コラム/トピックス

BCP対策でサプライチェーンを強靭化するポイントとは?

[このレポートを書いたコンサルタント]

山口 修
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
所属名
リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第四部長
主席コンサルタント
執筆者名
山口 修 Osamu Yamaguchi

2024.7.9

大地震や水害などの自然災害の増加によって、事業継続の重要性がますます高まっています。近年では、熊本地震(2016年)、西日本豪雨(2018年)、台風19号(2019年)、新型コロナウイルス(2020年~)などの災害によって、サプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになり、多くの企業がBCP/BCMの見直しや強化を行うきっかけとなりました。
それでは、自社製品・サービスのサプライチェーンを構成する各サプライヤーの事業継続力を向上させるには、具体的にどんなことをすればいいのでしょうか?
事業継続マネジメントが専門で、MS&ADインターリスク総研のリスクマネジメント第四部長を務める山口修さんにポイントを聞きました。

そもそもサプライチェーンのBCP/BCMの現状は?

製造業のサプライチェーンは、数多くのサプライヤーによって構成されています。この中には、中堅中小企業も多く、BCPが必要だという認識はあるものの、取組に関するノウハウ不足や、実行するための人や時間が確保できないといった実情があります。このため、BCPをほとんど整理できていないケースも多く、企業によって取組状況にばらつきが大きいのが現状です。

まずは何から取り組めばいいの?

現状を踏まえて、それぞれのサプライヤーのBCMレベルの向上を支援する上では、まずは、ほとんどBCPに取り組んでいないサプライヤーに最低限の対策をとってもらい「0を1(ゼロをイチ)」にすることからスタートすることをおすすめします。
たとえば、「連絡先リスト」の作成や、緊急時の「社長の代行者」の整理など、簡単なプランをできる範囲で策定してもらうことも一案です。
“BCM取組ゼロ”の状態から抜け出すことの効果は、過去の災害でも確認されており、最優先で推進すべき支援と位置づけられます。

「0を1」にするための具体的な取組とは?

中小企業向けのBCPについては、中小企業庁などがBCPマニュアルの「雛形(テンプレート)」を公表していて、これらをベースにサプライヤーに必要な事項を記入してもらうことで、「短期的かつ均一的」な対応で一定の効果を出すことが可能です。
ただ、サプライヤーの「数が多い」という製造業のサプライチェーンの特性を踏まえると、すべてのサプライヤーに均一の支援を実施するのは現実的ではありません。支援にかかる負荷に差をつける対応などの工夫が必要です。
この点、たとえば、「サプライヤーとの付き合いの優位性(強さ)」と、「調達部材等の代替性」などの観点からサプライヤーに優先度をつけて、支援のあり方や負荷に差をつけることも有効な対応です。

「0を1」にしたら、次に取り組むべきことは?

おすすめは、プランの実効性を担保するための「BCP育成支援」まで実施することです。それぞれのサプライヤーのBCM取組を「1から10」にすることが目的です。ここでは、たとえば以下のような支援を行います。

  • プランの策定や見直しの「前工程」として実施する「自社の強み・弱みや資源の脆弱性、費用対効果分析等を踏まえた戦略オプションや事前対策の整理」。
  • プラン策定や見直しの「後工程」として実施する「事前対策の着実な実装や、プランを組織へ周知・定着させるための教育・訓練の実施」。

東日本大震災の際、実際に「代替手段の確保」、「事前対策の準備」、「訓練の実施」などの取組が役に立った事例が数多く確認できています。このようなBCP育成取組への支援は、先の「BCP策定支援」に加えて優先的に推進すべき支援と位置づけられます(下図参照)。

BCP策定支援とBCP育成支援の関係

取り組む際に注意する点は?

この支援は、「BCP策定支援」とは異なり、「短期的かつ均一的」な対応で効果を出すことはできません。
たとえば、育成取組のひとつとして「事前対策の準備」がありますが、「耐震補強」、「非常用電源確保」、「完成品在庫の積み増し」、「他社との連携推進」など、準備すべき事前対策は、サプライヤーの業態、立地、保有する経営資源などを考慮した個別の取組となります。
また、その取組は、各サプライヤーが、事前調査、各種調整、資金確保などを経て、限られた経営資源の中で、優先順位をつけて時間をかけて実施するものです。さらに、支援にあたっては、サプライヤーの「数が多い」という特性も考慮しなければなりません。

育成取組の効果を高めるためには?

大きく以下の2つの方策が考えられます。

  1. 支援対象や内容を絞り込む
  2. システムを使って自走化を促す

(1)については、たとえば、日頃から深い関係があり調達部材の代替が難しいサプライヤーに限定して、特定の調達部材に関連する設備の事前対策の実装状況のみを管理・支援する等の対応が想定されます。
一方、(2)については、たとえば、戦略構築や事前対策、教育訓練の実施など、その内容理解や継続実施にかかる膨大な手間を解消できるシステムをそれぞれのサプライヤーに導入してもらい、あわせてサプライヤーの自走化の進捗状況も管理する対応が想定されます。

おわりに

今回の記事のテーマである「サプライヤーにおけるBCM取組に対する支援」は、これまでは「BCP策定支援」に集中していたと認識しています。
もちろん、その支援が重要であることは間違いありませんが、今回はあえて「BCP育成支援」の重要性にもスポットを当てて、支援のポイントを整理してきました。
これまでの「BCP策定支援」に加えて、今後「BCP育成支援」を検討される際には、今回の記事を参考にしてください。

システムを使って自走化を促すサービス「レジリード」

記事の中で触れた、育成取組の効果を高めるための方策「システムを使って自走化を促す」に役立つサービスを、インターリスク総研は提供しています。
「レジリード」は、レジリエンスを学び(Read)、自ら先導していく(Lead)するという意味の造語ですが、システムの利用者が、自らBCPを策定して育てていくことを支援するシステムです。
このシステムでは、BCPを育てていく局面として、大きく「作れる」、「見直せる」、「緊急時でも活用できる」、「簡単に相談できる」の4つに整理したうえでメニューを構成しています。

サービスの詳細はこちらからご覧いただけます。

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