ESGリスクトピックス(2026年1月)
2026.1.5
『ESGリスクトピックス』では、E(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)に関する国内・海外の最近の重要なトピックスをお届けします。
2026年1月のトピックス
自然資本
○ ISSB、自然関連開示基準策定を決定、2026年10月に公開草案を公表
国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2025年11月6日、自然関連リスク・機会を考慮した生物多様性・生態系・生態系サービス(BEES)調査の結果を踏まえ、投資家の共通情報ニーズを満たすための自然関連開示基準を策定する作業を開始することを決定した。自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フレームワークという民間主導の枠組みが基準に組み込まれる動きに大きく転換しつつあるといえる。
注目すべきは、ISSBがTNFDの枠組みを参照しつつ基準開発を進めると明言した点である。BEES調査では、自然関連リスク・機会に関する投資家向け情報開示に対応するため、IFRS S1を基盤としつつ、TNFDフレームワークを活用すべきと提言した。ISSBはTNFDの推奨事項や指標セット、LEAPアプローチを含む追加ガイダンスを参考にしつつ、投資家ニーズに応える開示を設計するとしており、実質的に、TNFDの成果をISSBという公的基準に取り込むことを意味している。
ISSBは、2026年10月に開催される生物多様性条約第17回締約国会議(CBD COP17)までに追加開示要件の公開草案(Exposure Draft)を公表し、2027年頃に完成させる計画とのことである。企業は、今後ISSBの動向を注視することになる。ISSBが公開草案を出せば、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)でも検討を開始することが想定される。将来的にISSBに基づいて自然関連開示が義務化される可能性を念頭に、今のうちからTNFD提言を活用して取り組みを進めることが推奨される。
【参考情報】
2025年11月7日付 ISSB HP
https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2025/11/issb-welcomes-tnfd-support-nature-related-disclosure/
自然資本
○ TNFD、「自然関連データ・パブリック・ファシリティ(NDPF)」の具体的な構想提示
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自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は2025年11月6日、市場関係者向けの自然関連データ・アクセス強化に向けて「自然関連データ・パブリック・ファシリティ(NDPF)」の運営青写真と今後の活動に向けた8つの提言をまとめた報告書を発表した。NDPFはオープンアクセス型の統合的な自然関連データベースで、市場規制当局等によって設定されている科学的データ基準、オープンデータ基準、企業報告データ基準に整合させ、自然関連データにおけるデータの信頼性を担保するものである。
データを集約するのではなく、「接続」型プラットフォームを想定しており、複数のデータ提供者のデータセットをNDPF上で参照・利用できるようにすることが中核案となっている。この中核案は、①ユーザーが活用する自然関連データアクセス性の向上と品質の確保、および②データ提供者(政府機関や科学機関、企業など)への持続的な資金供給の仕組みの構築を目的としている。利用対象は、TNFDのLEAPアプローチやThe Science Based Targets Network (SBTN)の目標設定、移行計画、開示・報告などの企業・金融機関のユースケースを想定している。
今回提示された8つの提言は、下表のとおりである。
<NDPFの今後の活動に向けた8つの提言>
| 1.自然データ原則の採用 | データ品質向上のための原則群を策定する。 |
| 2.共通メタデータ基準 | NDPFに接続されるデータ群の共通メタデータを提供する。
|
| 3.データライセンスと利用契 約の調和 |
現状では、ユーザーが各種データ活用のために個別契約が必要 となり、手間と時間を要している。 このユーザーが直面するアクセス性、コスト、契約の複雑さに 対処するため、データ提供および利用契約の調和を推進する。 |
| 4.自然関連データ・パブリ ック・ファシリティ (NDPF)の設立 |
自然関連の有用な中核的なデータへのオープンアクセスを提 供する。 |
| 5.企業のデータ提供インセン ティブ |
企業が独自に集めたデータ(環境影響評価(EIS)など)を公共 財に還流させる仕組み
|
