コンサルタントコラム

災害が起きたときに本当に役立つ避難訓練とは?~「防災の日」企業がとるべき備えとは② ~

2024.8.28

9月1日は「防災の日」です。MS&ADインターリスク総研では、「防災の日」にあわせて、シリーズで防災対策に関する情報をお伝えします。
今回は、避難訓練についてです。毎年訓練を行っていても、実際に災害が起きたときに本当に役立つのか不安に感じている企業の担当者もいらっしゃるのではないでしょうか?
いざという時に従業員が安全に避難して命を守れるようにするために、避難訓練のポイントを解説します。

そもそも防災の日とは?

国が1960年(昭和35年)に、広く国民に台風、高潮、津波、地震などの災害への認識を深めてもらうことなどを目的に創設し、毎年9月1日を「防災の日」とすることを決めました。そしてその後、この日を含む1週間を「防災週間」とすることとなりました。
東京消防庁によりますと、9月1日は関東大震災が発生した日であるとともに、台風シーズンを迎える時期でもあることから、この日を「防災の日」とすることになったということです。

避難訓練を「形骸化」させないためには?

避難訓練は多くの職場で実施されていますが、みんなで非常階段を使って1階に降りるだけ、集合場所で点呼をとって全員無事だったことにして終了、というようにマンネリ化・形骸化している例も少なくありません。避難訓練を形骸化させないためには、自社の状況に応じた具体的なシナリオを作成し、そのシナリオに沿って適切に行動できるかを検証することが重要です。

ちなみに地震の場合、新耐震基準(※)で作られた建物は、震度6強の揺れでは即座倒壊しないとされる設計基準のため、近年では、“避難しない訓練”が一般的となっています。建物ごとの耐震性能に応じて、速やかに避難するか否かの方針をあらかじめ定めて社内に周知しておくとよいでしょう。また、工場などでは建物の耐震性能に加えて、建物内に有害物質や火災・爆発の恐れがある危険物質を保管しているかどうかも、避難要否の判断基準になります。

※新耐震基準…日本での建築物の耐震性能を規定する基準です。1981年に改定され、以前の基準(旧耐震基準)に比べて、建物が地震に対してより強く、より安全に設計されることを目的としています。

避難訓練を実施する際には、以下のポイントを押さえて、効果的なシナリオを作ってみましょう。

  1. 具体的な状況設定
    「オフィスの○階から火災発生、火災直後より全館停電」など、具体的な発災状況を設定します。このシナリオに基づいて、従業員がどのように行動すべきかをシミュレーションします。
  2. 避難経路の確認
    設定されたシナリオに基づいて、適切な避難経路を確認します。火災などが起きた際にはエレベーターが緊急停止することが想定されるため、必ず階段を用いて避難することが重要です。エレベーターを用いると閉じ込められる恐れがあります。「エレベーターのほうが早い、疲れるのはいやだ、足腰が弱い」などの理由でエレベーターを使って避難しようとする従業員が散見されますが、絶対にエレベーターに乗らないよう訓練を通じて教育を徹底しましょう。
    また、避難経路上で火災が発生する可能性を想定し、代替の避難経路を定めておくことをおすすめします。
  3. 役割分担
    多くの職場では、自衛消防隊が事前に定められており、避難誘導、初期消火、緊急通報、救援救護などの役割が定められているはずです。訓練ではこの役割分担を再確認し、周知しておくことが重要です。少人数拠点やオフィスビルにテナントとして入居している場合など、自衛消防隊が設定されていない場合には、全員で緊急時に必ず実施すべき基本的な対応事項を確認しておく必要があります。
  4. 振り返り
    訓練後には必ず振り返りを行って、改善すべき点を共有します。所定の時間内に全員が集合場所までたどり着けたか、緊張感ある避難行動を実施できたか、点呼の場面では、実際にその場にいる従業員の人数を数えて正確に報告できたかといった点を確認します(安易に「全員無事でした」と読み上げるような予定調和側の点呼訓練はNG)。訓練ごとに振り返りを繰り返すことにより、いざというときに、従業員が安全に避難できる確率を高めていくことができます。

停電した場合の出入口の開け方は?

