タイの政情不安と企業の安全対策について
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- 海外リスクマネジメント
- 役職名
- インターリスクアジアタイランド 社長
- 執筆者名
- 中村 純一 Junichi Nakamura
2014.5.28
2013年11月より始まった、PDRC(人民民主改革委員会/通称:黄シャツ隊)による反政府デモは、未だ継続していますが1月に10万人が集まった時期からすれば、現在は大幅に縮小しています。しかし、5月7日の憲法裁判所の判決によりインラック氏か失職した現在では、この反政府派の人々および政府支持派であるUDD(反独裁民主戦線/通称:赤シャツ隊)の人々も活動を活発化させており、日本人および日本企業にとって未だ予断は許さない状態と考えています。
それはこのデモ・集会が行われる場所が、主に多数の日系タイ企業が所在する場所と多数の日本人家族が居住する地域から極めて近い場所となる可能性があるためです。
今までは反政府派によるデモが主体であり、そこに思想が異なる人々は介在しなかったこと、また、政府勢力(警察、軍隊等)が過激な取締りを行わなかったことにより騒乱状態となることはありませんでした。それでも複数の暴力的事件が発生し、百人以上の死傷者を出しています。
インラック氏が失職に追い込まれ、与党による暫定政府による政権の維持が行われている現在、UDDおよびPDRCが共に抗議行動を行う可能性が高まっています。先般、両陣営の集結拠点を取材しました。UDDはバンコクから車で数十分の場所に終結し、長期滞在によるデモが可能なインフラを整えています。また、PDRCは今までの拠点であった公園から本拠地を移動させました。この結果、両陣営の距離が狭まることになり、両派の人々か直接接触する可能性が出ていることから十分注意することが必要です。
また、万一、暴力的事故が発生したは場合に使用される武器についても知っておく必要があります。今年の騒動における暴力的事故では、その大半で手榴弾やグレネードランチャーなど、軍用で使用される殺傷能力の高い武器が使われました。
これらのことから考えて、当面の間、企業としての安全対策を継続して実施していく必要があります。最低限検討しておくべき事項は以下の通りです。
タイ人スタッフによる情報収集
今まで経験から、反政府派、政府支持派友にデモ・集会等の行動を行う前に予告を行う可能性があります。タイの報道機関は即座にこの情報を報道しますので、タイ人スタッフに両派が同時期にデモ・集会を行う場合でそれぞれの場所が近い場合は直ぐに知らせるように指示をしておく事をお勧めします。
日本人従業員およびそのご家族への指示
上記情報の事前に入手した場合は両派のデモ予定場所周辺には終日近づかないよう日本人従業員およびそのご家族に事前に指示・徹底を行うことが重要です。
会社の当日の対応の決定
両派が接触し暴力的事件が発生した場合は、鉄道、電気、その他インフラに関する情報を継続して収集しながら、就業時間の短縮を判断します。また、本邦本社への状況報告を行います。
翌日以降の対応の検討
責任者の方々を残し、明日以降の対応について協議します。特に最悪のケースである暴力的事件が収拾しない場合における対応方針について検討します。ここでは、企業の特性ごとに例示を記載します。会社の対応は逐次本邦本社に状況報告を行います。
<オフィス機能が中心の会社>
- 営業休止とする場合の条件と判断者およびその時期を決定
- 全従業員・外部関係者・顧客に対する連絡方法の再チェックと連絡担当者の選定
<オフィスの他、店舗・物流機能を有する会社>
- 上記に加えて、仕入先、物流関係者への連絡
<製造機能を有する会社>
- 上記に加えて、生産停止による影響分析
<多数の従業員を雇用している工場等>
- (操業する場合)送迎バスの運行ルート変更の検討 など
タイに住んでいると、デモのことを忘れるほど平穏な日々が流れています。しかし、何かの事件がきっかけで突然リスクが高まるのがこのタイという国の特徴のように思えます。しかしそれは、我々日本人がリアルタイムの情報から隔絶されているためです。普段から油断せず情報収集に当たる努力を惜しまなければ、迅速に対応することが可能となりリスクを低減することが出来ます。タイ人スタッフと良好な関係を保ち、一緒に苦労できる関係を構築しておくことが最も友好なリスク低減対策と言えるでしょう。
以上