| 6.国際自然データトラスト (Nature Data Trust)の創設 |
NDPFを運営し、資金配分や基準の実行を担う国際機関を創設 する。 |
| 7.自然測定プロトコルの開発 | 自然への依存・インパクトの共通指標と測定方法を整備する。 |
| 8.グローバルデジタルプロト コルの開発 |
バリューチェーン全体でのデータ共有を円滑にする規格を開 発する。 |
データ利用の料金モデルは、大規模企業・金融機関からの利用料で収益を得て、50人未満・年商200万USD未満のSME(中小企業)には無料で提供することを想定している。2040年までに1,200以上の有料ユーザーを想定している。
NDPFが2026年に開始した場合、3年目(2028年)に損益分岐点に達し、5年目(2030年)までにはデータ提供パートナーに総額年間3,000万米ドルのライセンス料を支払い、さらに国際自然データトラストが再投資するための年間200万米ドルの余剰資金を生み出すと予測している。
実際に一連のシステムを構築し、維持・発展していくための資金調達が可能かどうかなど、課題があることには留意する必要がある。しかし「世界的な公共財」として自然の状態や生態系サービスに関するデータの利便性を高め、データ収集者へ資金を循環させる新たな枠組みが実装されれば企業のリスク管理や投資判断の質向上、世界的なデータギャップの縮小に寄与し、ネイチャーポジティブ社会の実現の一歩となるであろう。
【参考情報】
2025年11月6日付 TNFD HP
https://tnfd.global/tnfd-release-recommendations-for-upgrading-nature-data-for-market-participants/
カスタマーハラスメント
○ 厚生労働省 カスタマーハラスメント対策の指針案示す
厚生労働省は2025年12月10日、「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)」を示した。2025年6月に成立し、2026年10月1日に施行予定の改正労働施策総合推進法では、事業主に対して職場におけるカスタマーハラスメント※ (カスハラ)への対策を義務付けており、本指針案は事業主が適切かつ有効な対策を実施できるよう必要な事項を定めたものである。本指針案は、意見募集を経て2026年2月に公表される見込み。事業主は同法の施行までに、指針の内容に照らして自社のカスハラ対策状況を確認し、しかるべき体制の整備と労働者への周知・啓発を行うことが求められる。
本指針案で示された事業主が講ずべき措置は以下のとおり。具体的な取り組み例や講ずることが望ましい措置等についても本指針案では示されているため、あわせて参照されたい。
<カスハラに対して企業が講ずべき措置の内容>
| 措置の項目 | 措置の内容 |
|---|---|
| (1)事業主の方針等の明確化 およびその周知・啓発 |
|
| (2)相談に応じ、適切に対応 するために必要な体制の 整備 |
|
| (3)カスハラに係る事後の迅 速かつ適切な対応 |
|
| (4)カスハラへの対応の実効 性を確保するために必要 なその抑止のための措置 |
|
| (5)上記の措置と併せて講ず べき措置 |
|
(厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)」https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001608226.pdf を基に当社にて作成)
※職場におけるカスタマーハラスメント
本指針案において、職場におけるカスタマーハラスメントとは、職場において行われる①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素をすべて満たすものと定義されている。
【参考情報】
2025年12月10日付 厚生労働省HP
https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001608226.pdf
サイバーセキュリティ
○ 新政府サイバーセキュリティ戦略、能動的防御と官民連携強化 AI・量子対応、人材育成などが柱
政府は2025年12月23日、サイバーセキュリティ基本法に基づく新たなサイバーセキュリティ戦略を閣議決定した。AIや量子技術の進展によりサイバー空間の重要性が増す一方で、サイバー攻撃の脅威も拡大している。能動的サイバー防御を可能にする「サイバー対処能力強化法」など関連法も今年5月に成立し、7月には内閣総理大臣を本部長とする新体制の戦略本部が発足した。本戦略案は意見公募を経て、12月8日のサイバーセキュリティ推進専門家会議の第三回会合で議論した後に確定した。政府は、本戦略に基づきサイバー空間の安全確保と社会経済の発展を目指す。