多くの職場では、自動ドアやカードキーを用いた入退館管理システムが導入されているはずです。電子制御されている多くのドアは、停電時には自動的に開錠される(パニックオープン)設定がなされている可能性が高いと思われますが、自社のオフィスの出入り口がどう動作するかを確認・周知することも重要です。手動もしくは物理キーを用いた開閉が必要な場合には、開閉手順や物理キーの保管場所についても社内掲示板で案内するなどの対策が必要です。

もしも火災が起きたときに備えるには?

火災発生時に初期対応を迅速に行うためには、消火器や消火栓の場所と使い方を従業員が把握している必要があります。以下の方法で確認を行いましょう。

    1. 場所の確認
      各フロアに設置されている消火器や消火栓の場所を確認します。視覚的に場所が分かりやすい表示を日ごろから行っておくことが効果的です。
    2. 使用方法の訓練
      実際に消火器や消火栓を使用する訓練を行います。なお、消火栓は放水時の水圧が強いため操作に不慣れな人が不用意に使用すると危険を伴うことから、消防署や防災の専門家による講習を受けるなどしてしっかり事前学習を行うことが重要です。これにより、緊急時に慌てずに対応できるようになります。
    3. 定期点検
      消火器や消火栓が正常に動作するか、定期的に点検を行います。点検結果を記録し、異常があった場合は迅速に対応します。ビル管理会社やメンテナンス会社に定期点検を委託している場合でも業者に任せっきりは禁物です。点検記録簿を確認するなどして、点検がきちんと実施されているか確認しましょう。

点呼だけでなく安否確認も重要!

点呼は、発災時に職場にいる従業員や関係者を対象に実施しますが、地震などの広域災害においては、職場にいない従業員(在宅勤務中、外回り中、休暇中など)も含めて全体の安否確認を実施する必要があります。広域災害時には通信障害や輻輳(通信の混雑)により携帯電話の通話機能が使用困難になる可能性がありますので、安否確認システムなどを活用することをおすすめします。

    1. 安否確認システムの導入
      安否確認ルールや安否確認システムの使用方法を従業員に周知します。特に安否確認ルールでは、「震度5強以上の地震が県内で発生した場合には、各社員が主体的に地震の安否を登録する」といったトリガーを明確にしておくことがポイントです。
    2. 安否確認ルールの周知
      実際に消火器や消火栓を使用する訓練を行います。なお、消火栓は放水時の水圧が強いため操作に不慣れな人が不用意に使用すると危険を伴うことから、消防署や防災の専門家による講習を受けるなどしてしっかり事前学習を行うことが重要です。これにより、緊急時に慌てずに対応できるようになります。
    3. 定期的な訓練
      安否確認システムを用いた安否確認訓練を定期的に実施します。報告がない(遅い)従業員、安否確認システムの使用方法を理解できていない従業員に対して、訓練後に個別指導を行い改善させることが重要です。
    4. 点呼ボードを準備しておく
      実際に避難が必要になったとき、各部署単位だけでなく、消火や避難誘導などの役割を担う「自衛消防隊」のメンバーも含めて全員無事かどうかを確かめることが大切です。そのために、各部署や組織単位で全員の名前が書いてある「点呼ボード(持ち運びできるもの)」を準備しておくと、迅速かつ正確な安否確認に役立ちます。

「防災の日」を防災対策の見直しのきっかけに

今回の記事で取り上げたポイントを押さえた訓練を定期的に行うことで、緊急時にも冷静かつ迅速に対応できる体制を整えることができます。災害が起きたときに本当に役立つ避難訓練を実施することで、従業員の安全を守り、企業全体のリスクマネジメントを強化していきましょう。

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