レポート/資料

企業倫理の最前線 不祥事を防ぐ「仕組み」と「文化」を最新の研究から学ぶ【RMFOCUS 第97号】

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[このレポートを書いた研究員]

土居 英一
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
部署名
基礎研究部 受託調査グループ
執筆者名
マネジャー上席研究員 土居 英一 Eiichi Doi

2026.4.2

要旨
  • 社会の倫理基準は一層高まっている。企業は過去の事例や法規制対応だけでなく、今後顕在化しうる新たなリスクへの感度を高め、対応の質を向上させる必要がある。
  • 最新の企業倫理研究には、組織のための不正(UPB:Unethical Pro-Organizational Behavior)、倫理文化形成、内部通報の促進などがある。
  • 社会の価値観の変化を敏感にとらえ、説明責任や再発防止の実効性を重視しつつ、より倫理的な方向へ組織を少しずつでも変え続けていくことが望ましいと考える。

近年、酒席を含むさまざまな場面でハラスメント的な言動が可視化され、公的な説明責任に直結する場面も増えているなど、社会の倫理基準は一層高まっている。社会が過敏になったというより、説明責任の水準が明確になり、対応の質がより問われるようになったといえる。

本稿では、筆者が有意義だと考える企業倫理に関する最新の学術研究を例示的に取り上げ、社会の変化に対してどのような対応が検討されているかを概観する。

1. 変わる社会の物差し

社会の期待水準は刻々と更新されている。たとえば、ハラスメントにつながる発言や振る舞いは、当事者の安心を損なうものとして扱われやすくなっている。以前は表面化しにくかった問題発言が、いまは問題として可視化され、対応の質が問われるようになっている。可視化することは「誰かの安心が損なわれたサイン」でもある。企業は過去の不祥事や法規制への対応にとどまらず、今後顕在化しうる新たなリスクへの感度を高め続ける必要がある。

2. さらなる倫理活動の高度化が必要

多くの企業が「誠実さ」を重視して事業を営んできた一方で、不祥事が絶えないのも事実である。万一、不祥事を起こしてしまった際は、自社の信頼回復に努める以上に、被害の予防・被害者の救済を意識の中心に据えつつ、その上で平時から「誠実さ」を具体的な判断基準・行動様式に落とし込み、倫理活動のさらなる高度化が求められる。本稿では、企業における倫理活動の高度化に資する学術研究(近年の研究論文)を紹介する。

3. 企業倫理関連の最新研究論文例

ここでは研究の全体像を示すため、企業倫理関連の研究テーマから5分類を設定し、各分類から計9本の研究論文を紹介する。五つの分類は以下のとおりである。

(1) 個人:善悪(正直/不正)を増減させる条件
(2) 企業:倫理文化をどう作るか
(3) 企業:通報・スピークアップ(善い組織=悪を止められる組織)
(4) 企業:組織のための不正(UPB)=「善意が悪を生む」領域
(5) 規範理論:企業が「善」であるとは何か(責任/功績)

なお、UPBは Unethical Pro-Organizational Behaviorの略で、「非倫理的・向組織的行動」を指す。経営者や幹部の命令によらず、従業員が「組織にとって良かれ」と判断して行う不正の一類型であり、近年研究が進んでいるため(4)で取り上げる。善意は免罪符ではない。UPBにより結果として生じる不利益(顧客・取引先・同僚等)を止めるための研究領域である。五つの分類ごとに紹介する論文は表1のとおりである。

【表1】紹介する研究論文

【表1】紹介する研究論文
(MS&ADインターリスク総研作成)

4. 各研究論文の概要紹介

以下では、各研究論文の研究目的・方法・主たる結論を概説する。

(1) 個人:善悪(正直/不正)を増減させる条件

①論文1:Commitment to honesty oaths decreases dishonesty,but commitment to another individual does not affect dishonesty

誓約と対人関係が不正に与える効果を、国際的実験データから考察した研究

・研究目的:「道徳規範へのコミットメント(誓約)」と「他者へのコミットメント」がそれぞれ不正行為に与える効果を検討することを目的とした。具体的には、誠実さに関する誓約(honesty oath)を取る場合と、他者(組織内のメンバーなど)へのコミットメントを生じさせる場合とで、不正行為の発生率がどう変わるかを比較する。論文中では・・・

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