特定の脆弱性を狙った攻撃や、ソーシャルエンジニアリング(フィッシングやなりすましなど)を含む場合もあります。その後、実際に攻撃が行われ、攻撃の成功や失敗が評価されます。この評価結果に基づき、どの部分が脆弱であったか、どのような改善が必要かを具体的に提案します。

地域金融機関に対する金融庁のTLPTの取り組み

さまざまな業種・業態があるなかでTLPTへの取り組みが進んでいる金融機関に関する情報を紹介します。

大手金融機関ではTLPTの導入が進んでいる一方、地域金融機関ではまだ十分に普及しているとは言えません。そこで金融庁は、地域金融機関を対象にTLPTの実証事業を実施しています。

本事業では、次の取り組みを通じて地域金融機関全体のサイバーセキュリティ強化を支援しています。

  • 地域金融機関におけるTLPTの実施と効果検証
  • 共通する脅威情報の収集と共有
  • 脆弱性情報の収集と共有

TLPTは、金融機関がサイバー攻撃から身を守るための、より実践的かつ効果的なセキュリティ対策です。

参考:金融庁におけるサイバーセキュリティに関する取組状況

TLPTに関する事例

金融庁では、TLPTを実施した経験のある一部の銀行から事例を収集し、主要な課題や好事例を分析・共有しています。

<好事例>

  • 一般的な脅威インテリジェンスだけでなく、自社固有の脅威インテリジェンスを導き出し、それを基にテストシナリオを設定している
  • ブルーチーム(防御側のチーム)に事前に予告せずにTLPTを実施することで、ブルーチームの対応力を適切に評価している
  • テスト結果に基づき、重要なリスクについて経営陣に適切に報告している

<よく見られる課題、特筆すべき課題>

  • テストの前提となる脅威インテリジェンスの導出が一般的な脅威情報の分析にとどまり、自社固有の脅威を考慮できていない
  • ブルーチームに事前にテストを予告してしまい、対応の正確な評価ができていない
  • テスト結果のうち、重要なリスクが経営陣に適切に報告されていないケースがある

このように、TLPTの実施においては、自社固有の脅威に基づくシナリオの作成や、事前予告なしのテスト実施、そして結果の適切な報告が重要な要素となります。

参考:金融庁におけるサイバーセキュリティに関する取組状況

TLPTとASM(アタックサーフェスマネジメント)の関係

TLPTとASMの関係について、ASMの基本概念とTLPTに与える影響の2つに分けて紹介します。

ASMの基本概念

ASMは、企業の外部に公開されているアクセス可能なIT資産を管理し、潜在的な脆弱性を特定するための手法です。ASMはTLPTと補完関係にあり、攻撃面の明確化を通じて、より効果的なセキュリティ対策を可能にします。

TLPTに与える影響

TLPTとASMは、セキュリティ対策においてお互いを補完する関係にあります。TLPTが「実際の攻撃シナリオをもとに組織の防御力を評価する手法」である一方、ASMは「外部に公開されているIT資産を洗い出し、潜在的な脆弱性を可視化する手法」です。両者を組み合わせることで攻撃面を明確に把握し、より効果的なセキュリティ対策が可能になります。

ASMツールについて詳しく知りたい方は以下の記事もご参照ください

ASM(Attack Surface Management)とは? ~必要性から運用方法まで解説~

『MS&ADサイバーリスクファインダー』なら、ASMの初回診断を無料でお試しいただけます

まとめ

TLPTは、攻撃者の視点から企業のセキュリティを評価・強化するための効果的な手法です。これにより、潜在的な脆弱性を発見し、攻撃に対する防御力を向上させることができます。ASMと組み合わせれば、企業全体の攻撃面を把握しやすくなり、優先度の高い脆弱性から効率的に対処できるため、リスクを効果的に軽減することが可能です。

TLPTの導入は単なる技術的な評価にとどまらず、企業全体のセキュリティ意識を向上させる効果もあります。攻撃者の視点を取り入れた評価は、社員にセキュリティの重要性を深く認識させ、日々の業務における対応力の向上に貢献します。また、経営層にとっても、リスクの明確化と適切な対策を判断するための重要な情報を提供します。

サイバー攻撃が高度化する中で、TLPTは企業の安全性を確保し、持続的な成長を支える不可欠な要素です。これを活用し、セキュリティの向上を通じて企業の未来を守りましょう。

会員登録でリスクマネジメントがさらに加速

会員だけが見られるリスクの最新情報や専門家のナレッジが盛りだくさん。
もう一つ上のリスクマネジメントを目指す方の強い味方になります。

  • 関心に合った最新情報がメールで届く!

  • 専門家によるレポートをダウンロードし放題!

  • お気に入りに登録していつでも見返せる。