「大規模地震発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドライン」改定を踏まえた、 事業者の帰宅困難者等対策取組みの再点検・見直し BCMニュース(2024 No.1)
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2024.11.1
ポイント
- 2024 年7月26日に、内閣府「大規模地震発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドライン」が改定された。
- 今回の改定では、「帰宅困難者等の適切な行動判断のための情報提供のあり方」が整理され、また「一斉帰宅抑制後の帰宅場面における再度の混乱発生の防止」を目指した指針・対応例が追加された。
- 帰宅困難者等対策は、「初動対応」から「事業継続」への繋ぎの部分として非常に重要な取組みであるが、事業者によっては十分に検討できていないケースが見られる。また、昨今のリモートワーク等の浸透により、従来の帰宅困難者等対策が形骸化している可能性もある。今回のガイドライン改定を機に、自社の帰宅困難者等対策を再点検・見直し頂きたい。
1.内閣府「大規模地震発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドライン」改定
内閣府が2024年7月26日に「大規模地震発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドライン(以下、ガイドラインという)」を改定・公表した。
本ガイドラインは、東日本大震災(2011年3月)の影響により、首都圏において約515万人(内閣府推計/当日中(午前0時まで)に帰れなかった首都圏の人数)に及ぶ帰宅困難者が発生したことを機に、官民連携の「首都直下地震帰宅困難者等対策協議会(座長:内閣府政策統括官(防災担当)、東京都副知事)」で取りまとめられた最終報告(2012年9月)を基にして2015年3月に策定されたもので、首都直下地震をはじめとした大規模地震発生時には膨大な数の帰宅困難者の発生が想定されることから、その安全確保と円滑な対応を図るための指針を提供することを目的としている。
今回の改定は、東日本大震災の発生から10年以上が経過し、鉄道網や幹線道路等の耐震対策の進展や、デジタル技術の発展など、帰宅困難者等対策において考慮すべき社会状況の変化を踏まえて、「首都直下地震帰宅困難者等対策検討委員会(座長:東京大学先端科学技術研究センター 廣井悠教授)」が取りまとめた「帰宅困難者等対策に関する今後の対応方針(令和4年8月)」に基づき、官民が連携して行った具体施策に関する検討内容を踏まえたものである。
そこで本稿では、ガイドラインの改定概要を紹介し、ガイドライン改定を踏まえた事業者の帰宅困難者等対策取組みのポイントを、事例を交えつつ解説する。
なお、帰宅困難者等対策は、一般的に大都市特有の対策(著しい渋滞や群衆なだれ、オープンスペースの不足等が考えられる為)とみなされることが多いが、後述する帰宅判断や事業所内待機は、法的責任の観点からも全ての事業者に求められる判断・対応事項である為、三大都市圏(首都圏・近畿圏・中京圏)以外に所在する事業者も、しっかりと取り組んで頂きたい。
2. ガイドライン改定の概要とポイント
ガイドラインでは、帰宅困難者等対策の具体的な取り組み内容として、従来より以下の項目が取り上げられていた(以下の章立て番号は、改定版ガイドラインの章立て番号を記載)。
- 一斉帰宅の抑制(第2章)
- 一時滞在施設の確保(第3章)
- 帰宅困難者等への情報提供(第4章)
- 駅周辺等における混乱(第5章)
- 徒歩帰宅者への支援(第7章)
- 帰宅困難者等の搬送(第8章)
- 国民一人ひとりが実施すべき平時からの取組(第9章)
今回の改定のポイントは、次の二つの観点が新たに加わった点にある(図1参照)。
- 帰宅困難者等の適切な行動判断のための情報提供のあり方の整理(第4章への追記)
- 帰宅開始場面における新たな混乱発生の防止(第6章として新設)
(出典:廣井悠・中野明安「これだけはやっておきたい!帰宅困難者対策Q&A」(2013年9月)を基にMS&ADインターリスク総研にて加筆修正)
(1) 帰宅困難者等の適切な行動判断のための情報提供のあり方の整理
ガイドラインの第4章では「帰宅困難者等への情報提供」について言及がなされているが、今回の改定では、こうした情報提供のあり方があらためて整理され、「大規模地震発生時における帰宅困難者等の適切な行動判断のための情報提供シナリオ」として新たに追加された(当該図表については 12 ページの巻末図参照)。
帰宅困難者等への情報提供は、①帰宅抑制に資する情報、②安全な滞留を助けるための情報、③帰 宅・帰宅支援に関する情報、④帰宅困難者の搬送に関する情報に大きく分類される。今回の改定では、帰宅困難者等が適切に行動できるようにするためには、これらの情報について「時系列で変化する帰宅困難者等の行動を鑑みて、各主体が連携した一連の情報を帰宅困難者等に届ける必要がある」という考えの下、各主体が「いつ」、「どのタイミングで」、「誰が」、「どのような情報を」出すのかを時系列で整理した。
この各主体には、一時滞在施設等の管理者や行政、鉄道事業者、そして本稿のメインの読者であ ろう企業等が含まれている。図2はガイドラインで新たに掲載されたシナリオの内、帰宅困難者等(≒企業で言えば従業員等)と企業等の時系列の動きを抜粋したものであるが、こうした時系列ごとの対応・判断と情報の整理は、自社のルール等整備においても有効活用できる為、ぜひ今一度ご確認頂きたい(なお、当該シナリオを活用した各種判断・対応のあり方については本稿第3章参照)。
(出典:内閣府ガイドラインを基にMS&ADインターリスク総研にて加筆修正)
(2) 帰宅開始場面における新たな混乱発生の防止
また、新たに第6章として「帰宅開始場面における新たな混乱発生の防止」が設けられ、一斉帰宅抑制後の帰宅行動指針、ならびに同指針を踏まえた各主体における対応例が追記された。
従来より、ガイドラインでは「一斉帰宅の抑制の徹底」が呼びかけられていた。これは、災害発生初期の段階で帰宅困難者等が無秩序に一斉帰宅を試みることによる、①群衆なだれ・大規模火災・建物倒壊等に巻き込まれる、②交通渋滞によって消防車や救急車が遅れたり到着できずに致命的な損害をもたらす…
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