初動対応を対象としたBCP訓練手法・シナリオの選び方
[このコラムを書いたコンサルタント]
- 専門領域
- BCP/BCM(事業継続マネジメント)新型コロナ・新型インフルエンザ等の感染症対策
- 役職名
- リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第四部長 主席コンサルタント
- 執筆者名
- 山口 修 Osamu Yamaguchi
2024.3.25
BCP訓練とは
BCP訓練とは、策定したBCPを実際に使用するイベントのことで、策定したBCPを関係者に周知したり、改善点を洗い出したりする手法として、とても有効です。
当社では、2015年から定期的に企業のBCM(事業継続マネジメント)取組状況に関するアンケート調査を上場企業を対象に実施していますが、2022年調査では、「1年間に1回以上BCPに関する何らかの訓練を実施した」と回答した企業は70%を超え、また、2019年調査結果と比較しても11.8ポイント増と取組拡大の姿勢も伺え、その重要性は一定認識されつつある状況です。
もっとも、訓練による効果を得るには、訓練対象者のBCPに対する理解度および訓練目的に応じた、適切な訓練手法を選択することが望ましいといえます。そこで、本稿では初動対応(主に人命安全確保と状況把握を目的とした対応)を実施する災害対策本部を対象とした訓練を例として、BCPに対する理解度に応じたおすすめの訓練手法について紹介します。
BCPの理解度に応じた訓練手法・シナリオの選び方
- 初級者向け
まず、BCPを策定してから日が浅い「初級者」は、BCPの記載事項を理解することから始めるべきでしょう。したがって、訓練手法としては、BCP記載事項を参加者で読み合わせする「読み合わせ訓練」をおすすめします。
なお、この手法は、運用は簡単ですが、記載事項をただ読むだけなので、イベントとして盛り上がりに欠けるという欠点があります。そこで、余裕があれば、地震等が発生したことを想定して、BCPに沿った対応事項を基もとに「どのタイミングでどの部署が何をするのか」を時系列のシナリオ形式でまとめ、そのシナリオを参加者で読み合わせするとよいでしょう。 - 中級者向け
次に、BCPの記載事項は一定理解している「中級者」は、BCPに記載のある各種判断が実際に実施できるか否かを検証するとよいでしょう。したがって、訓練手法としては、地震等が発生し電気・通信・交通等の社会インフラが使用できない等、実際に想定される具体的な状況を前提に、安全確認が終了していない建屋への突入、帰宅判断等のBCPに記載のある判断事項について深堀りしてディスカッションをする「ディスカッション訓練」をおすすめします。 - 上級者向け
最後に、BCPの記載事項への理解があり各種判断のプロセスについても一定理解している「上級者」は、実際の災害時に近い状況下、すなわち、判断に必要な情報を自ら収集し、しかも複数の判断事項を同時進行で処理することが求められるような状況下でも「臨機応変な判断」が実施できるか否かを検証するとよいでしょう。
そこで、訓練手法としては、実際に被害に遭遇した環境を可能な限り再現した「状況付与型シミュレーション訓練」をおすすめします。この訓練手法では、先の「ディスカッション訓練」と異なり、実際に想定される状況を一気に参加者に開示することはしません。実際には、各種状況が判明するタイミングはバラバラの時系列であるため、想定される状況や、社内外からの要望事項等はバラバラの時系列で参加者に開示します。また、事務局から開示する情報だけで判断するのではなく、参加者自らが、不足する情報を収集する環境を提供します。さらに、複数のテーマを同時進行で検討してもらいます。
この訓練手法は、事前準備や運営に時間がかかるのが難点ですが、実際に被災した状況を再現して実施するため、イベントとして盛り上がることは間違いなく、高いBCPの周知・課題の抽出効果が期待できます。
以上、本稿では、BCPに対する理解度に応じたおすすめの訓練手法について例示をしてきました。今後、本稿を参考に、適切な手法を選択いただき、緊急時の対応力を向上にお役立ていただければ幸甚です。