コンサルタントコラム

安心・安全な企業を目指すうえで注目を集めている “安全文化”②

[このコラムを書いたコンサルタント]

関口 祐輔
専門領域
安全文化醸成、安全管理全般、災害リスク関連の体制強化・支援に強み
役職名
リスクマネジメント本部 リスクマネジメント第一部長 主席コンサルタント
執筆者名
関口 祐輔 Yusuke Sekiguchi

2024.3.28

安全文化の構成要素

様々な業界において安全文化の重要性が意識されるようになり、それぞれの業界や団体などにおいて安全文化に関する考察が進められています。ただし、組織に対して求められる安全の姿は業界ごとに異なっているため、目指すべき安全文化の様相もおのずと違いが出てきます。それが特に顕著に表れるのが「安全文化の構成要素」です。
安全性を高めていくためには、現場の不具合や事故・トラブルに関する情報を収集し、その情報をもとに適切な安全施策を実施することが必要です。すなわち、安全を達成するためには、安全文化が「情報に立脚した文化(Informed Culture)」であることが必要だという考えのもと、以下の4つの文化へのアプローチが必要だと指摘しています。

  1. 報告する文化(Reporting Culture)
    適切な安全管理を行うためには、現場でどのようなことが起こっているかという情報を収集する必要があり、当該情報は、現場で働いている従業員に頼るほかない。このように、従業員が、自らのエラーやニアミスを自発的に報告しようとする組織文化のことを指す。
  2. 正義の文化(Just Culture)
    安全に関連した本質的に不可欠な安全関連情報を提供することを奨励し、時には報酬を与えられるような信頼関係に基づいた雰囲気を指す。また、人間の不安全行動には一部、許容してはいけない行為(サボタージュなど)も含まれており、許容するかしないかのボーダーラインを認識合わせすることも求められる。
  3. 柔軟な文化(Flexible Culture)
    ある種の危機に面したとき、自らの組織自身を変化させることで、危険に対する対応性を増させることができるような組織の風土。危機に対する柔軟な対応力を育むには、第一線の従業員に対する訓練に、多大な投資を施すことが必要となる。
  4. 学習する文化(Learning Culture)
    必要性が示されたときに、安全管理を行ううえで正しい判断を下せるよう、安全関連情報を収集し、活用できるような組織風土を指す。

安全文化の8軸とは~ヒューマンエラーを防止するだけでは、事故は減らない~

様々な業界・団体において安全文化に関する考察が進んできたのは前述のとおりですが、安全文化の研究では、これらの研究を取りまとめ、多種多様な業界に対して適用しうる安全文化の構成要素を提唱しています。

【安全文化の8軸 構成要素概要】

  1. 組織統率(ガバナンス)
    組織内で安全優先の価値観を共有し、これを尊重して組織管理を行うこと。コンプライアンス、安全施策における積極的なリーダーシップの発揮を含む。
  2. 責任関与(コミットメント)
    組織の経営トップ層および管理職者層から一般職員まで、また規制者、協力会社職員までが各々の立場で職務遂行に関わる安全確保に責任をもち、関与すること。
  3. 相互理解(コミュニケーション)
    組織内および組織間(規制者、同業他社、協力会社)における上下、左右の意思疎通、情報共有、相互理解を促進し、これに基づき内省(自己言及)すること。
  4. 危険認知(アウェアネス)
    個々人が各々の職務と職責における潜在的リスクを意識し、これを発見する努力を継続することにより、危険感知能力を高め、行動に反映すること。
  5. 学習伝承(ラーニング)
    安全重視を実践する組織として必要な知識(失敗経験の知識化等)、そして背景情報を理解し実践する能力を獲得しこれを伝承していくために、自発的に適切なマネジメントに基づく組織学習を継続すること。また、そのための教育訓練を含む。
  6. 作業管理(ワークマネジメント)
    文書管理、技術管理、作業標準、安全管理、品質管理など作業を適切に進めるための実効的な施策が整備され、個々人が自主的に尊重すること。
  7. 資源管理(リソースマネジメント)
    安全確保に関する人的、物的、資金的資源の管理と配分が一過性でなく適切なマネジメントに基づき行われていること。
  8. 動機付け(モチベーション)
    組織としてふさわしいインセンティブ(やる気)を与え / 自ら獲得することにより、安全向上に向けた取組みが促進されるとともに、職場満足度を高めること。上記の「安全文化の8軸」は、あらゆる研究を踏まえて考案された安全文化の構成要素であり、汎用性が高い要素です。実際、化学産業・航空運輸業などで古くから採用が進んでいます。他の業種においても当該構成要素によって安全文化を検討することが有効です。

安全文化診断の結果よる組織の見える化

MS&ADインターリスク総研が、国内で安全文化を研究する第一人者である有識者と開発した「安全文化診断」というツールがあります。本診断は、お客さま組織に所属する全役職員を対象に匿名でWEBアンケート(80問)回答いただき、設定した属性(部署、職制、勤続年数等)でお客さま組織の安全文化醸成度を「見える化」する診断です。

アンケート設問は、安全文化の各要素に対して10問ずつ設定されており、本診断により以下のことが把握できます。

  • 主に安全文化(全社員の安全意識や行動)に関する会社全体の傾向
  • エリアや社員属性(役職、年代、勤続年数)等における偏り
  • これらの分析から考えられる今後の取り組むべき課題(今後の改善のための基礎材料)

MS&ADインターリスク総研では、安全文化診断を実施後にお客さまの事業所で安全に対する現地調査を数多く実施しており、これまでの結果より以下の傾向が見られます。

  • 部門長から一般従業員まで安全衛生に関する教育を十分に受けていない
  • 製造業であれば、生産第一の文化が抜けきれず、安全は二の次になっている
  • 組織内のコミュニケーション力やリーダーシップ力が十分に発揮されていない
  • 教育はしているが、入社3年後は職長教育を受ける方のみであるため、ベテランの意識が低い
  • 安全に関する計画・教育がマンネリ化している、さらに習慣が優先されている
  • 組織内のコミュニケーション(小集団活動、指示、伝達、安全活動の意義)が不十分である
  • 従業員のモチベーションを上げるために、何らかの制度・活動がなく安全に対して「褒める文化」がない
  • 安全活動の報告が仕事となっており、本来の安全活動ができていない

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