デジタル化が進展する社会において、サイバー空間は経済・安全保障の基盤となっている。一方、国家を背景とするサイバー攻撃は増加傾向にあり、重要インフラのみならず企業や個人にも甚大なリスクが及ぶ。政府は国家サイバー統括室を中心とした推進体制のもと、能動的サイバー防御※1の導入を本戦略に明記した。また、通信情報の収集・分析・活用を強化し、インシデント対応の高度化を図る。本戦略の基本理念は「自由、公正かつ安全なサイバー空間」の確保、情報の自由な流通、法の支配、開放性、自律性、そして多様な主体の連携という五つの原則であり、政府が積極的な役割を担う。
本戦略における施策は大きく三つの柱で構成されている。第一に、サイバー脅威への防御・抑止として、国家サイバー統括室を中心に官民・国際連携を拡充することである。新たな協議会の設立や脅威ハンティング、演習の体系化などで実効性を高める。第二に、社会全体のセキュリティ・レジリエンス向上。政府機関や重要インフラ、地方公共団体の対策水準を統一基準やISMAP※2で底上げし、サプライチェーン全体の強化(セキュリティ・バイ・デザイン※3、SBOM※4、JC-STAR※5など)を進めることである。中小企業支援や普及啓発、GIGAスクール構想※6の実現等による教育、サイバー犯罪対策も盛り込んだ。第三に、人材・技術エコシステムの形成である。サイバー人材フレームワークの策定・運用や教育・訓練の充実、国内技術・サービスの研究開発・育成、スタートアップ支援などを推進する。AIガバナンスや量子耐性暗号(PQC)への移行など、先端技術への対応についても明記した。
本戦略の推進体制は、全大臣が参加する戦略本部と各府省庁、司令塔の役割を果たす国家サイバー統括室によって構成される。官民・国際連携を積極的に進めることに注力し、年次計画や進捗検証、制度・法令の不断の見直しも実施する。政府は、重要インフラや行政サービスの安定運用、国民生活の安全確保、国家安全保障の強化、サイバー攻撃被害の未然防止、デジタル社会推進の基盤強化を図る。これらの取り組みの結果、民間に対して、被害リスクの低減、事業継続性の向上、サプライチェーン全体の信頼性確保、競争力強化、人材・技術開発によるイノベーション促進、最新脅威情報の迅速な入手と対応などの恩恵が期待される。
政府は本戦略の実行を通じ、世界最高水準のサイバーセキュリティ体制の構築と、経済社会の持続的発展、国民の安全・安心の実現を目指すとしている。
※1)外部からのサイバー攻撃について、被害発生前の段階から、その兆候に係る情報等の収集を通じて探知しその主体を特定するとともに、その排除のための措置を講ずることにより、国家・国民の安全を損なうおそれのあるサイバー攻撃の発生およびこれによる被害の発生・拡大の防止を図ること。
※2)Information system Security Management and Assessment Programの略称。政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(日本政府によるクラウドサービスのセキュリティ認証制度)。
※3)(Security by Design)システムやソフトウェア製品およびその機能が、後付けの対策ではなく、その企画・設計段階から安全(Secure)を考慮して開発する手法。
※4)Software Bill of Materialsの略称。ソフトウェアコンポーネントやそれらの依存関係の情報も含めた機械処理可能な一覧リストのこと。SBOM には、ソフトウェアに含まれるコンポーネントの名称やバージョン情報、コンポーネントの開発者等の情報が含まれる。また、SBOM を組織を越えて相互共有することで、ソフトウェアサプライチェーンの透明性を高めることが期待されており、特に、ソフトウェアの脆弱性管理の課題に対する一つの解決策として期待されている。
※5)Japan Cyber Security Technical Assistance and Researchの略称。2024年8月に経済産業省が公表した「IoT製品に対するセキュリティ適合性評価制度構築方針」に基づき構築された制度のこと。インターネットとの通信が行える幅広いIoT製品を対象として、共通的な物差しで製品に具備されているセキュリティ機能を評価・可視化する。
※6)「GIGA」は「Global and Innovation Gateway for All」の略。1人1台端末や高速大容量の通信ネットワーク等の学校ICT環境を整備・活用することによって、教育の質を向上させ、すべての子どもたちの可能性を引き出す「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現すること目的とした文部科学省の政策。
【参考情報】
国家サイバー統括室「サイバーセキュリティ戦略が閣議決定されました」
https://www.cyber.go.jp/policy/jyuyo-bunsho/index.html
サステナビリティ開示
○ ESRS簡素化案を欧州委に提出、 企業の報告負担軽減で必須開示項目を61%削減
