自然の力で社会課題を解決? グリーンインフラとしても話題のNbSを解説
[このコラムを書いた研究員]

- 専門領域
- 自然資本
- 役職名
- 主任研究員
- 執筆者名
- 朝倉 陸矢 Rikuya Asakura
2025.11.28
通勤途中に見かけるどこにでもありそうな「植え込み」が、非常時には洪水を和らげたり、地場産業の衰退に直面する地域の特産品を生み出したりするかもしれません。
この自然が持つ機能を活かして社会課題の解決を図る考え方は、「自然を活用した解決策(NbS)」と呼ばれる概念です。気候変動や生物多様性保全の対策にとどまらず、防災・減災や地域振興まで複数の課題を同時に解決することが期待できることから、いま注目が集まっています。
このNbSが日本の未来の防災やまちづくりにどのような効果をもたらすのか?国内外の動向や具体的な取組事例を通して、わかりやすく解説します。
流れ
- NbSってどんなもの? ――概要と定義
- 国内外で進むNbSの取組み
- 日本での広がりとこれから
- メリットと課題 ――実践に向けて
NbSってどんなもの? ――概要と定義
自然を活用した解決策(NbS: Nature-based Solutions)は自然の持つ多機能な特性を活用し、生物多様性や気候変動だけでなく、防災・減災や食料問題、人間の健康増進などといった複数の社会課題を同時に解決することを目指す取組みです。2009年にIUCN(国際自然保護連合)が提唱し、欧州から広まっていきました。生物多様性保全の国際目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の目標8・11にも、この要素が盛り込まれています。
このNbSの考え方は、1960年代以降に行われてきた「生物や自然を守る」活動を「人間とその社会も守る」ものへと範囲や意義を拡大させたもので、「『傘』となる大きな概念」と形容されることがあります。
NbSの一番のポイントは、自然を活用して、地域が抱える“複数の課題”を、同時に解決できる可能性がある点です。これについて、「雨庭」を例に説明します。
雨庭は、ビルの屋上や道路わき、駐車場といった、アスファルトやコンクリートで覆われている場所に砂利と植物を導入し、雨水を貯められるようにした施設です。京都府や東京都(含む当社グループの三井住友海上駿河台緑地)、熊本県(写真)などで導入が積極的に進められています。
実際に設置された雨庭の様子
(中央の窪んでいる部分)


撮影:筆者
「雨庭」には、「雨水を貯留する」ことによって洪水を防ぐ機能がありますが、それ以外の多様な効果も期待されています。「水を地下へ浸透させる」効果によって地下水の保全にも貢献できるほか、植物のもつ「癒し」や「遮熱」という効果は、地域住民のウェルビーイングや暑熱対策にもつながります。さらに、昆虫など「生物の住処となる」ことで生物多様性の保全や再生ができ、そこに集う動植物はその地域の新たな名物になるかもしれません。
こうした多面的な効果は、これまで洪水対策として整備が進められてきた堤防やダム(いわゆるグレーインフラ)には備わっておらず、その有用性が注目されています。
雨庭のもつ多面的な機能と効果(例)
| 機能 | 効果 |
|---|---|
| 雨水の貯留 | 洪水を防ぐ |
| 雨水の地下への浸透 | 地下水の保全 |
| 植物による癒し | ウェルビーイング |
| 植物による遮熱 | 暑熱対策 |
| 動植物の生息地確保 | 生物多様性保全 |
| 動植物の生息 | 地域振興(希少種・特産品) |
IUCNは2025年10月に行われたIUCN WCC 2025にて、NbSの基準の第2版を発表しました。NbSの質と信頼性の向上や、基準の実用性を高めるための改訂が行われ、取組みがさらに広がろうとしています。
国内外で進むNbSの取組み
このほかには、NbSにはどのような例があるのでしょうか。
「地域や産業の振興」に貢献するものに、銀座で養蜂を行う「銀座ミツバチプロジェクト」があります。2006年から始まったこの活動では、ビルの屋上に巣箱を設置しています。そこに棲むミツバチは皇居や日比谷公園などの公園や、屋上緑化を取り入れたビルから蜜を集めます。こうしてできたはちみつは、近隣の百貨店で販売されるほか、周囲のショップとコラボレーションした商品開発に使われています。
海外では、ネパールでの農業技術の向上と農地の再生へ向けたプロジェクトがあります。伝統的な作物の生産は維持しつつ、高付加価値の農作物を導入することで、農家の生活向上に貢献するものです。さらに、侵略的外来生物の排除によって周辺環境を回復させつつ、自然を活用した緩衝帯をつくり、野生生物による農作物への被害を軽減させています。
こういった活動は、1つの企業や団体だけでは進めていくことはできません。そこで、同じ地域に住む地域住民や操業している企業、大学などの学術機関、環境NPO、それらを管轄する行政が協力して取組む「コレクティブアクション」が重要とされています。金融機関においても、プロジェクトへの出資や保険の引受、協力する企業への援助など様々な形での関与が始まりつつあります。
日本での広がりとこれから
日本では関係する省庁がそれぞれ施策を進めていますが、ここでは国土交通省(以下、国交省)によるNbSとしての「グリーンインフラ」推進を紹介します。
「グリーンインフラ」はNbSに含まれる自然保護のアプローチのうち、その名の通りインフラにカテゴライズされるもののひとつです。国交省では「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」と定義しています。その他資料と合わせ、ほぼNbSと同義で用いられていると読み取れます。
国交省によるグリーンインフラの定義


