
高齢ドライバーは危険? ~自動車運転に関するアンケート調査から見える認知バイアスの罠
[このコラムを書いたコンサルタント]

- 専門領域
- 食糧安全保障、マイクロファイナンス、超高齢社会
- 役職名
- 基礎研究部受託調査グループ 主席研究員
- 執筆者名
- 新納 康介 Kousuke NIIRO
2025.4.8
MS&ADインターリスク総研は2024年11月、全国の日常的に自動車を運転している1,000人を対象に、「自動車運転に関するアンケート調査」を実施した。この調査では、高齢(75歳以上)ドライバーに対するイメージを尋ねたところ、「高齢ドライバーの運転が安全だと思う」と回答した人は8%にとどまった。一方で、「高齢者の危険な運転は直接見ていないが、ニュースなどを見て危ないと思う」と「高齢者の危険な運転を見たことがあり、危ないと思う」の回答を合わせると、8割以上が「高齢ドライバーの運転は危険」と回答している。
アンケート結果には回答者の高齢ドライバーに対する否定的なイメージが窺えるが、警察庁の統計によれば、年齢層別の免許保有者10万人あたりの交通事故件数では、16~19歳および20~24歳の層が65歳以上の層を上回っている。また、年齢層別の免許保有者全体の交通事故件数では、50~54歳の層が最も多いというデータもある。このように、アンケート回答者の持つイメージと実際の統計にはズレが見られる。
注目すべきは、「ニュースなどを見て高齢ドライバーは危ない」と回答した人が47%に上ったことである。本稿ではその原因として、「高齢ドライバーに偏った交通事故の報道」と「アンケート回答者の認知が歪んでいる」の2つの可能性について考察を行う。
まずは、回答者の情報源となる交通事故の報道について見てみる。なぜなら交通事故の報道に偏りがあると、一般の人々は交通事故の実態を正しく認識できないからである。筆者は今回、2023年1月に起きた死亡事故195件のデータと、同時期の死亡事故を報じた新聞記事94件の中から、事故を起こした運転者の年齢を抽出したデータを比較した。その結果、70歳以上のドライバーによる死亡事故の割合は事故統計で23.1%、新聞記事で19.1%と、交通事故の新聞報道が高齢ドライバーに偏っているという傾向はみられなかった。
したがって、アンケート回答者の歪んだ認知の可能性が浮上する。人は、直感、偏見、錯覚、思い込みなどにより、合理的には行動できないことが明らかになっており、このような心理現象を「認知バイアス」と呼ぶ。
認知バイアスの一つである「利用可能性ヒューリスティック」は、人が論理的思考を省き、思い浮かびやすい情報に基づいて、誤った判断を下す傾向を指す。アンケート回答者は、その認知バイアスの影響を受けて、過去に大きく報道された高齢ドライバーの事故のイメージだけで回答した可能性がある。
さらに、アンケート回答者には「確証バイアス」も影響している可能性がある。このバイアスは、自身の先入観や意見を強化する情報だけを重視し、それに反する情報を無視または排除する傾向を指す。そのため、「高齢ドライバーの運転は危険」という先入観を持ったアンケート回答者が中年層や若年層のドライバーによる事故の報道を無視または排除した可能性が考えられる。
このように、高齢ドライバーに対するイメージは、実際の統計からは乖離した形で定着している。確かに、高齢ドライバーは運転からの「卒業」を迎えており特別な注意が必要であるが、交通事故の統計データは、決して若年層や中年層が高齢層よりも安全であることを示していない。この点は広く知られる必要があると考える。
(2025年3月27日 三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)
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