コンサルタントコラム

苦情対応の重要性~企業経営に大きなダメージを与えかねないリスク

2024.3.28

なぜ苦情対応が重要なのか? 苦情は、リスクであり、有用な経営資源でもある

苦情対応に関する国際規格、ISO10002/JISQ 10002:2005「品質マネジメント-顧客満足-組織における苦情対応のための指針」では、「苦情」は以下の定義とされています。

「3.2 苦情(complaint):製品又は苦情対応プロセスに関して、組織に対する不満足の表現で、その対応又は解決が、明示的又は暗示的に期待されているもの。」

実際には、企業各社は自社の事業内容に則して苦情を定義し、取組みを実施していますが、ここではそのような苦情に端を発するリスクを苦情対応リスクとして、以降で詳しく解説することとします。

一般的に、苦情対応リスクは、予想される発生頻度は高いが損害の程度が小さいために、リスクとして軽視されがちです。しかし、苦情への対応や判断を誤ることにより、それが広く世間の知るところとなり、企業の信用失墜やブランドイメージの低下につながることもあります。これは風評リスクと呼ばれ、目に見える直接的な損害ではありませんが、例えば売上げの減少等、様々な側面から企業経営に大きな影響やダメージを与えかねないものでもあります。

また、一方で、苦情には自社の製品・サービスに対する改善や品質向上に資する有用な経営資源としての側面もありますので、適切な苦情対応体制の確立は企業経営にとって重要な取組みです。このようなリスクの性質に鑑み、企業の苦情対応に関する取組方針・取組内容・資源投入等について、経営トップがしかるべき意思決定を行うことが肝要です。

苦情対応と風評リスク

苦情には様々な形態がありますが、中でも最もリスクが大きいと考えられるのは、風評リスクを伴う形態です。

企業の風評リスクは様々な事故や事件によって顕在化しますが、苦情の対応を誤った場合も例外ではありません。ここでいう風評リスクとは、「世間の評判により、企業イメージやブランドイメージが失墜し、企業経営に売上減少等の何らかのダメージが発生する可能性」を言います。

風評リスクは一般的に、世間が注目するような大事故や事件によって甚大な直接損害が発生する場合に、同時に顕在化することが多いです。しかし、たとえ損害の小さな苦情の場合でも、企業側の対応の失敗により風評リスクが顕在化する場合もあります。加えて、当初の苦情対応のみならず、その後の継続的な失敗や経営トップの判断の誤りが重なることにより、さらに損害は拡大していきます。

また、同リスクは、それ以外のリスクに比べ、リスクの大きさ、すなわち予想される損害の発生頻度や発生規模が予想しにくいものですが、企業経営に確実なダメージを与えるため、その対応にどれだけの資源を投入すればよいかの判断が難しいうえに、リスクが顕在化した後の対応は困難を極めます。

このような風評リスクが増大する背景には、次のような事情があります。

  1. マスコミ報道の風潮
    企業の事件や不祥事は国民の関心が高く、報道に際して必要以上にセンセーショナルに取り扱う傾向があります。そのため、弱者保護の動きが強まる一方で、強者である企業は非難の標的になりやすいとされています。
  2. インターネットおよびSNSの普及
    インターネットやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス。個人間のコミュニケーションを促進してネットワークの構築を支援する、インターネットを利用したサービス。)の普及により、場所や時間に制約されず、個人が自由に情報を受信・発信することが可能となりました。その他にも、インターネットやSNSは以下のような特性をもっています。
    • 特定の個人による発信が即座に世界中に伝達される。
    • 匿名での発信が可能な場合が多く、また媒体の情報統制がなされにくいこともあり、必要以上に批判的なコメントが掲載される傾向がある。
    • 最初の発信に対して、発信者以外の第三者が事実とは異なる書き込みを行うことが可能。
    • 一度掲載された内容は、複製・拡散が可能であるため完全に削除することが困難。

※本記事は、書籍「実践リスクマネジメント要覧」の内容を再編集したものです。

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