欧州の財務報告助言機関EFRAGは2025年12月3日、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の簡素化ドラフト(改訂版)の技術的助言を欧州委員会に提出した。公表済のESRS原案から、必須開示項目を約61%削減する。企業の開示負担の軽減を図る同委2025年オムニバス・イニシアチブの一環。2024年の初適用企業の教訓や700件超の意見を踏まえ、柔軟性や救済措置、段階的導入等の要素を反映した。
象徴的な変更は開示項目の削減だ。任意開示の廃止や重複項目の統合により「コアとなる基礎情報(Core Disclosures)」が明確化され、まず報告すべき重要情報に集中できる設計となった。EFRAGは、「説明責任を維持しつつ負荷を下げる、明確でバランスの取れた枠組みだ」と強調している。主な削減の内容は以下のとおり。
- 気候変動(ESRS E1)では、温室効果ガス排出量や気候目標など主要開示を維持しつつ詳細要件を緩和
- サプライチェーン(ESRS S2等)は一次データ収集の原則を見直し、信頼できる一次データが困難な場合に推計値(見積もりデータ)の活用を正式に容認
- スコープ3や人権関連などバリューチェーン全域の定量化負担を軽減
- 段階的導入を設け、難度の高い情報領域には経過措置や免除を用意
- 中小企業向け簡易基準(VSME)との整合も強化し、グループ内子会社やサプライヤーとの情報連携の円滑化に配慮
<主要な変更点・簡素化の例>
| 項目 | 原案の要件 | 改訂版の主な変更点 | 企業への実務的影響 |
|---|---|---|---|
| 開示項目数 | 必須・任意含め多く網羅的 | 必須項目を6割削減 任意項目は廃止 |
報告負担・コスト削減 |
| コア情報の明確化 | 広範囲・詳細な情報 | コア開示に絞り込み | 重要情報に集中しやすい |
| 気候変動 | 詳細な計画書・データ提出 | 要点報告を許容 詳細要件緩和 |
業務負担軽減 |
| サプライチェーン | 一次データ収集推奨 | 推計値利用を容認 | グローバル企業の負担減 |
| 段階的導入 | 即時全面適用 | フェーズイン・経過措置 | 難しい項目は猶予期間あり |
| 中小企業対応 | VSME基準との整合性弱い | VSME基準との整合性強化 | グループ内連携が円滑に |
(EFRAG公開資料に基づき当社が作成)
ESRS簡素化案は、競争力とサステナビリティの両立を目指して規制を見直すEUの政策的流れの具体策に位置づけられる。企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく新たな報告義務に対する負担増の懸念に対応する。サプライチェーン全体のデータ収集の難しさや各国の監督・ガイダンスの遅れが不安材料となる中、報告対象の重点化により中小やサプライヤーの間接負担を軽減。報告適用の延期でも合意し、準備期間を延長した。
今回の簡素化では、原案のチェックリスト的開示から転換し、潜在トピックの網羅ではなく最も明らかな課題に焦点化している。そのため、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の気候基準などとの整合を確保しているが、ISSBと類似の要求事項がESRSには含まれない場合もある。将来、双方の基準の適用を目指す企業は注意が必要だ。
ESRS簡素化案は今後、欧州監督当局(ESA)や欧州中央銀行、加盟国政府などとの協議やパブリック・コンサルテーションなどを経て、2026年末までの発効・適用開始が見込まれている。企業実務では同年度報告から本格適用の見通しだ。
【参考情報】
2025年12月3日、EFRAGリリース
https://www.efrag.org/en/news-and-calendar/news/efrag-provides-its-technical-advice-on-draft-simplified-esrs-to-the-european-commission
自然資本
○ IUCN RHINOアプローチとSTAR指標のアップデート概要
国際自然保護連合(IUCN)は2025年10月に開催されたIUCN世界自然保護会議においてIUCN RHINO(Rapid High-Integrity Nature-positive Outcome)アプローチを発表した。本アプローチは、種と生態系の保全効果を最大化することでネイチャーポジティブを達成することを目的に、企業を含むあらゆる組織が、「どこで活動すべきか」、「どのような行動をすべきか」、「どのように進捗を測るべきか」を示している。
RHINOアプローチは、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のLEAPアプローチ※1を基盤として、「Implement(実行)」と「Report(報告)」のステップを独自に追加することで、「リスク評価→行動計画→実行→インパクト測定→公表」までを行えるように設計されている。
