レポート/資料

流域治水とグリーンインフラ(Eco DRR)に関する住民の意識について(アンケート調査結果2026)【リサーチレター(2026年6月)】

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[このレポートを書いた研究員]

衣笠 功次郎
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
部署名
基礎研究部 基礎研究グループ
執筆者名
上席研究員 衣笠 功次郎

2026.6.2

要旨
  • 「流域治水」の認知度は全体で42.3%に留まっている。流域別では、緑川・白川流域(熊本県)で最高値53.1%を示した。
  • 「流域治水」で協力したい項目については、48.9%が「協力・参加したいものはない」と回答し、水災害リスクの認知不足が自分事化の欠如を招いている現状が示唆された。
  • グリーンインフラへの協力意向(25.7%)と実際の実施状況(7.3%)には約3.5倍の差があり、実践が進んでいない。
  • 住民がグリーンインフラ導入時に求めるのは「リスク低減効果の情報(42.2%)」である。普及拡大には「地域コミュニティによる連携体制(64.9%)」が求められている。
  • 流域治水の内容を「よく知っている層」では、グリーンインフラの実行率が22.1%と全体平均の3倍以上に達する。正しい知識の習得が、水災害リスクの理解や具体的な防災行動のドライバーとなる。
  • 「治水のための協力関係」を実感している人は19.4%にとどまる。緑川・白川流域は24.6%と高いが、多摩川流域(東京都、神奈川県、山梨県)18.4%、鶴見川流域(東京都、神奈川県)16.4%、天竜川下流・菊川流域(静岡県、愛知県)18.2%などの都市部では2割を下回っている。

1. はじめに

(1) 調査背景

近年、気候変動の影響によって豪雨・洪水などの水災害が激甚化・頻発化しており、従来の河川管理(堤防強化やダム等のハード対策)だけでは流域全体を守り切ることが困難になっている。2019年10月の東日本台風※1や2020年7月の豪雨※2等、毎年発生する甚大な被害状況を踏まえ、わが国の治水政策は河川区域にとどまらない関係者の協働による「流域治水」へと取組みを転換し、全国109の1級水系でプロジェクトが展開されている。その中で、グリーンインフラ※3は、「治水」と「ネイチャーポジティブ」、さらには「地域活性」をも生み出す重要な選択肢として位置づけられている。森林や緑地は雨水の川への流入を遅らせ時間的な余裕を生み出すことができるため、洪水時の最大流量を抑制する機能がある。さらには生物多様性保全、景観形成等の多面的な機能もあるからである。こうした動きは、「流域治水関連法」(2021年5月公布、国土交通省)や「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」(2024年3月策定、環境省・国土交通省・農林水産省・経済産業省)、「グリーンインフラ推進戦略2030」(2026年1月策定、国土交通省)など、複数の中央省庁をまたぐ法制度・政策的整備とともに進められてきた。また、世界に目を向けても状況は軌を一にしている。2025年11月に開かれた「国連気候変動枠組条約第30回締約国会議」(UNFCCC COP30)において、「生態系を活用した適応(Ecosystem-based Adaptation:EbA)」※4や「自然を活用した解決策(Nature-based Solutions:NbS)」※5の活用加速が確認された。これにより、グローバルな方針が国・地域レベルの実装へと落とし込まれていくことが見込まれる。

一方で、先行調査では流域治水を「全く知らない」とする住民が約半数に達する※6など、住民側の認知不足や自分事化の欠如がプロジェクト推進の大きな障壁となっていることが示唆されている。ただし、既存の全国意識調査は「流域治水」という概念の認知・理解に関する把握にとどまり、流域ごとの被害特性・地形に基づく地域差が十分に明らかにされていない。さらには、グリーンインフラそのものに対する住民の意識や、認知から実行(自助・参加)に至るプロセスを詳細に捉えた調査は不足している。グリーンインフラの実効的な普及策や支援措置の設計には、地域実態に即した詳細なデータが必要である。

