サイバーリスクによる財務影響の可視化が求められる時代へ 〜従来の「定性評価」から「定量評価」へのアップデート〜
2026.8.31
サイバーリスクが経営課題となる背景
昨今、DXの推進や生成AIの普及により、社会全体の利便性は飛躍的に向上している。その一方で、デジタル基盤への依存度の高まりやサプライチェーンの複雑化に伴い、サイバーリスクは企業経営に重大な影響を及ぼす喫緊の課題となっている。特に近年は、ランサムウェアをはじめとするサイバー攻撃により、単なる情報漏えいにとどまらず、事業停止や多額の損失につながる事案が相次いでいる。
セキュリティ投資に求められる定量評価
このような状況下では、あらゆるサイバー攻撃に備えるため、継続的なセキュリティ対策への投資が不可欠である。ただし、投資可能な予算には限りがあるため、対策には優先順位を設け、計画的に投資を進める必要がある。したがって、経営層がセキュリティ投資を判断するうえで求められるのは、単に「リスクがある」という定性的な情報ではなく、「どの程度の財務影響が想定されるのか」という定量的な情報である。
しかし、多くの企業では「IT資産の管理」や「セキュリティ対策の実施有無」といった定性的な評価が中心である。PwCが2025年度に77カ国・7地域の経営層4,042名を対象に実施したサイバーリスク調査では、サイバーリスクの財務影響を相当程度把握している企業は、全体の15%にとどまった。※1「サイバー攻撃を受けた場合、自社はいくらの損失を被るのか」といったサイバーリスクを金額換算し、定量的に把握できている企業は、依然として少ないのが実情である。
CRQ(サイバーリスク定量化)の台頭
そこで近年、欧米企業を中心に導入が進んでいるのが、CRQ(Cyber Risk Quantification:サイバーリスク定量化)である。CRQは、サイバー攻撃による情報漏えいやシステム停止などの損失を金額として可視化し、セキュリティ投資やリスク許容度の設定、保険設計など、経営層の意思決定を後押しする手法として注目されている。
また、Market Intelo社の調査によると世界のCRQ市場は、2025年に28億ドルと評価され、2026年から2034年にかけて年平均成長率14.7%で成長し、将来的に96億ドルに達すると見込まれている。※2CRQへの関心の高まりは、今後さらに加速することが予想される。
サイバーリスクを金額でとらえる重要性
サイバーリスクを金額としてとらえ、経営の意思決定に反映させるアプローチは、国内外でその重要性を一層高めており、世界的に新たなスタンダードとなりつつある。
サイバーリスクを金額で可視化し、セキュリティ投資の優先順位を明確にすることは、限られた予算の中で合理的な意思決定を行ううえで有効である。各対策の損失回避効果を見極め、対策費用と想定損失のバランスを踏まえることで、投資先と投資額を判断できる。結果として、場当たり的な対応を避け、戦略的な投資判断につながる。
火災や自然災害のリスク管理に学ぶ定量評価
この考え方自体は新しいものではない。企業はこれまでも火災リスクや水災、地震などの自然災害リスクに対して予想最大損失額を算出し、設備投資や事業継続計画の策定、保険設計の判断に活用してきた。つまり、「リスクを金額で把握し、経営判断に活用する」という考え方は、すでに他のリスク管理分野では一般的なのである。
CRQが求められる時代へ
サイバーリスクもまた、火災や自然災害と同様に、財務影響を見据えて管理すべき経営リスクである。今後は、定性的な評価にとどまらず、定量的な把握を前提としたリスクマネジメントへ移行することが、より一層求められていくだろう。
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【参考データ】
※1 Digital Trust Insights 2025:CxOとCISOの連携が、複雑化するデジタル法規制によって生じるギャップを埋める
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/digital-trust-insights2025.html
(最終アクセス日:2026年8月18日)
※2 Cyber Risk Quantification Market Research Report 2034
https://marketintelo.com/report/cyber-risk-quantification-market
(最終アクセス日:2026年8月18日)