持続可能な経営のための水リスクマネジメントの最新動向 ―AWS Forum の最新論点とスタンダード改定におけるポイントの紹介-【サステナブル経営レポート 第28号】
[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 所属名
- リスクコンサルティング本部
リスクマネジメント第五部
サステナビリティ第一グループ - 執筆者名
- コンサルタント 久野 憲太郎 Kentaro Kuno
2025.11.4
- 企業を取り巻く水リスクは増加傾向にあり、多様な水リスクに対応するためには、流域内のス テークホルダーと連携した流域視点で取り組むことが求められる。
- AWS(Alliance for Water Stewardship)Forumでは、企業が水リスクに対応する上で考慮す べき課題点や、各企業のベストプラクティスが紹介された。
- パブリックコンサルテーションを経て、AWSスタンダードの第3版が間もなく公表予定である。パブリックコンサルテーションの結果からは、バリューチェーンの動向を踏まえた水リスクの把握に、企業などの高い関心が集まっていることが読み取れる。
1. 企業を取り巻く水リスクの概況
今夏の日本の平均気温は平年より2.36度高く、1898年の統計開始以来、過去最高となった※1。温暖化に伴う気候変動は水リスクに対しても影響を与えている。例えば国内では無降水日※2が増加しており、今年7月に東北や西日本で厳しい水不足が報告されたように、日本では水資源が豊富にあると言われている中で、水資源の安定供給におけるリスクが顕在化している。豪雨による水害も依然深刻な課題であり、熊本県で発生した線状降水帯による被害は記憶に新しい。このように、気候変動による極端な気象現象は渇水や洪水などの水リスクを激甚化させている。
一方で、企業が考慮すべき水リスクはこれらがすべてではない。国土交通省の「令和7年版 日本の 水資源の現況」※3によると、渇水や洪水に加え、水インフラの老朽化による事故、産業構造の変化に伴う水需要の変動が及ぼす水供給への影響、さらにはネイチャーポジティブ※4への対応などと多様化していると述べられている。
この様に、対応すべき水リスクは多様かつ激甚化しており、一企業が単体で水リスクに取り組むのはハードルが高くなってきていると言える。そのため、これからは地域ごとに異なる水課題に柔軟に対応し、河川流域全体で多様なステークホルダーが協働して、水資源の効率的な管理と持続可能な利用を目指す水リスクマネジメントが不可欠である。
本稿では、企業が水リスクマネジメントを進める上で重要な観点を、今年6月に開催された水課題 に関する先進的な議論の場である「AWSフォーラム」で得た最新知見を基に解説する。
1 )気象庁 HP:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/sum_jpn.html
2)日降水量 1.0mm 未満で降水の見られない日のこと。
3)https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_fr2_000064.html
4) 自然の劣化や損失を 2020 年の状態と比較して、2030 年までにゼロにし、2050 年に向けてプラスに転じさせるこ とを意味する。
2. 先進的な議論の場に参加する意義
AWS(Alliance for Water Stewardship)とは、地域社会と協力して水資源を保護することに焦点を当 てた国際水資源管理基準(AWSスタンダード)の管理団体である。AWSの団体名にもあるWater Stewardship(ウォーター・スチュワードシップ)とは「責任ある水資源の管理」を意味する言葉である。AWSは認証を取得するためのフレームワークを通じ、加盟団体が流域ベースでステークホルダーと協働する取り組みを推進し、社会的・文化的に公平で、環境に対し持続可能であり、経済的に有益 な水の利用を促進することを目的としている。2025年9月現在、世界中で200以上の企業や団体が加盟している。なお、ウォーター・スチュワードシップやAWSについては、過去のサステナブル経営レポートで詳しく解説しているため該当記事※5を参照されたい。
AWSでは毎年、AWSフォーラムを開催しており、会員が一堂に会してそれぞれが抱える水課題につ いて議論し、ベストプラクティスの共有を行っている。AWSフォーラムには企業だけでなく、世界自 然保護基金(WWF)、持続可能な開発のための経済人会議(WBCSD)、世界経済フォーラム(WEF)、 CDP、CERES※6などの様々なNGOや国際機関の参加が見られた。こうした多様な立場からの意見を直接 聞くことは、水リスクへの理解を深める上で非常に有益な機会である。
前章の通り、水リスクマネジメントでは流域単位での取り組みが重要となる。流域全体、すなわち 河川の上流から下流まで広範なエリアを対象とするため、多くの人々や組織との協力が不可欠である。 しかし、こうした場では立場の違いから意見が異なる場合も多い。企業とは異なる視点や背景を持つ ステークホルダーがどのような課題意識を有し、解決策を持っているのかを知ることは、企業の水リ スクマネジメントにとって極めて重要である。多様な組織と対話して異なる意見や価値観を取り入れ ることで、流域単位での協働による水資源管理の実効性が高まる。AWSフォーラムのような場は、こ うした協力関係の構築において特に望ましい環境であると言える。次章からは、AWSフォーラムにて 取り上げられた議題をもとに、最新の水リスクへの取り組みと、国内外の動向について紹介する。
5)MS&AD インターリスク総研 サステナブル経営レポート:https://rm-navi.com/search/item/1685
自然関連課題である水リスクに対して企業はどう対応していくべきか ―水リスクマネジメントに関する概説― 【サステナブル経営レポート 第 22 号】(2024.4)
6)アメリカの環境保護団体や投資関係団体などから構成される非営利組織。企業や投資家の環境慣行を変革するこ とを目的とした活動を推進している。
3. 水リスクマネジメントの最新動向
3-1. これからの水リスクマネジメントで求められる視点
これからの水リスクマネジメントを議論する場では、主に2つのトピックに焦点が当てられた。一つ 目が...
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