コラム/トピックス

コンプライアンス遵守の風土を作る ~社内不正を防ぐためにすべきこと

2024.4.8

社内不正を防止するためには、「不正のトライアングル」の3つの社内不正リスク要因を低減・抑制することが有効です。3つの社内不正リスク要因のうち、「機会」については、企業による直接的な関与が可能です。しかし、「動機」と「正当化」については、不正を犯そうとしている人物の主観に依る部分が大きいため、企業としての対策は間接的な影響を与えるにとどまっています。

そのため、社内不正リスクへの対策を講じる際には、「機会」を低減する対策に焦点が当たりがちです。しかし、「機会」は低減することは可能ですが、完全にゼロにすることは困難です。業務プロセスにおける管理・監視体制を強化する場合、業務の効率性や従業員のモチベーションへの悪影響にも十分配慮する必要があります。そのため、社内不正リスクの顕在化を防ぐためには、3つの社内不正リスク要因に対し総合的に対策を実行することが重要となります。

そこで、以下では3つの社内不正リスク要因を低減・抑制する対策のポイントを解説します。

「動機」の抑制

不正の動機は、不正を犯そうとしている人物の主観に大きく依存します。しかし、職場環境の整備等により、間接的ではありますが、不正の動機を抑制することができます。動機の発生原因の3類型ごとに、対策のポイントを整理しました。

  • 類型1:プレッシャー型への対策
    プレッシャーを与えない環境づくり
    上司の言動は、部下に大きなプレッシャーを与える原因となりやすいです。目標を設定する際には、その実現可能性に留意する必要があります。また、「絶対にミスはするな」といった指示は、かえってミスが発生した際にそれを隠そうとする考えにつながりやすくなります。業務上完全にプレッシャーを除くことは不可能ですが、上司は自身の言動が部下にどのような影響を与えるか、日頃から意識する必要があります。

  • 類型2:インセンティブ型への対策
    懲罰規程の整備・周知
    何らかのインセンティブを求めて不正を行おうとする者に対しては、「不正を行っても割に合わない」「不正を行うとかえって損をする」と認識させる必要があります。懲罰規程を周知する過程で、不正を実行した者は断固として許さないという企業の姿勢を従業員に伝えることが重要です。

  • 類型3:不満・報復型への対策
    公平な人事評価スキームの整備と徹底
    人事評価への不満は、不正の動機へとつながりやすいです。公平な人事評価を心がけるとともに、人事面接においては、部下の意見に真摯に耳を傾けることも重要です。

不正の「機会」を低減する

機会の低減において最も重要なことは、自社内に存在する不正の機会を洗い出し、その過程に「内部牽制」などの適切な低減策を織り込んでおくことです。以下に、不正の機会を洗い出す際に、注意すべき業務・プロセスの特徴を挙げます。

不正の機会の洗い出しにおいて、注意すべき業務・プロセスの特徴

  • 手作業が多い
  • 承認・決裁のルールがない、またはそれらが機能していない
  • 業務の専門性が高い
  • エビデンス(証拠)を追跡できない
  • 例外的なフロー・プロセスが存在する
  • ある特定の従業員に権限が集中している
  • 海外など、物理的に離れた場所で業務が行われている

「内部牽制」とは「職務の分担」を仕組みとして取り入れることであり、通常の業務過程において1人の担当者がすべての業務を行うことのないような仕組み(複数の担当者で分担してチェックする仕組み=牽制)を作ることです。具体的には、「職務の分担」として、取引の承認、取引の記録、資産の保全の責任を別の者に割り当て、それぞれが連携をもつようにします。

「正当化」の抑制

不正の正当化についても、不正の動機形成と同様に不正を行おうとする者の内面で行われるため、企業としては間接的な対策を講じることとなります。ここでは、「正当化」の抑制のポイントを紹介します。

  1. どのような行為が不正にあたるのか従業員等に認識させる
    不正行為に該当するかの線引きが明確でない場合、「この行為は不正にはあたらないだろう」と勝手な判断をさせる余地を与える可能性があります。例えば、情報漏えいへの正当化を防止するためには、どのような情報が機密情報(営業秘密や個人情報等)にあたるのかについて周知しておくことも必要です。

  2. 従業員等の倫理観を向上させるための研修・教育を実施する
    コンプライアンス研修や行動規範についての教育の効果は時間の経過とともに低減するため、定期的に実施することが肝要です。また、研修・教育は管理職からアルバイトまで、すべての従業員を対象とすることも重要です。

  3. 整備したルールを形骸化させることなく運用する
    不正を防止するルールが存在しても、上司や同僚が日常的にそのルールから逸脱している場合、「みんなやっているのだから、自分もルールを遵守する必要はない」という正当化の理由を与えることとなります。軽微なルール違反であっても放置せずその場で正すといった職場環境を整えることが重要です。

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