コンサルタントコラム

長期の事業停止に備えるBCPの新たな潮流 BCTP構築のすすめ

[このコラムを書いたコンサルタント]

山口 修
専門領域
BCP/BCM(事業継続マネジメント)、新型コロナ・新型インフルエンザ等の感染症対策
役職名
リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第四部長 主席コンサルタント
執筆者名
山口 修 Osamu Yamaguchi

2024.3.25

BCP(Business Continuity Plan)における新たな対策

BCP(Business Continuity Plan)は、企業等が危機に直面した際、企業全体の操業度の落ち込みは幅を小さくし、復旧のスピードを上げることを目的に策定されます。これまで、その目的は主に、企業等の「重要事業」に経営リソースを集中投入し、「重要事業」をいち早くもとに戻すことで達成してきました。

ところが、近年、大災害、感染症、サイバー攻撃なと、危機が長期化・常態化することが当たり前になり、危機の途中で事業の環境そのものが変化してしまう事態も発生するようになってきています。そして、事業の環境が変化することで、これまでの「重要事業」が「重要事業」でなくなったり、これまでの仕事のやり方が通用しなくなってしまう事態が発生するようになってきています。

このような状況のもと、従来の「重要事業」をもとに戻すことだけでは、企業全体の操業度を向上させる効果はできないため、今後は、「重要事業」そのものや、「重要事業」のやり方を、危機の途中で抜本的に変える「もとに戻さずに変革する」という対策・戦略も必要となってきます。ここでは、このような戦略を「Transformation戦略」と呼びます。

BCTPの定義

先に述べた「Transformation戦略」を、従来の「オールハザード型BCP」に追加したBCPを、ここでは「BCTP(Business Continuity Transformation Plan)」と定義します。オールハザード型BCPに変わるBCPBCPではなく、オールハザード型BCPの発展形だと整理されます。

そして、このBCTPの「Transformation」戦略には3つの類型が考えられます。以下、類型ごとに概要を説明します。

BCTPのポイント 3つの類型の概要

  1. 事業自体のシフト戦略
    この戦略は、危機の途中で経営リソースを集中投入する対象を、重要事業から別の事業(以下「サブ事業」)にシフトさせる戦略をいいます。
    この戦略は、BCPのために一から考える戦略ではありません。例えば、主に衣料品向けに「繊維」を製造している企業が、同マーケットに見切りをつけて、成長マーケットで勝負するために「自動車用のブレーキパッド」に主力製品をTransformationさせる、また、「住宅の内装業」を営む企業が、下請け形態から脱却しより高い利益率を得ることが可能な「リノベーション物件販売」に主力の事業形態をTransformationさせるなど、既存の事業戦略の一環として日頃から検討をしている「既存のTransformation戦略」そのものが、ここでの戦略となります。
    BCTPでは、危機が発生し長期化して事業環境の変化が予測できた場合、この事業環境の変化をトリガーにして、「既存のTransformation戦略」を発動させ、経営リソースを集中投入する対象を、既存の重要事業から「サブ事業」にシフトさせます。
    なお、BCTPでこの「既存のTransformation戦略」を活用する場合、Transformationさせる「サブ事業」の選定がポイントになります。例えば、将来成長することは間違いないが、あまりにも規模が小さく、成長に長期間要するような事業を「サブ事業」として選定した場合、企業全体の稼働率を早期に改善する効果は低いでしょう。


  2. 事業プロセスのバージョンアップ戦略
    この戦略は、危機の途中で重要事業のやり方(以下「事業プロセス」)の一部を、新しい「事業プロセス」バージョンアップさせる戦略をいいます。先の「(1)事業自体のシフト戦略」と異なり、重要事業をシフトさせることはありません。
    この戦略も、先の「(1)事業自体のシフト戦略」同様、BCPのために一から考える戦略ではありません。例えば、海外マーケットを取り込むために、国内生産体制を、国内と海外両方で生産する体制に「生産プロセス」をTransformationさせる、また、関西地方の顧客増に対応するために、関東の1ヵ所物流倉庫体制から、関東と関西の2ヵ所の物流倉庫体制に「物流プロセス」をTransformationさせるなど、既存の事業戦略の一環として日頃から検討をしている「既存のTransformation戦略」そのものがここでの戦略となりますが、先の「(1)事業自体のシフト戦略」よりも、圧倒的に戦略のバリエーションが豊富で、また、かかる戦略を取り得ない業種も存在しません。
    そして、BCTPでは、危機が発生し長期化して事業環境の変化が予測できた場合、この事業環境の変化をトリガーにして、「既存のTransformation戦略」を発動させ、事業プロセスを元に戻すのではなく、バージョンアップさせます。
    なお、BCTPでこの「既存のTransformation戦略」を活用する場合、危機の途中で、実際に、「事業プロセス」をバージョンアップするかどうかは、「既存のTransformation計画」の進捗次第という点に留意が必要でしょう。


  3. 生き残り戦略
    この戦略は、危機が発生した際、重要事業を「もとに戻す」まで耐え忍ぶ、まさに「生き残る」ための戦略をいいます。
    企業のおかれている個別の事業環境や、危機発生のタイミングによって、先の「(1)事業自体のシフト戦略」や、「(2)事業プロセスのバージョンアップ戦略」が取り得ないケースも当然想定されます。
    この場合、重要事業を「もとに戻す」しかなく、「もとに戻さずに変革する」というTransformation戦略は取り得ませんが、少しでも企業全体の稼働率を上げ「生き残る」ために、①余剰リソースの活用、②同業他社の稼働率アップによるマーケット全体の信頼維持、③事業整理等による組織のスリム化・筋肉質化、④資金繰り等、の対策をすべ全て検討しておくことが必要です。

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