コラム/トピックス

不易流行と危機管理

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域

■危機管理

■コンプライアンス・内部統制

■ITリスク

  • システム開発上流工程コンサルティング
  • ISMS認証取得コンサルティング
役職名
リスクマネジメント第三部 危機管理・コンプライアンスグループ マネジャー・上席コンサルタント
執筆者名
梶浦 勉 Tsutomu Kajiura

2021.7.1

不易流行――松尾芭蕉翁のものとして、その門人・向井去来が著書「去来抄」で伝えた俳諧の理念。変わらない本質の一方で、常に世の中の流行を取り入れ変化し続けることこそが不易なる俳諧の真髄と説く。あらゆる事柄に通じる奥深い至言である。

企業の危機管理コンサルティングを担当するようになって以来、いつもこの言葉が念頭にある。
危機管理では、自然災害や事故、不祥事、テロなど従来型の「危機」に対応しつつ、常に世の中の変化に伴って出現する新たな危機に応じて、いかに組織を変化させ、対応していくかが肝要といえる。文字通りの不易流行だ。

グローバル化の進展に伴い、危機も地平を広げている。サプライチェーンにおける幾重もの上流で生じた人権にまつわる問題が、国境を越え、時間をも越えてSNSの空間に漂い続け、リアルな世界で不買運動を引き起こす。

近年では、さらに実像すらつかめないサイバーの世界が、企業の存亡を脅かす攻撃者たちとの戦場になる。巧妙に偽装された「ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)」付のメールを不注意で開いたばかりに、会社の重要なシステムファイルが暗号化され、解除のために身代金を請求されるケースが国内外で相次ぎ、中には事業中断を余儀なくされる企業も出た。

ことほど左様に、「デジタル」が企業にとっての生命線であることの側面が鮮明化してきた。いまは『DX(デジタルトランスフォーメーション)』が企業を席巻する。これを、かつての「IT化」の延長のように悠長に捉えていると危険だ。自社の競争力を削ぎ、気が付いた時には茹でガエルのように致命的な破局もありえる。自社存亡に関わる問題との自覚が不可欠だ。

変わり続ける世界と危機にどう立ち向かえば良いか。それは世界を捉える視座を常にアップデートし続けていくことだ。今までの知識や経験に固執するのではなく、世界の変化に合わせて新しい情報を手に入れ、自分自身の思考回路自体を進化させていくことが重要だ。まさに「流行」といえる。

しかし、危機管理の要諦はおおよそ変わらない。

時代の変化により表出する現象や言葉は変わっていても、その表面的な変化を全て取り払った先には、変わることのない大切な価値がある。危機はそうした「だれか」の生命や健康、財産、人権といった普遍的で守りたい価値を脅威に晒すことなのだ。

万一、自社の経営や事業活動に関連して危機が発生した際、つまりだれかの「大切な価値」を脅かす事態が発生した場合には、被害を最小化するため素早い情報連携と意思決定を図り、正確かつ正直な情報開示といった誠実な姿勢と対応が、社会的信頼の維持・回復の王道であることに変わりがない。

危機発生時の情報開示では、例えば重大な事故の発生時、被害者の気持ちに寄り添い、正直な対応で真摯な姿勢を体現できる。また近年相次ぐSNSでの炎上も、受け手の傷心や不快感をいやす迅速な対応で小火に抑えるのも不可能ではない。

正直さ、真面目さ、思いやりの価値は、昔から変わることはない。つまり、不易である。

自分を常に新しくしていく努力、そして、変わらない価値観を大切にする努力。それこそが危機管理の本質であり、不易流行であると筆者は考える。

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