EU「自然再生法」が成立 全加盟国に生態系再生を義務づけ、2050年に9割目標
2024.9.10
EU理事会は2024年6月17日、「自然再生法」(EUの法体系では「規則」の位置づけ)を採択した。同法は、全加盟国に直接適用される。現在良好でない生息地で生態系の再生を義務づけ、2050年までに対象面積の9割に対して再生策を講じることを目指す。
2020年に発表された「2030年EU生物多様性戦略※1」では、法的拘束力のある自然再生目標を策定するとしており、同法はそれにあたるもので、以下の目標を掲げている。
- 2030年までに現在良好な状態ではない生息地面積全体の3割で再生策を講じる。2030年まではNatura 2000※2に登録されている地域を優先する。
- 2040年までに、現在良好な状態ではない生息地のタイプ別面積それぞれの6割で再生策を講じる。
- 2050年までに、現在良好な状態ではない生息地のタイプ別面積それぞれの9割で再生策を講じる。
またEU加盟国は、本規則の発効から2年以内に自然再生計画を欧州委員会に提出し、目標達成に向けた取組を報告する必要がある。
本規則では、陸地、海洋、淡水、都市等生態系の再生に向け、法的拘束力のある目標と義務が設定されている。本規則の概要を表に示す。
【表 自然再生法の目標と義務】
概要 | 条文 |
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Natura 2000に指定される保護区を優先して再生 | 第4条1項 |
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第4条1項 第5条1項 |
<都市生態系の再生>
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第8条1項 |
<河川の自然連結性と関連する氾濫原における自然機能の再生>
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第9条1項 |
<花粉媒介者の密度の再生>
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第10条1項 |
<農業生態系の再生>
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第11条2項、3項、4項 |
<森林生態系の再生>
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第12条2項 |
2030年までにEU全体で少なくとも30億本を追加植林 | 第13条1項 |
国別の自然再生計画の策定、および提出 | 第14~16条 |
計画の定期的な見直し、および改定 | 第19条1項 |
進捗の監視 | 第20条1項 |
進捗の定期的な報告 | 第21条1項 |
(出典:EU「自然再生法」をもとにMS&ADインターリスク総研が作成)
同法はEU加盟国の政府に課されるものであるが、各加盟国の事業者や住民が影響を懸念。特に、再生可能エネルギー事業者や農業関係者を中心に、エネルギーや食糧安全保障の観点から根強い反対がある。同法はこれらの意見に配慮しており、例えば再生可能エネルギー事業などの極めて公益性の高いインフラプロジェクトは適用を除外できる。また予測不可能な出来事が発生し、EUの食料消費に対して、十分な農業生産を確保するために必要な土地の利用可能性に深刻な影響が生じた場合に、農業生態系目標を一時停止することも規定されている。
同法の成立を受け、今後EU加盟国は国別の自然再生計画を策定、公表する。これらはEU域内でビジネスを行う事業者にとって、需要予測や事業投資を判断する材料の1つになるだろう。
【参考情報】
2024年6月17日付 EU理事会HP
https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2024/06/17~
※1 2030年EU生物多様性戦略
自然や気候に恩恵を与えながら2030年までに生物多様性を回復軌道に載せることを目指し、2020年にEUが策定した生物多様性における政策。保護地域のネットワークなど4つの主要分野と連携しつつ、生物多様性損失の要因を解消するための数多くの目標や履行する取組が具体的に示されている。
※2 Natura 2000
欧州の生物多様性を保全するため、1992年生息地指令(92/43/EEC)に基づき設定されたEU域内の自然保護区のネットワーク。Natura2000はEU域内の26,000地区、EU 全土の約18%に相当する面積を自然保護区に指定している。また、EU域内の海洋でも 2,000の保護地域が設定されている。
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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.6」(2024年9月発行)の掲載内容から抜粋しています。
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