コラム/トピックス

人権方針改定チェックリスト:UNGPs・OECDに照らして確認すべき実務ポイント

2026.8.21

人権方針を改定する際、他社の方針やテンプレートを確認するだけでは、十分な見直しにならないことがあります。重要なのは、国際基準に照らして必要な要素を確認しつつ、自社の人権デュー・ディリジェンス(以下、人権DD)、調達、苦情処理、教育、情報開示などの実務とつなげることです。

本記事では、UN Guiding Principles on Business and Human Rights(UNGPs、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」)とOECDのデュー・ディリジェンスの考え方を踏まえ、人権方針改定時に確認したいポイントをチェックリスト形式で整理します。

この記事の要点

人権方針は、企業の基本姿勢を示すだけの対外公表文ではありません。UNGPs上は、企業が人権尊重責任を果たすための方針コミットメントとして位置づけられます。

改定時には、最上級レベルでの承認、内外の専門性、従業員や取引先への期待、社内外への伝達、業務上の方針・手続への反映を確認することが重要です。

また、OECDガイダンスの観点からは、人権方針が人権DDの出発点として機能し、リスク評価、予防・軽減、追跡、情報開示、救済とつながっているかを確認する必要があります。

1. UNGPs原則16は人権方針に何を求めているか

UNGPs原則16は、企業の人権方針について、少なくとも次のような要素を求めています。

  • 企業の最上級レベルで承認されていること
  • 関連する内外の専門性に基づいていること
  • 従業員、取引先、その他事業・製品・サービスに直接関連する関係者に対する期待を示していること
  • 社内外に伝達されていること
  • 企業全体に組み込むために必要な業務上の方針・手続に反映されていること

重要なのは、人権方針が単なる担当部署の文書ではなく、企業としてのコミットメントを示すものだという点です。法令確認だけでなく、人権DD、労働、人事、調達、苦情処理、ステークホルダー対応などの実務的な観点も重要になります。

また、誰に対して、どのような行動を求めるのかが曖昧な方針では、運用につながりにくくなります。ウェブサイトに掲載するだけでなく、研修、社内説明、取引先への案内などを通じて、関係者に伝わる形にする必要があります。

2. ILOの基本原則や国際的に認められた人権との関係

UNGPsでは、企業が尊重すべき人権は、少なくとも国際人権章典と、ILOの労働における基本的原則及び権利に関する宣言に示された権利を含むものと理解されています。

そのため、人権方針の改定では、強制労働、児童労働、差別、結社の自由・団体交渉権、安全衛生、ハラスメント、労働時間、賃金、移民労働者の保護など、自社の事業やサプライチェーンに関係し得る労働人権課題をどのように位置づけるかも確認が必要です。

すべての課題を詳細に列挙すればよいわけではありません。重要なのは、自社にとって重大な人権リスクを把握し、それに対応する考え方が方針と実務の双方に反映されていることです。

3. OECDガイダンスから見る、人権方針と人権DDの接続

OECDの責任ある企業行動に関するデュー・ディリジェンス・ガイダンスは、企業のDDを一連のプロセスとして整理しています。主な流れは、方針とマネジメントシステムへの組み込み、負の影響の特定・評価、防止・軽減、実施状況と結果の追跡、情報開示、救済への協力です。

この観点から見ると、人権方針は人権DDの出発点です。単に「人権を尊重します」と記載するだけでなく、どのようなリスクを特定し、どの部署が判断し、どのように防止・軽減し、結果をどう追跡し、必要に応じて救済につなげるのかを、社内の仕組みと接続していく必要があります。

4. 人権方針改定時のチェックリスト

人権方針を改定する際には、少なくとも次の観点を確認すると整理しやすくなります。

  • 方針が取締役会、経営会議など企業の最上級レベルで承認されているか
  • 改定手続、責任部署、関係部門の役割が明確か
  • UNGPs、OECDガイダンス、ILOの基本原則、日本政府ガイドライン等へのコミットメントが適切に示されているか
  • 従業員、グループ会社、取引先、サプライヤー等への期待が具体的に示されているか
  • 人権DDの実施、リスク評価、予防・軽減、追跡、情報開示とのつながりがあるか
  • 苦情処理・救済メカニズムについて、窓口の存在だけでなく、実効性を意識した記述になっているか
  • 適用範囲、対象範囲など明確か(自社、子会社、サプライヤーといった用語の定義など)
  • サプライヤー行動規範、調達基準、契約上の要請、教育研修との整合性があるか
  • ステークホルダーや影響を受ける人々の視点を取り入れる考え方があるか
  • 過去数年間の人権DD実務で見えてきた課題が反映されているか
  • 重大事案、法規制・ガイダンスの変化、事業環境の変化、一定期間の経過などを契機とする見直しの考え方があるか

