コンサルタントコラム

企業の火災リスクの基礎知識と被害の傾向について

2024.4.19

火災リスクの基礎知識

火災リスクは、企業を取り巻くさまざまなリスクの中でも代表的なリスクです。他のリスクと比較すればその発生頻度は低いといえますが、これはあくまで統計上の考え方であり、防火思想の欠如した企業では頻度が高いといってよいところもあります。一方、火災が発生した場合の企業に及ぼす影響は極めて大きく、ひとたび火災が発生すれば長年の蓄財を一瞬にして失うばかりか、休業損害や残存物の片づけ費用など二次的な損失も発生します。したがって火災リスクは、企業のリスクマネジメント上、高い優先順位で検討すべきリスクの一つといえます。

企業が火災によって受ける損害は、次のように整理することができます。

  1. 財物の損害
    火災による建物、機械・設備、製品などの損害があてはまります。また設備の高額化や精密化は、火災1件あたりの被害額を大きくする危険性を潜在しています。例えば、半導体製造工場の製造機械に代表されるような精密機械を使用している工場では、わずかな煙や消火用水により多大な損害が発生するケースも見られます。また、危険物や可燃性ガスを多量に扱う工場では、爆発の衝撃波(圧力)により、多大な損害が発生することも想定されます。

  2. 人的な損害
    火災による従業員等の死亡・傷害にかかわり支出する費用が該当します。

  3. 第三者への賠償
    火災が発生し、第三者の身体もしくは財産に損害が発生した場合(例:隣接する他人が所有する建物に延焼した場合、受託物を焼失した場合など)には、損害賠償責任が発生することも考えられます。日本では、火災の延焼に伴って発生する責任については「失火の責任に関する法律(通称:失火法)」において、故意又は重大な過失がない場合には責任は問われないと定められています。しかし、企業の場合には個人と比較して失火については高度の注意義務が負わされており、実際に火災が発生した場合には重過失を問われることも十分考えられます。また、爆発については、失火法の適用を受けないため、爆発事故を起こして近隣住宅へ被害がおよんだ場合には賠償義務を負う可能性があります。

  4. 休業損害
    火災により罹災した場合、以下のような休業損害が発生します。
    • 罹災した建物や設備を再調達している期間や、行政から使用停止命令が出された場合、それが解除されるまでの期間等に、生産、販売活動を縮小あるいは休業したために失う「営業利益」
    • 休業中でも支払わなければならない給料や公租公課などの経常費の「赤字支出」
    • 復旧のための「臨時の費用支出」

  5. 社会的信用の失墜(イメージ損失)
    大きな火災事故を起こし、その結果として多数の死傷者が発生すれば、その企業の社会的信用が失墜することも考えられます。また、取引先企業への納入遅延によって、信用を失うこともあり得ます。特に昨今では、部品工場での火災事故が最終製品の製造に影響をおよぼすケースも多く、一工場での火災が全世界のマーケットに影響をおよぼす事例も珍しくありません。

火災現象とは

  1. 火災とは
    火災とは、「人の意図に反して発生若しくは拡大し、又は放火により発生して消火の必要がある燃焼現象であって、これを消火するために消火施設若しくはこれと同程度の効果のあるものの利用を必要とするもの、又は人の意図に反して発生し、若しくは拡大した爆発現象をいう。」 と定義されています。

    燃焼現象とは、「燃焼の3要素」と呼ばれる「酸素」「可燃物」および「火源(熱エネルギー)」が同時・同場所に存在することにより発生します。通常の空気中には、「酸素」が21%程度存在しているため、この環境下で「可燃物」と「火源(熱エネルギー)」が存在すれば燃焼現象となります。燃焼現象の種類としては、分解燃焼や蒸発燃焼などが挙げられます。分解燃焼とは、加熱によって可燃物が熱分解し、生成された可燃蒸気が燃焼する場合をいいます。具体的には、紙や木材を「可燃物」とした燃焼が分解燃焼に該当します。蒸発燃焼とは、加熱による熱分解を起こさずにそのまま蒸発し、その蒸気が燃焼する場合をいいます。例えば、ガソリンを「可燃物」とした燃焼は蒸発燃焼に該当します。

    一方、爆発現象とは、可燃性物質(蒸気)が空間に拡散した後に着火する現象です(水蒸気爆発などは除く)。爆発現象は、爆燃(膨張速度が音速に達しないもの)と爆轟(ばくごう。膨張速度が音速を超えるもの)」と呼んで区別することがあります。爆燃が衝撃波を伴わないのに対し、爆轟は衝撃波(周囲への圧力)を伴い、被害が大きくなります。

  2. 火災の建物用途と出火原因
    近年では、日本国内で発生した建物火災のうち、過半数は住宅の用途で発生しており、特に一般住宅での火災が最も多く発生しています。住宅以外では特定複合用途の施設や工場・作業場での出火件数が多くなっています。また、国内の建物火災では「こんろ」、「たばこ」、「電気機器」、「配線器具」、「放火」といった原因で火災が発生することが多くなっています。上記の出火原因は建物用途に関係なく発生していますが、このほかに「ストーブ」や「電灯電話等の配線」は住宅火災で発生件数が多く、「電気装置」や「溶接機・切断機」は住宅以外で発生件数が多い火災になっています。

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