コラム/トピックス

TNFDのLEAPアプローチの活用イメージ① 三井住友海上「駿河台緑化プロジェクト」の事例

2024.4.11

企業や金融機関が自然に関連する組織のリスク・機会を把握し、その適切な管理および情報開示を行うフレームワークの構築と主流を目指すTNFD。TNFDは2022年6月、企業や金融機関が自然関連のリスク・機会について管理および情報開示するためのフレームワークのベータ版v0.2を公開しました。

このシリーズ記事では、TNFDベータ版v0.2で追加された内容や、LEAPアプローチの活用方法を具体的に例示することを目的に、MS&ADグループの事業会社である三井住友海上が実施した「駿河台緑化プロジェクト」の取組実績をLEAPアプローチに沿って、3回に分けて整理を行います。

TNFDフレームワークについて

TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures;自然関連財務情報開示タスクフォース)は、企業や金融機関が自然関連のリスク・機会について管理および情報開示をするためのフレームワークの構築を進めるイニシアティブであり、2022年6月28日にはフレームワークの2回目のベータ版(1)(以下、「ベータ版v0.2」)を公開しました。ベータ版v0.2では、2022年3月15日に公開された初のベータ版(v0.1)(2)の内容をベースに、特に自然に対する影響や依存関係の評価や、目標と指標の設定などに関するガイダンスが盛り込まれました。

TNFDが目指すのは、企業や金融機関が自然に関連する組織のリスク・機会を把握し、その適切な管理および情報開示を行うフレームワークの構築と主流化です。TNFD設立の背景の詳細や、ベータ版v0.1の内容の詳細については、RMFOCUS vol.82に掲載の「TNFDフレームワーク ベータ版を踏まえて企業が取るべき対応」(3)を参照していただきたいですが、本記事でもその概要を簡潔に説明します。

TNFDの開示提案(草稿版)はTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures;気候関連財務情報開示タスクフォース)の4つの柱、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標に沿って作成されています。ポイントは、TCFDと異なる推奨事項として「ロケーションベース」での検討を盛り込んでいることです。これは、自然関連リスク・機会は、気候関連リスク・機会とは異なり、企業による特定の場所における自然への依存関係・影響によって生じるという認識に基づいたもので、自然はロケーションによってその特性が異なり、企業による自然への依存関係や影響の重大性や意味合いが異なるという考え方が基盤となっています。

このロケーションベースでの評価の手引きとして提案されているのが、LEAPアプローチです。LEAPは、企業が自然との接点を発見し(Locate)、依存関係と影響を診断し(Evaluate)、リスクと機会を評価し(Assess)、開示への対応を準備する(Prepare)ための実践的ガイダンスです。ここまでが、ベータ版v0.1で公開されていた主な内容です。

TNFDフレームワークのベータ版v0.2の公開と本記事の目的

ベータ版v0.2では、先述した通り自然に対する影響や依存関係の診断や、目標と指標の設定などに関するガイダンスなどが盛り込まれました。また、2022年7月1日から2023年6月1日の期間に実施する、ベータ版フレームワークのパイロット実証に向けて、参加企業向けの実用的なガイダンスも公開されました。このことにより、企業や金融機関がLEAPアプローチに沿った試行をしやすくなっています。

そこでこの記事では、ベータ版v0.2で追加された内容や、LEAPアプローチの活用方法を具体的に例示することを目的に、「駿河台緑化プロジェクト」の取組実績をLEAPアプローチに沿って整理しました。「駿河台緑化プロジェクト」とは、三井住友海上火災保険株式会社(以下、「三井住友海上」)の三井住友海上駿河台ビル(以下、「駿河台ビル」)および駿河台新館(以下、「新館」)の緑地を主な対象として行われてきた事業です。LEAPアプローチの適用は、特に今回のアップデートで強化されたLocate:発見とEvaluate:診断について検討を行いました。

なお、「駿河台緑化プロジェクト」は、MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社(以下、「MS&ADグループ」)の事業会社としての取り組みの一つですが、企業向けのLEAPを後述の通りプロジェクト単体に対しても適用することが可能です。しかしながら、同プロジェクトは本業の金融サービス活動と比較して限定的であり、MS&ADグループのリスク評価としてこの整理を実施したものではないことに留意下さい。

