コラム/トピックス

リスク多様化の時代に経営資源視点で考える オールハザード型BCP

[このコラムを書いたコンサルタント]

山口 修
専門領域
BCP/BCM(事業継続マネジメント)新型コロナ・新型インフルエンザ等の感染症対策
役職名
リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第四部長 主席コンサルタント
執筆者名
山口 修 Osamu Yamaguchi

2024.3.25

オールハザード型BCPの必要性(自然災害だけでないリスク多様化への対応)

BCPとは、企業が自然災害等の緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期の復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方針、手順等を取り決めておく計画のことです。

では、実際にBCPの作成に取り掛かろうとしたときに、企業が重要視すべき事業中断リスクは何でしょうか。日本における事業中断リスクというと、「地震」が頭に思い浮かびます。事実、日本は地震が多い国ですが、近年、風水害、感染症、戦争、サイバー攻撃など、地震の他にも企業の事業継続を脅かすリスクが頻発・多様化していることから、地震のみを想定してBCPを策定することは得策ではありません。
あらゆる緊急事態を対象とした結果事象に備える「オールハザード型BCP」の考え方が重視されています。

オールハザード型BCPとは

  1. オールハザード型BCPとは
    オールハザード型BCPとは、「原因の事象が何であっても、結果として生じる事象に備えて事業を継続する」という考え方に基づくBCPです。地震や風水災といった個別の災害や特定のリスクという原因ではなく、原因がもたらした「結果」、例えば、要員の不足、停電、設備の故障、工場全体の操業停止、サプライヤー被災による原料調達不足等の「経営資源の毀損」に着目して考案するBCPです。したがって、どのような事象が発生しても、結果としての被害が同じであるならば、そのために立てた戦略や計画は、どんな事象が発生した場合でも、有効となることが期待できます。
    通常、BCPは大きく対応フェーズを「初動対応」「事業継続・復旧対応」の2つに分けて整理しますが、オールハザード型BCPも同様であるため、ここでも、フェーズごとにポイントを整理します。

  2. 初動対応フェーズのポイント
    「初動対応」とは、リスクが顕在化した直後の対応のことで、例えば地震の場合は避難、安否・被害確認、帰宅対応等の人命安全確保、状況把握等が該当します。「初動対応」は、地震や風水災、感染症等の原因となる事象によって対応内容が異なるため、オールハザード型BCPでも、個別のリスクに応じて具体的な対応手順を記す必要があります。「初動対応」は、日常業務と異なる対応であるため、手順を整備しておかないと行動を起こすことが難しいと言えます。したがって、リスクごとの「初動対応」マニュアルを整備することを推奨します。
    一方で、リスクごとに文書を整備するには労力がかかるため、共通のフォーマットを使用するなどして省力化を図るのがオールハザード型BCPにおける初動対応整備のポイントとなります。

  3. 事業継続・復旧対応フェーズのポイント
    初動対応がリスク顕在化直後に行うべき非日常業務であることに対して、「事業継続・復旧対応」は、日常業務を停止させない、あるいは早期復旧するための対策のことです。
    オールハザード型BCPでは、「重要業務(停止させない、あるいは早期に復旧すべき業務)」の実施に必要な経営資源に着目して対策を検討します。
    具体的には事業継続に欠かせない経営資源は、緊急時には使用不可能であるという前提で検討し、代わりとなる経営資源の有無を洗い出します。例えば、人員が重要な経営資源の場合は通常担当している社員を代替できる別の社員がいるか否か、設備が重要な経営資源の場合は当該重要な設備が使用できない場合に別の手段があるか否か、システムが重要な経営資源の場合はシステム停止時に別の手段で業務を続けられるか否か、といった形で洗い出しを実施します。
    また、「事業継続・復旧対応」では、個別の対策を検討する前提として、どのような方向性で事業を継続するかという「事業継続戦略」を検討することも必要となります。
    「事業継続戦略」には、大きく「現地復旧戦略」と「現地復旧以外の戦略」の2つがありますが、リスクの顕在化による被害が軽微であれば、被害物の復旧手順を整備することで現地での事業継続・復旧(すなわち「現地復旧戦略」)が可能となるでしょう。
    一方で、被害が大きく、現地での事業継続・復旧が難しい場合は、「代替拠点での復旧」、「他社との連携」、「在庫の払い出し」といった現地以外での事業継続・復旧(すなわち「現地復旧以外の戦略」)を検討することも必要になります。
    なお、「現地復旧以外の戦略」は基本的には高コストとなる傾向にあることから、想定されるリスクの影響度やBCPの整備に割くことが可能な経営資源の量(資金その他)を踏まえて準備することが事業継続戦略設定の基本的な考え方となります。

  4. まとめ
    以上、フェーズごとにポイントを見てきましたが、オールハザード型BCPの特徴は、初動対応フェーズにおいては、リスクごとに対応内容を整理しますが、その際に、共通のフォーマットを使用するなどして省力化を図ること、一方、事業継続・復旧対応フェーズにおいては経営資源(リソース)の毀損に着目して、現地復旧戦略・現地以外での復旧戦略の観点から取り得る戦略をあらかじめ検討し、対応策を整理しておく点にあります。

リスクが多様化・頻発化するなか、かかるオールハザード型BCPの構築は必要不可欠だと考えます。今後、本稿を参考に前向きに取組んでいただければ幸甚です。

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