水リスクに関する企業の情報開示フレームワークの動向【新エターナル 第30号】
2013.3.1
1. はじめに
20世紀末に大きく取り上げられた水問題は、貧困撲滅を目指す国連ミレニアム開発目標(MDGs)の重要な要素として位置付けられ、現在まで6回に及ぶ世界水フォーラムの開催などを経て、世界的にも広く認識されるようになりました。また2013年は国連「国際水協力年」に定められており、水問題やそれに対する協力の必要性について、より注目が集まるものと思われます。
また欧米を中心に、企業に対してもサプライチェーンも含めた水リスクの評価・管理・対策とその情報開示を求める動きが加速しています。その例として、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)が、2010年から新たにウォーター・ディスクロージャー・プロジェクト(WDP)を開始したことが挙げられます。WDPでは、これに署名した機関投資家1に代わって、世界及び各地域の主要企業(2013年時点で629社)に各社の水リスクの認識やパフォーマンスに関する質問書を送付し、その回答結果を開示します。現在、日本の調査対象企業は21社ですが、既にグローバル単位だけでなく地域単位でも対象企業を選定している豪州、南ア、米国に続いて、欧州とアジアでも対象企業が拡大されることになっています。また2014年には各社の情報開示状況がスコアリングされ、公開される予定です。
気候変動リスクに関して、2000年代にCDPは同様の手法によって、多くの企業に情報開示を促す重要な役割を演じました。今では欧米を中心に、気候変動によるビジネスリスク及び機会、パフォーマンス(温室効果ガス排出量など)の情報が、アニュアルレポートや企業会計報告で非財務情報として投資家向けに開示される流れになりつつあります。水リスクの情報開示についても、同じような動向が予想されます。
企業の水リスクについてはWDPの他にも、持続可能な開発のための経済人会議(WBCSD)、国連グローバル・コンパクト(GC)、世界資源研究所(WRI)などの様々な主体からガイドラインやツールが相次いで公開されています2。これらの開発主体は互いに連携しながら、企業の取組みを支援するツールを提供するとともに、水リスクへの取組みの主流化を促しています。
本稿では、企業の水リスクに対する情報開示の枠組みやリスク評価について解説します。
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