このチェックリストで多くの項目に不安がある場合、人権方針の文言だけでなく、関連する運用や社内体制も含めて確認することが有効です。

5. よくあるつまずき:方針の文言と実務がつながらない

人権方針の改定でよくあるのが、文言としては整っているものの、実務との接続が弱いケースです。

たとえば、方針に「サプライチェーン全体で人権尊重に取り組む」と記載していても、実際には一次サプライヤーへの調査にとどまり、リスクの高い地域や品目に応じた対応が整理されていない場合があります。

また、「苦情処理メカニズムを整備する」と記載していても、誰が利用できるのか、どのように周知するのか、報復を防ぐ仕組みがあるのか、是正や救済につながるのかが明確でない場合もあります。

人権方針を実効的なものにするには、美しい文言を追加するだけでなく、自社の既存の取組を棚卸しし、足りない部分を現実的に整備していくことが重要です。

6. 弁護士と人権DDコンサルには、それぞれ役割がある

人権方針の改定では、法務の観点が重要になる場面があります。契約条項、各国法令への適合性、訴訟・行政対応リスク、開示文書としての表現リスクなどについては、弁護士等の法務専門家に相談すべき場合があります。

一方で、人権方針がUNGPsやOECDガイダンスの考え方に照らして十分か、人権DDプロセスと整合しているか、救済メカニズムやサプライヤーエンゲージメントにどうつなげるか、社内規程や運用にどう落とし込むかといった論点は、人権DD実務に詳しいコンサルタントの支援が有効です。

弁護士と人権DDコンサルにはそれぞれ役割がある

つまり、「法的に問題のない文言か」を確認することと、「人権尊重体制として機能する方針か」を確認することは、重なり合いながらも異なる視点です。必要に応じて、法務レビューと人権DD実務レビューを組み合わせることで、より実効性の高い改定につながります。

当社が支援するのは、法的助言ではなく、人権DD、国際ガイダンス、社内運用、サプライヤー対応、救済メカニズム等との整合性を確認する実務面のレビューです。

7. 相談前に整理しておくとよい情報

人権方針の改定やレビューを相談する際には、機密資料を最初から共有する必要はありません。まずは、公開済みの人権方針、現在の検討状況、見直しの背景、課題感を整理するだけでも、初期的な論点整理は可能です。

  • 人権方針を策定または改定した時期
  • 見直しを検討している理由
  • 取引先や投資家からの説明要請の有無
  • 人権DD、サプライヤー対応、苦情処理制度の整備状況
  • 役員会提出、社内承認、ウェブ掲載などの予定時期
  • 特に不安に感じている論点

初回相談の段階では、公開情報や概要ベースで十分です。必要に応じて、守秘義務や情報管理の条件を確認したうえで、詳細資料を扱う形が望ましいでしょう。

まとめ:人権方針改定は、DD体制を前に進める機会

人権方針の改定は、単なる文言修正ではありません。UNGPsやOECDガイダンスに照らして、自社の人権尊重体制が現在の事業やリスクに合っているかを確認する機会です。

既存の人権方針が、人権DD、サプライヤー対応、苦情処理・救済、教育、情報開示と十分につながっていない場合、改定を通じて体制全体を整理することができます。

※本記事は、人権方針や人権DD実務に関する一般的な整理であり、法的助言を目的とするものではありません。個別の法的判断が必要な場合は、弁護士等の専門家にご相談ください。

MS&ADインターリスク総研では、公開済みの人権方針や現在の取組状況をもとに、UNGPs、OECDガイダンス、日本政府ガイドライン等の観点から、人権方針の見直し、改定案レビュー、人権DD体制との整合性確認を支援しています。

人権方針の改定やレビューを具体的に検討されている企業のご担当者さまは、お気軽にご相談ください。

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