コラム/トピックス

自然資本と資源循環―気候変動時代に求められる持続可能な経営基盤

[このコラムを書いたコンサルタント]

川崎 亜希子
専門領域
気候変動、自然資本
役職名
リスクマネジメント第五部 
サステナビリティ第一グループ 
上席コンサルタント
執筆者名
川崎 亜希子 Akiko Kawasaki

2025.9.10

企業を取り巻く事業環境は、かつてないスピードで変化している。その中でも、環境・社会といったサステナビリティに関連した事業環境は劇的に変化し、「気候変動」はあらゆる業界に共通する重要課題となっている。そこから波及して、「自然資本」や「資源循環」が企業価値に影響を及ぼすようになりつつある。

自然資本の劣化がもたらす財務リスク

「自然資本」とは、自然に存在する森林、水資源、土壌、大気、生物多様性などを経済活動の基盤となる「資本」として捉える概念であり、そこから生み出される自然のめぐみ=生態系サービスは「便益のフロー」として社会経済を支えている。そのため、自然資本が減少・喪失した場合、例えば原材料コストの上昇、サプライチェーンの混乱、ブランド毀損といった企業の財務への影響につながる。

また、気候は自然の一部であって相互に影響を及ぼす関係にある。森林減少や生態系破壊は炭素吸収量の低下につながり、企業の温室効果ガス(GHG)削減努力を相殺する可能性もある。

金融市場では企業のサステナビリティ関連のリスク管理能力への関心が一段と高まっている。

2017年のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に続き、2023年にはTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)提言が発表された。提言では、企業に対し自然への依存やインパクトを財務的リスク・機会として認識し、管理・対応し、その情報を開示することを求めている。機関投資家は、それら情報を基に企業の短中長期的な事業のレジリエンスを評価する。企業のサステナビリティ情報開示を推進するCDPでは、既にTCFDやTNFDの要素を組み込み、その情報開示を企業に要請している。また、一部の機関投資家はCDPの気候変動や自然資本の回答状況をスチュワードシップ活動に活用するなど、気候変動や自然資本への対応やその情報開示が投資判断に使われつつある。

資源循環は気候・自然戦略にもつながる

資源の「採取→製造→使用→廃棄」というリニア型経済モデルを続ければ、いずれ資源が枯渇するという危機感から、先進国を中心にリデュース・リユース・リサイクルの3R活動が進められてきた。3Rは資源枯渇の速度を遅らせることができるが、それだけでは根本的な解決にはならないことから、その打開策として循環型経済(サーキュラー・エコノミー)の概念が生まれた。循環型経済は、資源が「長寿命化・シェアリング・改修・再利用・リサイクル」のループ内に半永久的にとどまる持続可能な経済モデルとされる。

循環型経済は経済の仕組みであるが、一企業としてはそれを「資源循環」と置き換えることができる。そして資源循環は、原材料採取や製造プロセスからのGHG削減という気候変動対策や、原材料採取時の土地改変の低減といった自然資本減少の対応策としても有効である。

このように気候変動・自然資本・資源循環は不可分であり、また、企業価値そのものにも影響を与える要素である。自然や気候変動などのサステナビリティ情報開示や自然資本減少や回復への取組み、資源循環型のプロダクト設計は、一見すると「コスト」と捉えられるかもしれないが、自社のレジリエンス向上や新たな資金調達先の開拓、金融市場からの信頼・期待の獲得のような「投資」になり得る。

これまでは可視化しづらかった「事業と自然とのつながり」を評価し、また循環志向によるプロダクト・事業設計を社内に浸透させ、それらと気候変動とを一体的に管理・対応していくことが、これからの主流となるだろう。

(2025年9月4日 三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)

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