大災害発生時に適切な初動対応ができる環境を整備しよう! ~安全配慮義務に配慮した各拠点の適切な初動対応の自走化支援~【RMFOCUS 第91号】
[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 所属名
- リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第四部長
- 執筆者名
- 山口 修 Osamu Yamaguchi
2024.10.3
ポイント
- 大災害発生時に被災した各拠点は、主体的に安全配慮義務に配慮した対応を実施しなければならないが、これら初動対応は対応主体である各拠点任せではなく、組織全体で各拠点の「自走化」を支援する環境整備が必要となる。
- これら環境整備の大前提として、大災害発生時の安全配慮義務の特性や対応のポイント等を踏まえて整理をした「安全配慮義務に配慮した対応の検討モデル」を紹介する。
- これら環境整備として、上記検討モデルを使った組織全体のルール構築、教育や訓練の機会提供、現状把握とバックアップ等を推奨する。
- 新しい環境整備の潮流として、各拠点の緊急時の「混乱状態」の軽減・回避に対する支援の検討を推奨する。この支援策の一例として、緊急時の情報収集・とりまとめの自動化によって各拠点の「混乱状態」を軽減・回避するシステムの活用を提示し、参考までにMS&ADインターリスク総研が開発したシステム「自然災害時アクションサポートサービス」の概要をコラムで紹介する。
はじめに
企業等は、大地震等大災害発生時に、危険建物への立入可否判断/近隣からの支援要請対応/従業員等の帰宅判断および出社可否判断等、従業員等の安全確保(安全配慮義務)に配慮した対応が求められる局面に数多く直面する。
これらの対応は何よりもスピードを求められることから、その対応主体は、被災した各「拠点」となるが、人命に関わる重要な対応であること、何が正解か不明確な中での難しい判断を求められること等の理由から、各拠点がこのような対応を適切に実施できるよう組織全体で環境を整備することが必要となる。
そこで、本稿では、大災害発生時の安全配慮義務の特性やこの義務に配慮した対応のポイントを踏まえたうえで、各拠点における適切な初動対応の「自走化」を支援する環境整備のあり方について整理をしたい。
1. 大災害発生時の安全配慮義務の特性
(1) 大災害発生時の安全配慮義務とは
企業等には、災害発生時でも、従業員や来客者等の生命・身体の安全を確保しなければならない「安全配慮義務」がある(労働契約基本法5条・民法1条2項)。
このような義務の重要性は、近年、「台風が接近している段階で事業所や店舗を休業させる」事例が増えていることから、企業等において浸透しつつあるが、一方で、この義務に焦点を当てた裁判例や研究が少ないため、義務の具体的内容はまだまだ不明確であることも事実である。そこで、まずは、この義務の内容を明確にイメージしていただくために、これら義務に配慮しなければならない具体的なケースを例示する(表1)。
(2) 安全配慮義務に配慮した対応の特性
① 他影響とのバランスを考慮することの必要性
先ほど大地震発生時の初動対応における安全配慮義務に配慮すべきケースを例示したが、「安全配慮義務だけを突き詰めれば他が犠牲になる」ケースが多いことがわかる。例えば、「救助のために立ち入り禁止と判断した危険な建物に従業員を突入させる」ケース(表1③)を見てみよう。この場合、突入する従業員の安全のみを考えると「突入させない」との対応になるが、「ケガ人の救助活動をしない」企業等の対応に人道的観点から不信感を抱く従業員が出てきても不思議ではない。
もう1点、「近隣支援のために従業員を派遣する」ケース(表1⑥)についても見てみよう。この場合も、派遣する従業員の安全のみ考えると「派遣しない」との判断になるが、「応援してくれない」企業等の対応に近隣住民が不信感を抱き、SNS等に不信感を書き込む等のリスクも想定される(表2)。
このように、安全配慮義務に配慮した対応を実施する際は、安全配慮義務だけを突き詰めれば「正解」というわけでなく、人道的観点、レピュテーション、事業継続等、他の影響とのバランスを考慮することが必要不可欠となる。・・・
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