NGFS、自然関連訴訟に関する報告書を公表
2024.9.18
気候変動・自然に関する金融リスクを検討するため各国の中央銀行・金融当局が参加する「気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)」は2024年7月2日、自然関連訴訟の新たな動向を分析した報告書を公表した。
報告書では、自然関連訴訟は生物多様性の損失だけでなく、森林破壊、海洋劣化、炭素吸収源、プラスチック汚染など、幅広いテーマと戦略を包括しているとの分析結果を明らかにした。
また、戦略的自然関連訴訟の増加も指摘。戦略的自然関連訴訟とは、人類が依存する生態系サービスを提供する自然の能力を保護するよう求めるのが特長だ。政策や規制、社会や企業の行動に影響を与えるツールとして利用されている。従来の環境訴訟が、影響範囲が狭い問題や単一の争点に焦点を当て、法律の厳守やぜい弱な種および生息地の保護を要請する点で異なる。
例えば、フランスではNGOが銀行3行を、生物多様性損失に関連してマネーロンダリングと盗品受領の容疑で刑事告訴している。これは、銀行がアマゾンの森林伐採に関与している畜産会社に融資をしている点と、そこから得られる利益があることを根拠としている。この事例のように気候関連訴訟と同様、複数のチャネルを通じて自然関連の金融リスクを発生させることが予想されるため、報告書では戦略的自然関連訴訟は金融システムに関連する点を強調しており、中央銀行や監督当局、金融機関に動向を注意深く監視するよう提言している。
また、報告書は、自然関連訴訟が今後、国家や公共団体に対する権利に基づく訴訟と、企業責任に基づく訴訟の2つのカテゴリーに分類されることを予想しており、どちらも増加を続けることを示唆した。特に、企業責任に基づく訴訟については、企業のグローバルサプライチェーンを通じた自然劣化に対する企業責任を立証するという目的があるため、様々な法的戦略をとる可能性を提示。その中でもNGFSは、特に企業の持続可能性に関するデュー・デリジェンス、グリーンウォッシュ、環境犯罪に対する執行強化の取り組みといった分野において自然関連訴訟と自然関連法が複雑化・高度化する可能性を指摘している。
このような企業に対する訴訟は当該企業だけでなく、同じセクターの他企業やその企業を支援する金融機関、さらにより広範な金融システムにも影響を与える可能性があり、NGFSは金融機関が既に自然関連訴訟の標的になっていることを強調する。さらに、自然関連の事例にはすでに気候に基づく議論が含まれている一方で、逆のケースも増加傾向にあることから、気候関連訴訟と自然関連訴訟が相乗的に利用されることで、金融システムへの圧力を強める可能性があると考察している。
報告書では具体的な事例や判例が記載・リスト化されており、これらの訴訟の影響やリスクを評価し、金融機関や監督当局が直面する可能性のある法的リスクについても説明している。また、自然関連のリスクを金融システムに組み込むための政策や規制の必要性も強調されており、本報告書は、金融機関や政策決定者に対して自然関連のリスクを適切に管理し、持続可能な経済への移行を支援するための具体的な指針を提供するものとなっている。
なお、本報告書と併せて、自然関連訴訟による法的リスク増大に注意喚起することを目的に、NGFSの最新版「自然関連金融リスク:中央銀行と監督機関の行動を導くためのフレームワーク(Nature-related Financial Risks: a Conceptual Framework to guide Action by Central Banks and Supervisors)」も公開された。
NGFSには日本銀行、金融庁などの141の機関が参加している。
【参考情報】
2023年7月2日付 NGFS HP
https://www.ngfs.net/en/report-nature-related-litigation-emerging-trends-lessons-climate
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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.6」(2024年9月発行)の掲載内容から抜粋しています。
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