中国・反スパイ法改正を踏まえた企業の危機管理を考える
2024.3.23
危機管理には司法解釈や実務動向の継続的情報収集も重要
中国は2023年4月26日、スパイ行為を摘発する「反スパイ法」を改正しました。改正法ではスパイ行為とみなす対象を拡大し、取り締まりを強化しています。改正法は2023年7月1日に施行されました。報道などによると、2014年に反スパイ法が施行されて以降、少なくとも17 人の日本人が中国当局にスパイ容疑で拘束されており、懲役刑を受けるケースも出ています。23年3月には製薬会社の幹部社員がスパイ容疑で拘束されたことが判明するなど、中国に拠点を置く企業にとって無視できないリスクとなっており、関心が高まっています。
現行法ではスパイ行為について「国家秘密」の提供と定めていますが、改正法は「国家の安全と利益に関わる文書、データ、資料、物品」の提供や買収に拡大しています。「国家の安全と利益」の定義は明示されておらず、運用面についても不明な点が多くあります。
企業は、どのような行為がスパイ行為とみなされるおそれがあるのか、弁護士や外部機関等から今後の司法解釈や実務動向について継続的に情報を収集することが必要です。そのうえで、自社の事業活動においてスパイ行為とみなされるリスクがないかを適宜確認し、留意事項を従業員に対して周知していくことなどが必要といえます。
注意すべき主な行為と注意点を認識して、危機管理のレベルを引き上げる
- 中国政府の情報等の流出
- 中国政府の国家秘密・情報を持ち出したり、国外の組織に提供したりするだけでなく、国家秘密・情報に属する文書等を保有するだけでも処罰されるおそれがあります。
- 中国国内では誰でも入手可能な中国政府の情報であっても、国外への持ち出しや国外組織へ提供することが「国家安全危害罪」とされ、処罰されるおそれがあります。
- また、地図(手書きのものを含む)を所持しているだけでスパイ行為とみなされるおそれもあります。
- 写真の撮影
- 「軍事禁区」や「軍事管理区」と表示された軍事施設は、軍事施設保護法により、無許可の立ち入りや撮影等が禁止されています。
※撮影だけでなく、録音やスケッチ、記述等も取り締まりの対象 - 中国における「軍事施設(軍事管理区)」は範囲が広く、ダムや鉄道橋といったインフラや、刑務所等の公安関連施設、人民解放軍が運営する病院や退役軍人のための住宅も含まれるため、特に注意する必要があります。
- 一般市民や少数民族等による街頭デモなどの政治活動を写真撮影し、警察官からデータ削除を求められたり、記録媒体を取り上げられた例があります。
- 「軍事禁区」や「軍事管理区」と表示された軍事施設は、軍事施設保護法により、無許可の立ち入りや撮影等が禁止されています。
- 中国国内での調査活動
- 「測絵法」により、無許可のまま国土調査等を行うことは違法とされています。GPS を用いた測量、地質調査、生態調査、考古学調査等に従事して地理情報を窃取した場合、「国家安全に危害を与えた」として、拘束されるおそれがあります。
- 「統計法」では外国人による無許可の統計調査を禁止しています。学術的なサンプル調査(アンケート用紙配布等)を実施する場合であっても、調査行為が法律に抵触することがあるため、共同調査を実施する中国側機関との十分な打ち合わせが必要です。
- 活動内容が「調査」や中国人からの「情報収集」に該当する場合は、細心の注意が必要です。
- 政治活動
- 政治的とみなされる外国人の集会や行進、示威的な活動等を行うことは厳しく制限されています(集会遊行示威法)。これらの活動に参加し、公安局等主管機関の関係法令等に違反した場合、活動の種類や程度によって処罰されます。
- 集会等の開催
- 中国では集会の開催が厳格に規制されており、特に外国人による集会の開催は強く警戒されます。
- 50人以上の集会の開催は公安局(派出所)への届け出が必要であり、規模によっては公安の上級機関において許可を取得する必要があります。
- 50人未満であっても、外国人が定期的に集まっているだけで監視対象となり、仮に中国の政府体制や社会秩序に反する活動(反政府集会、非合法宗教集会等)とみなされた場合には、関連法令によって取り締まりの対象となるとされています。
- 通信機器の使用
- 携帯電話やパソコンといった通信機器については、盗聴されている可能性もあることを認識し、WeChat等のSNSの他、電子メールのやり取りについても、同様な状況にあることを意識して利用することが必要です。
(外務省「中華人民共和国(中国) 安全対策基礎データ 注1)」記載内容を基に弊社にて作成)
注)
1)外務省「中華人民共和国(中国) 安全対策基礎データ」
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcsafetymeasure_009.html
※本記事は、2023年7月3日発行のMS&AD InterRisk Report・ESGトピックス「反スパイ法改正を踏まえた企業の対応」を再編集したものです。