シャドーITとは? 用語の意味から企業に及ぼすリスクまで分かりやすく解説
2024.11.25
リモートワークの普及に伴い、社員が企業の許可なく使用するITツールやサービス、いわゆる「シャドーIT」が急増しています。特にクラウドサービスの利用増加に伴い、個人の判断で脆弱なセキュリティ設定のまま利用してしまうことで、情報漏えいなどのリスクが生じやすくなっています。
実際に、個人で設定したファイル共有サービスが原因で機密情報が流出したという事例も報告されています。このようなインシデントは、企業のセキュリティ対策が行き届かない部分に潜む大きなリスクと言えるでしょう。
本記事では、シャドーITがもたらすリスクやその具体的な対策について解説します。
シャドーITとは
シャドーITとは、企業の管理部門が把握していないIT機器やソフトウェア、クラウドサービスのことです。具体的には、社員が会社の許可を得ずに業務で使用しているスマートフォンやタブレット、個人用のオンラインストレージやチャットアプリなどがこれに該当します。 特に、リモートワークの普及や、業務の効率化を目的とした社員の個人的なツールの利用により、シャドーITは近年急速に増加しています。 管理部門が把握していないデバイスやサービスは、セキュリティ対策上の盲点となり、企業に大きなリスクをもたらします。
シャドーITがもたらすリスクについては、後ほど詳細に解説しますが、まずはシャドーITがなぜ生まれてしまうのか、その原因に目を向けてみましょう。
シャドーITが生まれてしまう原因
シャドーITが発生する背景には、企業内のIT管理体制や社員の行動が大きく影響しています。以下では、主な原因として「社員への教育不足」と「リモートワークの普及」について解説します。
社員への教育不足
多くの企業では、情報セキュリティに対する社員の理解不足がシャドーIT発生の一因となっています。社員は業務効率化を目的に私物のデバイスや未承認のツールを利用するものの、それが企業のセキュリティリスクを高めるといった強い意識はありません。その結果がシャドーITを生み出し、情報漏えいやシステムの脆弱性を生むリスクが高まってしまいます。
仕事に便利だからと、個人のクラウドストレージを業務で使用するケースはよく見られます。十分なセキュリティ対策ができていないクラウドストレージを利用したり、管理が不十分でパスワードやIDを奪取されてしまうと、情報漏えいに繋がります。
社員がシャドーITを不用意に生み出さないためにも、適切なITセキュリティ教育が必要です。
リモートワークの普及
リモートワークの普及により、社員が社外で業務を行う機会が増加しました。このような作業環境では、IT管理部門の監視が行き届かないため、社員が個人の判断で私用デバイスやソフトウェアを業務に使用してしまうことがあります。
例えば、急遽在宅勤務になった社員が、会社支給のデバイスを社内に置いているため自宅にある個人のパソコンを使って業務を進めるケースなどです。
リモートワーク環境においてシャドーITが生じやすい状況が続くと、企業のセキュリティ体制に影響を及ぼす可能性があります。
シャドーITとBYODの違い
シャドーITとBYOD(Bring Your Own Device)は、いずれも社員が個人のデバイスやツールを業務に利用する点で共通していますが、違いは企業側の承認の有無です。BYODは、企業が社員の私用デバイスの業務利用を許可している場合を指します。企業はあらかじめ適切なセキュリティ対策を講じたうえで、私用デバイスの業務使用を許容しています。
一方、シャドーITは、企業が承認していないIT機器やソフトウェア、クラウドサービスを社員が無断で利用する状況です。シャドーITは、企業の管理外にあるため、セキュリティリスクが高く、情報漏えいや不正アクセスの原因となり得ます。
シャドーITとなりやすいツールやサービスとは?
