防災・減災シリーズ(雷害リスク):雷害による被害の傾向
[このコラムを書いたコンサルタント]
- 専門領域
- 安全文化醸成、安全管理全般、災害リスク関連の体制強化・支援に強み
- 役職名
- リスクマネジメント本部 リスクマネジメント第一部長 主席コンサルタント
- 執筆者名
- 関口 祐輔 Yusuke Sekiguchi
2024.5.24
雷害による被害の形態
落雷による被害は、直撃雷による火災、爆発、破壊、熱傷、機器の焼損や機能損傷、停電などの被害と電気系統に発生する雷サージによる電源障害、電気電子機器の損傷、ノイズによる機能障害などに大別されます。
- 直撃雷による被害
直撃雷は雷雲の状態や大気中の電荷の状態により放電経路が形成され、落雷が発生する地点は地表の状態や雷を誘引する物体などの条件で決まります。事業所などにおける直撃雷による具体的な被害例を以下に列挙します。
- 放電電流に起因する出火、破壊
- 衝撃波や電磁力による機械的破壊
- 電気工作物の絶縁破壊
- 送配電系統の瞬時停電や電圧降下によるシステムダウン
- 可燃性ガスや液体への引火
- 電源障害・機能障害
- 人体の傷害
- 雷サージによる被害
雷雲の電荷(負電荷)によって、地表の物体あるいは電線路に静電気的に反対の電荷(正電荷)が誘起(静電誘導)されている状態で地表の物体に落雷が起こると、周辺の急激な電磁界の変化によって電線路などの導体に誘導起電力が生じ、電線路に誘導電流が流れます。瞬間的に高い電圧となることから、電線路から他の物体やケーブルに雷サージとして侵入します。また、地上の建物や設備に落雷があった場合、雷電流の一部が直接送電線に入り込み、雷サージとなって建物内の配線に侵入し、電気機器や通信機器に障害を及ぼします。
サージとは一般に短時間内に激しく変動する電圧、電流のことで、一過性の再現性のないものであり、誘導雷によるサージの電圧が数千ボルトとなった場合、室内で使用される電気機器の定格電圧と比較すると非常に高い電圧となります。これらの雷サージによる被害例として、機器の破壊や損傷による機能障害が挙げられますが、事業所における具体例な被害例を以下に列挙します。
- 構内交換機の破壊による通信不能
- コンピューター電源装置の破壊によるデータの喪失
- 監視装置、警報装置の破壊による誤報
- 計測、制御回路の破壊による制御不能
- 産業用ロボットの暴走による労働災害
- NC工作機械の誤動作による製品不良
- 配電盤の破壊による給電停止
火災に至った事故事例
雷により火災に至った事故事例を下記で紹介します。直撃雷が原因となる事故事例が比較的多いもののが、特に大火災となった事例の共通点は、大量の引火性液体などを保管している施設、または可燃性ガスを保管している施設で発生しています。引火性の高い可燃物(繊維工場の繊維、紡績工場の風綿等)を大量かつ広範囲に保管している場所の付近に直撃雷が落ち、電気エネルギーによって発生した大きなスパークによって引火し、延焼拡大して甚大な被害に至っています。引火性の高い物質を大量に取り扱う事業所、可燃性ガスを取り扱う事業所では十分な雷害対策を行う必要があります。
- 石油精製工場:蒸留塔に直撃雷、火災発生。蒸留塔のみの火災で済んだものの、1ヵ月間全工場操業停止。
- 化学工場:ブダジエンプラント抽出装置タワーに直撃雷。タワーのベントラインより可燃性ガスが漏えい洩し着火・延焼拡大。
- 化学工場:薄膜電解プラントの水素ガス放出塔に直撃雷。水素ガスに引火・爆発。放出塔が全損。
- 化学工場:泡消火剤原料中の不純物除去工程で生成した水素ガスの排気管脇に設置された避雷針に直撃雷。水素ガスに引火。
- LPGタンクヤード:ブタン球形タンク付設高所放出管に直撃雷。ブタンガスに引火・爆発。タンク火災に至るが泡消火設備により消火に成功。
- 繊維工場:直撃雷が工場に落ち、繊維工場10棟が全焼。
- 合板工場:排気ダクトに落雷。木屑に引火・延焼拡大し、工場は全焼。
- 複数の工場:工場周囲に落ちた落雷の誘導雷により、電気室内機器より発火。小火で収まるものの、工場操業の一定期間停止を余儀なくされた。
上記の他、複数の工場および一般事務所で落雷による雷サージにより、コンピューター室内のケーブルより発火し、小火で収まるものの、営業再開までに一定期間を要した事例もあります。