出典:国土交通省(2024)「グリーンインフラの事業・投資のすゝめ 参考資料集~経済効果の見える化を通じた都市開発・
まちづくりにおける投資促進に向けて」より抜粋
また、先述したダムや三面護岸(河川の両岸と底をコンクリートで固めた工法)に代表される「グレーインフラ」の対義的な意味合いで使われることも多い言葉です。
これまでの経緯としては、2015年に初めて政府文書でこの言葉が用いられ、戦略策定などが実施されてきました。2020年には、グリーンインフラの社会実装を推進するための「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」が設立されました。2023年には本格的な社会実装や、ネイチャーポジティブ※1などの世界的な動きも踏まえた「グリーンインフラ推進戦略2023」が策定。ここでは「産学官金の多様な主体の取組の促進」「支援の充実」だけでなく「新技術の開発・活用の促進」「実用的な評価・認証手法の構築」も施策のひとつと位置付けられています。
メリットと課題 ――実践に向けて
NbSは、洪水緩和や生物多様性保全、地域経済の活性化、地域住民のウェルビーイングといった複数の課題を同時に解決できる、大きな可能性を秘めています。一方で、期待される効果を確実に得るには、科学的根拠に基づく設計・評価、長期的な維持管理や資金確保、他者(他社)との協力といった課題もあります。まずは身近な施設の緑化など、小さな一歩から関わりを深めていけないか、検討してみてはいかがでしょうか。
1)自然の損失を止め、回復させるための国際的な目標。「(2020年を基準に)2030年までに自然の損失を止め、反転させる。そして、2050年までに完全回復を達成する」というものである。
生物多様性条約や国内外の政策決定、ビジネスの現場においても頻繁に用いられている。経済から社会、政治、技術までのあらゆる分野で現状の改善を促し、自然が豊かになっていくプラスの状態にするための目標として、この言葉が使われている。
【参考文献】
- IUCN、「自然に根ざした解決策に関するIUCN世界標準. NbSの検証、デザイン、規模拡大に関するユーザー フレンドリーな枠組み」(2021年)
- グリーンインフラの市場における経済価値に関する研究会・国土交通省、「グリーンインフラの事業・投資のすゝめ 本編・参考資料集」(2024年)
- 古田尚也、「特集 NbS自然に根ざした解決策 生物多様性の新たな地平. BIOCITY NO.86」(2021年)
- 国土交通省、「グリーンインフラ実践ガイド」(2023年)
- 国土交通省、「グリーンインフラ推進戦略」(2023年)
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