※1 2019年10月6日に発生した台風第19号は静岡県や新潟県、関東甲信地方、東北地方で3、6、12、24時間降水量の観測史上1位の値を更新し、記録的な大雨となった(神奈川県箱根町では10~13日までの総降水量が1,000mmに達した)。
※2 2020年7月28~29日にかけて、国が管理する7水系7河川、県が管理する57水系186河川で氾濫発生。球磨川流域の人吉雨量観測所では24時間雨量410mmを記録するなど、多くの雨量観測所において観測史上最多雨量となった。
※3 自然環境が有する多様な機能を、社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において活用する手法。 ※4 気候変動による負の影響に対応するために生態系サービスを活用すること。社会へ多様な利益をもたらすとともに生物多様性保全に貢献しようとする適応手法。
※5 自然環境が有する多様な機能を、様々な社会課題の解決に役立てる手法。グリーンインフラの概念に近い。
※6 水文・水資源学会誌(2025年5月)『近年の治水政策に関する全国意識調査』

(2) 調査目的

グリーンインフラの概念はとても広いが、本調査はグリーンインフラのひとつである「生態系を活用した防災・減災(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction:Eco-DRR)」※7に注目する。生態系サービスを活用した流域治水の普及・実装を加速するため、以下の事項を明らかにすることを目的とする。

①行動変容の「現在地」の可視化

住民意識を行動変容モデルの3段階("認知"=知っている、"理解"=自分事として捉える、"実行"=行動・協力する)に沿って定量的に把握し、各フェーズにおける到達状況を可視化する。

②意識差および地域差(ギャップ)の解明

対象流域間での類似点・差異を明らかにする。

③政策・実務への還元

調査結果は、国土交通省等の政策検討資料のほか、自治体の流域治水プロジェクトにおける解決策立案の根拠資料、防災・減災のためのツール開発・高度化、普及支援(関係事業者・団体による実装支援)に活用いただくような実践的知見を提示する。

※7 生態系が持つ多様な機能を活かすことで、自然災害に強く持続可能な社会を構築しようとする手法。

2. 概要

(1) 調査実施期間

2026年2月10日~2月16日の間にインターネットによる調査を行った。

(2) 回答者数

1,500人(20~79歳の男女)

(3) 回答者属性

①【図表1】

「洪水予報指定河川(国土交通大臣指定)」および「直近の水災害発生河川」より、下記いずれかの流域周辺地域※8に居住されている方

流域 回答者数(人)
多摩川 450
鶴見川 450
天竜川下流、菊川 170
馬込川 80
緑川、白川 350

※8 〇多摩川流域:【東京都、神奈川県、山梨県】川崎市(重複)、大田区、世田谷区、八王子市、立川市、武蔵野市、三鷹市、青梅市、府中市、昭島市、調布市、町田市(重複)、小金井市、小平市、日野市、国分寺市、国立市、福生市、狛江市、武蔵村山市、多摩市、稲城市(重複)、あきる野市、羽村市、瑞穂町、日の出町、檜原村、奥多摩町、甲州市、小菅村、丹波山村
〇鶴見川流域:【東京都、神奈川県】 横浜市、川崎市(重複)、稲城市(重複)、町田市(重複)
〇天竜川下流、菊川流域:【静岡県、愛知県】浜松市(重複)、磐田市、掛川市、袋井市、湖西市、菊川市、御前崎市、森町、設楽町、東栄町、豊根村
〇馬込川流域:【静岡県】浜松市浜北区、中区、東区、西区、南区
〇緑川、白川流域:【熊本県】熊本市、菊池市(旧泗水町、旧旭志村)、宇土市、合志市、大津町、菊陽町、西原村、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、阿蘇市、高森町、南阿蘇村、宇城市、美里町、山都町

②【図表2】住居形態

【図表2】住居形態
【図表2】住居形態

③【図表3】属している地域コミュニティ

【図表3】属している地域コミュニティ
【図表3】属している地域コミュニティ

3. 調査結果

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