さらに、組織が自然との接点を把握し、ネイチャーポジティブな取り組みを導くために以下の3つのインパクトトラックを提供する。
(1)Track A:直接インパクトトラック(該当業種例:採掘業、林業、農業、建設、インフラ、再生エネルギー発電など)
直接操業によるインパクトを対象にしたアプローチで、6つのステップ(A1: Locate, A2: Evaluate, A3: Assess, A4: Prepare, A5: Implement, A6: Report)から構成される。
(2)Track B:バリューチェーンインパクトトラック(該当業種例:コーヒー・パーム油・鉱物などの原料調達企業、食品・飲料メーカー、繊維、商社、エネルギー利用企業など)
バリューチェーンを通じたインパクトを対象にしたアプローチで、企業の調達先のトレーサビリティの状況に応じて3つの方法を提示している。
① サイトレベルで特定できる場合:サイトごとにTrack AのA1~A6のステップを適用する。
② 国や自治体レベルでしか特定できない場合:生物多様性へのインパクトが大きい地域とコモディティの組み合わせを特定し、自社の調達割合を考慮して優先地域を選定した上で、Track AのA2~A6を適用する。
③ 空間情報が限定的の場合:主な生産国や生産企業を特定し、インパクトの高い地域を優先して絶滅リスク低減の目標を設定し、Track AのA3~A6を適用する。
(3)Track C:投資家インパクトトラック(該当業種例:銀行、保険、投資ファンド、年金基金など)
金融ポートフォリオ通じたインパクトを対象に、2つのアプローチを提示している。
① 投資シェアアプローチ:投資先企業に対して情報開示や報告の要件を設定し、投資先が自社のバリューチェーン内で必要な行動を実施していることを確認。
② 投資先企業の進捗評価:投資先企業をIUCN RHINOトラックの進捗状況に基づいて評価・スコア化し、各社の進捗やポートフォリオ全体のパフォーマンスをモニタリングする。
本アプローチは、STAR(Species Threat Abatement and Restoration)指標※2を活用しており、各ステップごとに応じてSTAR指標を調整して使用している。具体的には、IUCNが公表している推計値(Estimated STAR)を用いて対象地域の状況を把握し、次に現地調査や専門家評価を反映して調整値(Calibrated STAR)を算出する。その後、将来の目標値(Target STAR)を設定し、実際の活動によって得られた成果を実績値(Realised STAR)として記録する。
このSTAR指標は精度向上と利便性のために11月にアップデートされ、以下のような改善が加えられた。これらは、STAR指標の可視化が可能なIBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool)が提供する「IBAT Species Report※3」で確認できる。主なアップデート内容は以下のとおり。
- データの解像度が25倍向上し、1kmメッシュで分析可能になった。
- 対象種が拡大し、哺乳類・鳥類・両生類に加えて爬虫類も含まれるようになった。
- 最新のRed Listデータに対応し、より新しい情報で分析できるようになった。
- 対象種ごとのSTARスコアへの貢献度や脅威要因が可視化され、どの対象種を優先して保全すべきか、またどのような脅威を減らすべきかを特定し易くなった。
これらの改訂によって企業は、どこが重要か(空間精度)、なにが重要か(種・脅威の特定)をより正確に判断できるようになった。また、2026年公表予定のレポートでは、現地調査を反映した調整が可能となり(Calibrated STAR)、企業ごとに最適化された保全活動の計画・評価ができるようになる。
自然関連のリスクと機会を把握するには、拠点単体でなくバリューチェーン全体の視点が欠かせない。RHINOアプローチとSTAR指標は、対象拠点周辺の自然の状態の定量的な理解、行動すべき場所や活動の特定、その成果測定までをワンストップで支援する。ただし、現地の状況を踏まえた効果的な取り組みを推進していく上では、机上のデータ分析だけでは不十分であり、現地パートナーの知識や一次情報を反映したCalibrated STARやRealised STARを算出する必要がある。そのため、まずは自社事業における優先地域を特定し、現地ステークホルダーと協働してモニタリング体制を整えることから始めることが重要である。
※1)LEAPアプローチとは、TNFDが提示している、企業および金融機関における内部の自然関連課題の特定と評価をサポートすることを目的とした自主的なガイダンスである。Locate、Evaluate、Assess、Prepareの4つのフェーズから構成される。
※2)STAR指標とは、IUCNレッドリストのデータをもとに、保全・復元活動による種の絶滅リスク低減効果を定量化した指標である。
※3)https://www.ibat-alliance.org/services
【参考情報】
