コラム/トピックス

福祉避難所のBCP(量的課題と機能的課題について)

2024.3.26

福祉避難所(介護医療人材や設備を備えた避難所)の必要性と課題

MS&ADインターリスク総研は、2022年度に、福祉避難所の確保および機能向上における課題とその要因を明らかにすることを目的として、自治体と福祉避難所の双方に対してアンケート調査(以下「本調査」という)を行いました。本稿では本調査結果を踏まえた、福祉避難所の量的・機能的課題の考察結果を紹介します。本調査結果の詳細は、「RMFOCUS第88号」をご確認ください。 https://rm-navi.com/search/item/430

福祉避難所は、高齢者や障害者等の災害時に特別の配慮を要する者(以下、「要配慮者」)に対して開設される、介護や医療にかかる人員や設備を備えた避難所を指します。

2016年の熊本地震での死者は、災害による負傷の悪化や、避難生活等における身体的負担による疾病を原因とする、いわゆる災害関連死が大半であり、その8割は高齢者であったと発表されています。また、要配慮者は避難所生活において様々な制約があることや慣れない環境により心身の不調や悪化をきたすケースがあること等が報告されており、福祉避難所の確保はその指定を行う自治体の急務とされています。

2016年に内閣府より「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」(以下、「ガイドライン」)が公示され、福祉避難所に対する理解の促進と確保・設置の推進が図られたことから、近年ではその確保数は大幅に増加しています。

しかしながら、福祉避難所に関する先行研究では、量的課題が引き続き存在することが示唆されており、自治体による福祉避難所の指定にあたって、「候補となる施設が少ない」、「施設側に受け入れ余裕がない」等が課題とされています。MS&ADインターリスク総研が実施した本調査結果においても、福祉避難所の確保数が不十分であるにもかかわらず確保の取り組みを終えている自治体が多く、候補となる施設が少ないために苦慮している状況がうかがえました。

2021年のガイドライン改定では、一般の避難所内に要配慮者スペースを設置することが新たに推奨されており、このような取り組みは福祉避難所の候補施設が限られる自治体では要配慮者の避難場所を確保する際の新たな選択肢となるものと考えられます。

当該ガイドラインの改定は福祉避難所の定義を拡大するものですが、これに加え、福祉避難所の候補をより広範とするために福祉避難所の要件を再定義するようなアプローチも、福祉避難所の確保数が頭打ちとなっている自治体が確保数を増やすのに有効であると考えられます。

福祉避難所の運営上の課題

福祉避難所には、災害時に要配慮者が安全に避難し、十分なケアや支援を受けられるように準備をしておくことが求められます。このような福祉避難所に求められる機能の実効性を高めるためには、指定後もマニュアルの整備や避難所の設置・運営訓練などの取り組みを継続的に行う必要があると考えられます。

しかしながら、2015年に行われた先行研究では、福祉避難所運営マニュアルを「作成済み」とした自治体は約17%、「訓練をしている」とした自治体は約20%となっており、福祉避難所が機能するための取り組みが十分になされているとは言い難いものでした。このように、福祉避難所の実効性向上や指定後の継続的な取り組みといった機能的な課題の解決も求められています。これら機能的課題の解決については、2021年にガイドラインが改定され、要配慮者の災害発生時における効果的・効率的な避難行動や福祉避難所機能の実効性向上が期待されているところです。

しかしながら、先行研究から5年以上経過して実施した本調査においても、自治体が行う福祉避難所開設に関する研修や訓練の指導状況は、2015年当時の状況とほとんど変化は見られませんでした。一方、福祉避難所に対して行ったアンケートでは、福祉避難所に関するマニュアルを定めていると回答した108施設に対して研修や訓練の実施状況をたずねたところ、研修を行っているのは61件、訓練を行っているのは54件であり、マニュアルを整備したうえで研修や訓練を行っている施設は全体の15%程度でした。

福祉避難所が災害時に期待される機能を十分に発揮するためには、平時から研修・訓練を通じたマニュアルの習熟やシミュレーションを行い、災害時に想定される発生事象や必要な対応事項を具体的に把握しておく取り組みが求められます。また、研修・訓練の実施の前提となるマニュアルの整備にあたっては、自治体が福祉避難所となっている施設に対しマニュアルの作成を支援するとともに、平時から協議や情報交換などを積極的に実施することが推奨されます。

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