シャドーITは、企業の管理外で利用されるため、気づかれないケースが多く存在します。ここでは、特にシャドーITとなりやすい代表的なツールやサービスを紹介します。
私用のデバイス
リモートワークの普及により、社員が私用のデバイスを使用して業務を行うケースが増加しています。個人所有のスマートフォンやタブレット、パソコンを使って社内ネットワークにアクセスした場合などです。情報漏えいやマルウェア感染、またデバイス紛失などのリスクが高いため、企業は私用デバイスの使用に対する明確なガイドラインを設定することを求められます。
SaaS
業務で利用するSaaSサービスもシャドーITになりえます。よく個人で使われるのは、オンラインストレージやチャットサービスでしょう。
オンラインストレージサービスは、ファイルの保存や共有を簡単に行える便利なツールです。しかし、数多くあるツールの中には、脆弱性が放置されたままのものも少なくありません。
社員が脆弱性に気づかず、個人アカウントで業務データを保存・共有してしまうことがあります。管理の及ばない環境でデータを扱うことで、情報漏えいや不正アクセスのリスクが増加する恐れがあります。
フリーメールアドレス
メールは、昨今のビジネスに欠かせない存在です。しかし、許容していないサービスや個人アカウントを使用されると、情報やデータが企業の管理外に残ってしまいます。業務や機密情報に関わるコミュニケーションも少なくありません。情報漏えい時の高いリスクとなるでしょう。
シャドーITが企業に及ぼす3つのリスク
シャドーITは、企業が把握できていないIT機器やソフトウェアが業務に使用されることで、様々なリスクを引き起こす可能性があります。ここでは、シャドーITが企業にもたらす以下の3つの主要なリスクを解説します。
リスク1. セキュリティリスク
企業が承認、認知していないデバイスやアプリケーションには、放置された脆弱性が存在している可能性が高いです。その結果、マルウェアへの感染や機密情報の漏えい、デバイスやログイン情報の紛失・盗難・使い回しなど、重大なセキュリティリスクにつながる事象が企業管理の外で行われてしまいます。リスクの排除やインシデント発生時の対応が困難になるため、より重大な事故を引き起こす可能性が高いでしょう。
また、業務のサイロ化や退職時の情報管理も大きなリスクの一つでしょう。
リスク2.コンプライアンスへの影響
取り扱うデータやその処理方法については、法的な制約を受けるものも少なくありません。社内の業務やそれに利用するツールは、コンプライアンスを意識した設計になっていることが基本となるでしょう。
しかしシャドーITに関しては、その限りではありません。意図せず、コンプライアンスに違反した業務や情報の取り扱いがなされてしまいます。
リスク3.業務効率の低下
社員としては、個人の生産性向上のためにデバイスやソフトウェアを利用していることでしょう。一方で、社内全体の業務はデータの連携や業務フローの最適化のために全体最適な設計がなされています。シャドーITが利用された結果として、業務全体の生産性が悪化することもあります。
また、シャドーITの利用上発生したトラブルについては、サポートが困難になるため復旧が困難、もしくは不可能となることで事業リスクとなりうるでしょう。
シャドーITに対する具体的対策
シャドーITは、企業にリスクをもたらすため、対策しなければいけません。以下では、シャドーITに対する具体的な5つの対策を解説します。
- 実態を把握する
- 代替案を検討する
- 検知できるようにする
- ガイドラインを策定する
- 定期的な社員教育
対策1.実態を把握する
まず、企業内でどれだけのシャドーITが存在するのかを把握することが最初のステップです。社員へのヒアリングやログ管理などを通じて実態を把握しましょう。
最近では、CASB*1やSMP*2と呼ばれるソリューション・ツールの活用や、ASMもその一手法となるでしょう。
*1 CASB(Cloud Access Security Broker):クラウドサービスの利用においてセキュリティを強化するためのソフトウェアまたはサービス
*2 SMP(Service Management Platform):統合IT資産管理プラットフォーム。資産の追跡、ライフサイクル管理、コスト削減、コンプライアンス維持をサポートする
対策2.代替案を検討する
シャドーITが発生する理由の一つは、社員が業務効率化のために使いやすいツールを探しているためです。企業側が認める代替ツールやシステムを提供し、社員が正規の方法で業務を進められるようにすることが、シャドーITを防ぐ有効な手段です。
例えば、社員が個人のオンラインストレージを利用している場合、企業が共通のクラウドサービスを正式に導入することで、安全で便利な作業環境を提供できます。
対策3.検知できるようにする
シャドーITを効果的に管理するためには、IT部門が監視体制を強化し、無断で使用されるデバイスやサービスを検知できるようにする必要があります。ネットワーク監視ツールやセキュリティソフトウェアを導入し、アクセスログを追跡・管理することで、シャドーITの使用状況をリアルタイムで把握できます。
CASBやSMPと呼ばれる、社内でのクラウドサービス利用状況を可視化、管理できるソリューションを活用した対策も可能です。
対策4.ガイドラインを策定する
シャドーITのリスクを軽減するために、社員が守るべきセキュリティガイドラインを策定します。このガイドラインには、使用してよいツールやサービスのリスト、禁止されている行為、シャドーITによるリスクについての説明を含めるようにしましょう。また、ガイドラインは全社員に周知され、必要な場面でいつでも確認できるようにしておきましょう。
対策5.定期的な社員教育
シャドーITのリスクについて、社員が常に意識を持ち続けることが大切です。定期的にセキュリティ教育を実施し、シャドーITの危険性や、遵守すべきガイドラインについて理解を深めてもらいましょう。また、新しい技術やツールの登場に合わせて教育内容をアップデートし、社員がセキュリティリスクを的確に認識できるようにすることが重要です。
まとめ
この記事では、シャドーITとは何か、そのリスクや対策について解説しました。 シャドーITは、社員が企業の許可なく業務で使用するIT機器やサービスのことを指し、企業のセキュリティを脅かす原因になりかねません。管理が困難で、情報漏えいやマルウェア感染などの問題に発展する可能性があります。
企業はまずシャドーITの実態を把握し、代替案を提供するなどの適切な対策を講じるようにしましょう。定期的な社員教育を通じて社員がシャドーITのリスクを理解し、ガイドラインを守るよう促すことも大切です。
シャドーIT対策は、企業の情報セキュリティを強化するために欠かせないステップと言えるでしょう。