2025年12月3日付 IUCN RHINO HP
https://www.iucnrhino.org/
2025年12月3日付 IBAT HP
https://www.ibat-alliance.org/news/species-report
2025年10月10日付 IUCNリリース
https://iucn.org/press-release/202510/iucn-launches-new-rhino-approach-rapid-high-integrity-nature-positive-outcomes
サステナビリティ開示
○ WICI統合報告書表彰でイトーキが最高位、人的資本戦略と経営戦略の融合を高評価
※WICIとは…World Intangible Capital Initiativeの略称。
一般社団法人WICIジャパンは2025年12月3日、優れた統合報告書を表彰する「WICIジャパン 統合リポート・アウォード」の審査結果を公表した。最も評価の高い「Gold Award(優秀企業賞)」に、イトーキと荏原製作所、TDKの3社を選出した。このうち、イトーキは「一頭地を抜いた存在」として最高位の「The Best Gold Award」を初めて受賞した。社長自らが従業員エンゲージメントについて語るなど人的資本戦略と経営戦略の融合や、財務を担う管理本部長メッセージでの資本コストを意識した財務戦略の解説などが高く評価された。同社は前回「Special Award(審査員特別賞)」を受賞した。MS&ADインシュアランスグループホールディングス(HD)は「Special Award(審査員特別賞)」のうち「Role Model賞」を受賞、金融業でトップクラスとの評価を受けた。
各賞受賞の11社は以下のとおり。
<「WICIジャパン 統合リポート・アウォード2025」受賞企業>
| Gold Award(優秀企業賞) | イトーキ[The Best Gold Award]、荏原製作所、TDK |
| Silver Award(優良企業賞) | 味の素、伊藤忠商事、富士フイルムHD |
| Bronze Award(準優良企業賞) | デンソー、ニチレイ |
| Special Award(審査員特別賞) | MS&ADインシュアランスグループHD、住友金属鉱山、東京海上HD |
12月11日の表彰式には、審査委員長を含む審査委員5名が出席した。審査委員長は受賞企業について、企業価値向上に向けた戦略に関する説明の具体性が増していると評価。その上で「インフレ進行中での生き残り戦略はデフレ時代と全く異なる」として、他社との差別化やインフレに勝つ戦略として知的財産を取り上げる重要性を強調した。別の審査委員は、情報の網羅性や各社の個性など統合報告書に求められる要素のほか、読者に読んでもらうための工夫を強調。自社が思い描く未来の価値創造を描いた「特集版」と統合報告書「本編」の2部構成を採用したイトーキや、本編と別にダイジェスト版を作成した伊藤忠商事などを例に挙げ、評価した。
一方、多くの審査委員が今後の改善点として、コネクティビティ(情報の相互連関)を挙げた。ある審査委員は、従来から重視されてきた財務・非財務の情報を結びつけた価値創造の説明に加えて、「サステナビリティ課題間のコネクティビティ」の重要性を指摘。例えば、再生可能エネルギー事業によって生じる人権への負の影響など、ESGテーマ間のつながりや戦略性に関する記述の強化を求めた。また、同氏はサステナビリティ基準委員会(SSBJ)や国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)、企業持続可能性報告指令(CSRD)などの国内外のサステナビリティ開示基準を念頭に、複雑化しているマテリアリティをどう表現するかも来年度の注目点として挙げた。
WICIジャパン事務局によると、審査対象は統合報告書を発行する国内上場企業で、10月第1週ごろまでに報告書を公表した635社。読みやすさよりも内容の充実を重視しており、今回はページ削減がマイナス評価になったという。
同表彰は前身の「統合報告優良企業賞」を含め今回が13回目。報告書発行企業のエントリーを必要としない「勝手審査」方式に加えて、投資家以外の学識者やサステナビリティの専門家など幅広いステークホルダーが審査委員を務めていることなどが特徴だ。審査は旧国際統合報告評議会(IIRC=現在はISSBに統合)の「国際統合報告フレームワーク」が定める必須記載事項等を参照するほか、2次審査では独自の審査シートを使用。「Ⅰ 記載内容(コンテンツ)評価」「Ⅱ 統合的開示の評価」「Ⅲ 開示の説得力」のテーマごとに詳細な評価内容を設定している。同シートはホームページで公開されている。
【参考情報】
2025年12月3日付 WICIジャパンHP
https://wici-global.com/index_ja/2025/12/03/4847/
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