コラム/トピックス

危機管理トレーニングでインシデント対応力を強化する

2024.4.3

効果的な危機管理トレーニングをどう設計するか?

インシデント発生に備え、各種の規程やマニュアル類を整備し、ルールの実効性を確保するため、危機発生時を想定したトレーニングを実施する企業が増えています。しかし、トレーニングを通じていかなる効果を得たいのかを明確にしないままトレーニングを実施したため、十分な効果が得られていないと思われるケースも散見されます。効果的なトレーニングを実施するうえでは、以下のような点に留意することが必要です。

  1. 企画・準備段階
    トレーニングの効果は、特に企画・事前準備で大きく左右されるため、以下の点に注意が必要です。
    • 解決すべき課題(弱み)を棚卸する
      実際の危機発生時の対応においては、「事実確認→情報共有化→意思決定→対策実行→情報開示」の一連の流れをいかに適切に行うことができるかが問われます。
      過去のトレーニング結果等を踏まえ、危機発生時の対応のどのプロセスに課題(弱み)があるのか明確にすることが出発点です。

      課題(弱み)の例
      • 対策本部事務局が、客観的な事実と推定を整理できていないため、対策本部メンバーが正確な事実を根拠に、適切な判断・指示ができない。
      • 時系列での情報整理や論点整理が不十分なため、関係者間で正確かつ迅速な意思疎通ができない。
      • 自社の講じるべき対策を、ステークホルダー(利害関係者)別に検討しないため、抜け漏れが生じる。
      • リリース文書に盛り込まれている情報量が少ないため、記者会見時におけるスポークスパーソンの補足説明や質疑応答の負荷が大きくなる。
      • 危機発生時の広報対応におけるスポークスパーソンの基本的動作が不適切なため、記者の心証を害し、敵対的質問を誘発してしまう。

    • 課題(弱み)を踏まえた有効なトレーニング手法を検討する
      自社の課題(弱み)を踏まえ、効果的な手法を検討する。主なトレーニング手法例は以下のとおりです。
      • ケーススタディ型のトレーニング:他社で実際に発生した事件・事故事例等について、当該事例における企業の対応にどのような問題点があるか、本来どうすべきであったかなどを、協議検討するもの
      • To Do 確認型のトレーニング:自社で事件・事故が発生したという設定でシナリオを準備し、関係部署が、既存の規程・マニュアル等に照らし、自ら対応・判断すべき事項(To Do)を洗い出し、確認するもの
        ※シナリオ上の当事者として自ら参画し、求められる対応を検討する点で、上記ケーススタディ型のトレーニングと異なります。
      • 疑似体験型のトレーニング:危機発生を想定し、経営トップ以下の関係者が適切な情報収集、意思決定、対応指示、外部への情報開示(記者会見等)を行なうことができるようにシミュレーション形式でのトレーニングを行い、実践力を検証するもの

    • 精度の高いトレーニングシナリオを作成する
      トレーニングの効果を高めるため、事件・事故の原因、責任の所在(法的責任、道義的責任の有無)、被害者をはじめ各ステークホルダーへの対応などに関し、危機発生時において検討すべき重要な論点が一通り盛り込まれ、かつ経営層が意思決定に悩むであろう設定を盛り込むことが必要です。例えば、事件・事故の原因について、自社に100%過失のあるシナリオ設定にしてしまうと、謝罪対応以外なす術がなくなってしまいます。様々な選択肢について議論が及ぶよう、自社以外の第三者の関与があるなどの設定にしておきます。

    • 参加者向け事前説明会を実施する
      参加者が趣旨目的を理解しないままトレーニングに参画することのないよう、参加者向け事前説明会を開催し、トレーニングの狙い、実施内容、評価ポイント等を十分に理解させます。

  2. 実施段階
    いかに企画準備段階で入念に検討したとしても、トレーニング実施中において、「参加者がトレーニングの趣旨目的を十分に理解しないまま進行している」「重要性の高い論点について議論がなされていない」「1つの論点について議論が集中し、論点を網羅的に検討できず、時間切れになってしまう」などの事態に陥ることはありえます。トレーニングの効果を確保するため、重要論点に議論を誘導するなど、運営事務局が適切なコントロール機能を果たすことが必要です。

  3. 実施後段階
    トレーニングを通じて明らかになった課題・問題点を今後の改善に向けて活かすために、終了後、参加者の意見交換会を実施し、気づきを共有したうえで、改善に向けた取組みにつなげる機会を設定します。効果的なトレーニングを実施するうえでは、上記のような各段階で注意すべきポイントを漏れなく押さえることが必要です。その際、上記のような一連のポイントを要領よく押さえるためには、自社単独での検討では限界があるため、外部専門家等を交え、十分な時間をかけて企画・準備をすることが得策です。

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