コンサルタントコラム

介護施設BCP~実効性のある避難確保計画の作成と避難訓練の実施~

2024.3.26

介護施設を含む要配慮者利用施設における避難確保計画の作成と避難訓練の実施状況

平成29年に『水防法』が改正され、要配慮者利用施設(注1)における「避難確保計画の作成・報告」および「避難訓練の実施」が義務化されました。これは、平成28年8月の台風第10号の河川氾濫により、岩手県岩泉町の高齢者グループホームにおいて入所者9名全員が犠牲となったことが背景となっています。また、令和2年7月豪雨では熊本県球磨村の特別養護老人ホームで入居者13名と職員1名が犠牲になるなど、近年、全国各地で豪雨等による水害は頻発しており、甚大な被害がしばしば発生しています。

国土交通省は『水防災意識社会再構築ビジョン緊急行動』において、令和3年度末までにすべての要配慮者利用施設で避難確保計画を作成することを目標にし、施設管理者等に働きかけるなど、必要な取り組みを行ってきました。しかしながら、法改正から5年が経過した令和3年9月においても、避難確保計画の作成率は約74%であり(注2)、避難訓練の実施率は約26%に留まっています(注3)。

このような現状を受けて、国土交通省は令和3年7月15日に『水防法』を改正し、要配慮者利用施設が避難確保計画に基づく避難訓練を実施した際は、その結果を市町村長に「報告すること」を新たに義務づけました。また、これら報告を受けた市町村長による「助言・勧告制度」も創設されました。これは気候変動の影響により全国各地で水災害が激甚化・頻発化すること等が懸念されている中で、各種水災や土砂災害時における要配慮者利用施設の避難確保をより確実なものとするためです。

要配慮者利用施設におかれては、水防法が改正された背景や目的を踏まえて、自施設の実態に合った計画の作成や実効性のある避難訓練の実施・報告が求められます。

注)
1)医療施設や福祉施設、学校、その他防災上の配慮を要する方々が利用する施設のこと。
2)国土交通省 要配慮者利用施設の浸水対策 計画の作成推移 (令和3年9月30日現在)
3)国土交通省 水防法等に基づく要配慮者利用施設における取組状況のデータより弊社にて算出

実効性のある「避難確保計計画」作成のポイント

避難確保計画の作成における課題には、「作成の課題」と「内容の課題」があります。

「作成の課題」としては、専門知識の不足が挙げられます。避難確保計画の作成には専門的な知識が必要となるため、施設管理者等は避難確保計画の作成の手引き等を使用して計画を作成しつつ、自治体等に助言を求めながら計画を練り上げることが重要です。また、小規模な施設は、少人数の職員によって運営され、単独で避難体制を整えることや計画を作成することが困難であると考えられます。この点おいては、自治体による助言や支援、周辺施設と一体となった避難確保計画の作成がポイントとなるでしょう。

また、「内容の課題」としては、避難計画の実効性の担保が挙げられます。【図1】は令和2年7月豪雨で被害を受けた高齢者施設の避難行動を、国土交通省と厚生労働省が共同で設置した検討会で有識者が検証してまとめたものです。ここでは避難確保計画の実効性に関する課題を取り上げています。例えば「避難先が災害リスクに対応した場所になっていない」といった避難先の課題や「避難先に利用者を移動させる訓練まで実施している施設は少ない」といった訓練の課題などが挙げられています。

これらの課題を踏まえ、検討会では避難の実効性を高めるために訓練結果を施設と自治体が情報を共有し、自治体が助言・勧告する支援を講じることとし、非常災害対策計画と避難確保計画を一体化して作成するとともに、タイムラインを踏まえた分かりやすい計画を作成することが避難の実効性を高める方策のポイントとしています。

【図1】高齢者福祉施設における避難の実効性を高める方策について

出典:国土交通省水管理・保全局・令和2年7月豪雨災害を踏まえた高齢者福祉施設の避難確保に関する検討会
「高齢者福祉施設における避難の実効性を高める方策について(とりまとめ概要)」

実効性のある「避難訓練」実施のポイント

避難確保計画は避難訓練結果を施設と自治体が共有し、避難訓練によって得られる教訓を避難確保計画等に反映することがポイントとなります。前述のとおり、令和3年の法改正により「避難訓練結果の報告」が義務化されましたが、その報告内容は、避難訓練の実施日、避難訓練の参加者・参加人数、避難訓練で想定した災害の種類、避難訓練の種類・内容に加え、避難先や避難経路の安全性の確認結果、避難訓練によって明らかになった課題とその改善方法等があります。また、実際に避難誘導を行った際には、避難支援に要した人数と避難に要した時間も記載することも求めています。

これらの報告内容から、国は単に形式的に要配慮者を移動させるだけの避難訓練ではなく、災害時を想定した実効性のある避難訓練の実施を求めていることがわかります。実効性のある避難訓練とは、報告内容にもあるように、具体的な被害想定の下、避難先や避難経路、避難のタイミング、実際に避難支援に要した人数、避難に要した時間等を検証するなど、避難訓練によって教訓を得られるものであるかどうかがポイントとなるでしょう。

避難確保計画・避難訓練は水害や土砂災害が発生した際、利用者・職員の生命を守るために必要不可欠なものです。要配慮者利用施設の管理者等においては、実効性のある避難確保計画の作成や避難訓練の実施に向けた主体的な取り組みが求められています。

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