医療・福祉の現場におけるカスタマーハラスメントについて
[このコラムを書いたコンサルタント]
- 専門領域
- 医療福祉分野、事業継続マネジメント(BCP・BCM)
- 役職名
- リスクマネジメント第四部 社会保障・医療福祉グループ
- 執筆者名
- 岡田 拓巳 Takumi Okada
2024.11.22
今年5月頃から「カスタマーハラスメント(以降、「カスハラ」)」への対策を企業へ義務付ける法整備に関するニュースが度々報道されている。また、東京都では今年10月に全国で初となるカスハラ防止に関する条例が可決・成立し、2025年4月に施行される。企業のハラスメント対策等を規定している労働施策総合推進法では、現状カスハラへの対策は努力義務ではあるが、これを契機に企業におけるカスハラ対策の整備が期待される。
医療・福祉の現場は、その職場環境やサービスの特徴からカスハラを受ける可能性が高いと考えられる。これまでは「我慢することも業務の一つ」といった具合に見過ごされてきたと思われるが、昨今の社会情勢を踏まえて対策を検討する事業者は増えている。本項では医療・福祉現場の特徴を踏まえたカスハラ対策の考え方について整理したい。
(1)カスハラ対策に取組む意義
カスハラ対策に取組む意義は、まず従業員が安心して働くことができる環境を整備し、人材の確保や定着を図ることが挙げられる。また、従業員が不満やストレスを抱え込めば、患者・利用者等への報復に繋がる可能性もあるため、虐待防止にも繋がる。これに加えて、カスハラの発生要因を分析し、患者・利用者等の状態や特性に対して提供しているサービスにミスマッチ等があることが判明すれば、サービスの向上や人材育成にも繋がり得る。このように人と人が密接に関わる医療・福祉の現場ではカスハラ対策への取組みがより重要であると言える。
(2)医療・福祉の現場におけるカスハラ対策の要点
多くの業種では、カスハラを行う客に対して「従業員の保護」を理由に、しかるべき対応をした後にサービスの提供を断ることも可能であるが、医療・福祉の現場では提供されるサービスによって患者・利用者等の生活が維持されているケースもあり、すぐにサービス提供をお断りすることが難しいこともある。
こういった特徴も踏まえ、現場の従業員がカスハラ問題を一人で抱え込んでしまうケースも少なくない。医療・福祉の現場におけるカスハラ対策では「従業員がカスハラ問題を気軽に相談できる環境を整備する」ことが重要である。現場で働く従業員はカスハラを受けたとしても、「相談することで能力が低いと思われる」「患者・利用者等の状態や特性によるため仕方ない」といった理由で上司や同僚に相談しづらい環境がある。事業者はこういった従業員の不安や心情をくみ取り、気軽に相談できる体制を整備するよう努めなければならない。例えば、相談することで評価が下がる等の不利益は被らないことを明言したり、弁護士等の外部専門家に窓口をお願いしたりする等の取組みが挙げられる。
従業員を守る一方で、事業者自身もどのような対応が適切か等で悩むことが考えられる。そのような場合もやはり事業者のみで抱え込まずに、第三者委員や当該患者・利用者等に関わる他事業者、行政の担当部署等の関係機関に相談し、解決に向けた助言や支援を依頼すると良い。
医療・福祉の現場におけるカスハラ対策に取組む意義やその要点について解説した。要点として挙げた「従業員が問題を気軽に相談できる環境づくり」は、医療・福祉だけでなく全業種で求められる対策である。業種や企業規模等に関わらずカスハラ対策に取り組み、従業員が安心して働ける職場環境の整備が進めば幸いである。
(2024年11月14日 三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)