駿河台緑化プロジェクトについて

三井住友海上の駿河台ビルおよび新館には、生物多様性の保全や普及啓発の拠点として整備され、現在も継続して保全管理が行われている緑地および環境コミュニケーションスペースが存在しています(4)。駿河台ビルは1984年に竣工し、地域との共存共栄を基本方針とし、屋上庭園に加え近隣と遮断する外壁を設けず樹木を活用した開放的な外構のデザインを取り入れ、当時から緑化率4割を超えていました(表1)。当時の企業による屋上庭園や緑化の取り組みの先駆けでしたが、生物多様性という概念がまだ存在していなかった時代であり、庭園としての整備と維持管理がなされていました。

2003年には、緑地を含む駿河台ビルにおける社会的価値向上を目的とする「駿河台緑化プロジェクト」が立ち上がり、MS&ADインターリスク総研株式会社も参画してきました。2007年からは、新館の建て替えに伴う再開発の検討が開始され、駿河台ビルと新館を生物多様性の保全と普及啓発の拠点として再整備する検討が進められ、2012年には新館が竣工しました(表1)。

この際、駿河台ビルと新館の緑地を、皇居や不忍池をつなぐエコロジカル・ネットワーク(注1)の形成に貢献する「鳥の駅」にするというコンセプトの下、目標とする緑地の状態、誘致目標種などを定め、目標達成に向けた植栽材料選定基準、順応的管理や、進捗を管理するためのモニタリング体制が整えられました。新館にはECOMという環境コミュニケーション施設が設置され、ハード面のみではなくソフト面からも緑地の社会的価値の向上と生物多様性の普及啓発を目指してきました。

【表1】三井住友海上駿河台ビルと駿河台新館の竣工と緑化面積(2022年4 月現在)
※MS&ADインターリスク総研作成

この駿河台緑化プロジェクトに対しLEAPアプローチを適用するにあたって、2012年に竣工した新館の建設の段階(以下、「新館建設段階」)と、新館建設後のオペレーションの段階(以下、「操業段階」)の二つのフェーズに分け、LEAPのLocate(発見)とEvaluate(診断)の手引きに沿って整理を行いました。

第2回、第3回の記事はこちらから

第1回となる今回の記事では、TNFDフレームワークや駿河台緑化プロジェクトについてお伝えしました。続く第2回では、LEAPのLocate(発見)の手引きに沿って、第3回では、LEAPのEvaluate(評価)フェーズに沿って、それぞれ駿河台緑化プロジェクトの取組実績を整理していきます。

【参考文献・資料等】
1)TNFD “The TNFD Nature-Related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.2” 2022.6
2)TNFD “The TNFD Nature-related Risk & Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.1” 2022.3
3)MS&ADインシュアランスグループ “RM FOCUS Vol.82” p.1-7 “TNFDフレームワーク ベータ版を踏まえて 企業が取るべき対応” 2022.7
4)三井住友海上ホームページ “駿河台の緑地”https://www.ms-ins.com/company/csr/environment/afforestation/(最終アクセス2022年9月5日)

注)
1)生態系の拠点の適切な配置やつながりのこと。その形成にあたっては核となる地域(コアエリア)および、その地域の外部との相互影響を軽減するための緩衝地域(バッファーゾーン)を適切に配置、保全するとともに、生物の分散・移動を可能として個体群の交流を促進し、種や遺伝的な多様性を保全するため、これらの生物の生息・生育地をつなげる生態的な回廊(コリドー)を確保することが基本である 参照:全国エコロジカル・ネットワーク構想検討委員会(2009)「全国エコロジカル・ネットワーク構想(案)」https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/econet/21-1/index.html(最終アクセス2022年9月5日)

本記事は、MS&ADインシュアランス グループがご提供するリスクマネジメント情報誌『RMFOCUS』83号( 2022年10月1日発行)の特集記事「TNFDのLEAPアプローチの活用イメージ~三井住友海上駿河台ビル緑地の事例~」を再編集したものです。

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