デジタルソリューションによる罹災証明書発行業務の効率化事例 ~令和6年能登半島地震への適用を通じて~【RMFOCUS 第92号】
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[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 所属名
- デジタルイノベーション本部 データアナリティクス部長
- 執筆者名
- 堀江 啓 Kei Horie
2025.1.7
ポイント
- 官民連携によるデジタル社会の実現に向けて、MS&ADインターリスク総研は被災者生活再建支援システムのデジタル化(DX)を進めている。
- 本システムは阪神・淡路大震災を契機に開発され、20年以上にわたる運用実績を通じて進化を続け、現在300以上の自治体に導入されている。
- 令和6年(2024年)能登半島地震における本システムを用いた自治体支援活動に際しての、デジタルソリューションによる罹災証明書発行業務の効率化事例を紹介する。
- 具体的には、AI地震被害推定マップ、被害認定調査計画の策定支援ツール、建物被害認定調査モバイルシステム、遠隔判定システム、損害割合カリキュレータの5件の新しい技術の概要と効果を説明する。
1.デジタル社会の実現に向けた防災DXの推進
デジタル庁は、わが国が目指すべきデジタル社会への羅針盤として、2024年6月21日に「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定した*1)。この計画にはデジタル化によって実現をめざす六つの社会の姿と、それを実現するための理念や原則が示されている(図1)。さらに、重点的な取り組みの一つとして「データを活用した課題解決と競争力強化」が掲げられ、表1に示す「防災DX」に関する取組項目が示されている。
このような官民連携によるデジタル社会の実現に向けて、MS&ADインターリスク総研(以下、「当社」)は、大学などの研究機関やNTT東日本などの事業者と共同で「被災者生活再建支援システム*2)」のデジタル化(DX)を進めている。本稿では、令和6年(2024年)能登半島地震における本システムを用いた自治体支援活動に際しての、デジタルソリューションによる罹災証明書発行業務の効率化事例を紹介する。
【表1】デジタル社会の実現に向けた「防災DX」における重点的取組項目
防災デジタルプラットフォームの構築 | 2024年4月に運用を開始した新総合防災情報システム(SOBO-WEB)を中核として、2025年度までに防災デジタルプラットフォームを構築する。また、災害時情報集約支援チーム(ISUT)の強化や、データ連携基盤やLアラートとの連携等、防災分野のデータ流通促進に向けた取り組みを行う |
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防災アプリ開発・利活用の促進等/データ連携基盤の構築 | 優良なシステム・サービスの開発促進および早期社会実装・横展開を進めていく。防災アプリ・サービス間でのデータ連携や新総合防災情報システムと連携を図っていくため、防災分野のデータ連携基盤の構築を推進する |
一人一人の状況に応じた被災者支援の充実 | 災害時に被災者一人一人が適切な支援を受けられるよう、マイナンバーカードの活用促進や避難所等における受付、健康医療情報の取得、罹災証明のオンライン申請等、被災者の利便性を向上させる取り組みを促進する |
官民連携による防災DXの更なる推進 | 令和6年能登半島地震では、民間のデジタル人材が被災自治体の現場に入り活躍した。こうした経験を踏まえ、民間のデジタル人材等を派遣する仕組みについて検討を行い、実現を図る |
通信・放送・電力インフラの強靱化 | 市町村役場や避難所等における通信・放送・電力のサービス継続およびその早期復旧に向け、インフラの強靱化や冗長性の確保、点検の効率化、被災した際の早期応急復旧のための機器の設置等に官民が連携して取り組む |
防災デジタル技術の更なる発展と海外展開 | 産官学による将来予測、デジタルツイン、AI活用等の技術研究開発を促進し、未来に向けた構想を推進していくとともに、我が国の優れた防災DX技術・産業の海外展開を推進する |
(出典:参考文献1)を基にMS&ADインターリスク総研作成)
2.「被災者生活再建支援システム」のデジタルソリューション
(1)被災者生活再建支援システムの普及理由
被災者生活再建支援システムは現在300以上の自治体に導入されている。人口カバー率は40%を超え、国民の5人に2人がこのシステムから発行される罹災証明書を手に取る計算になる。被災者生活再建システムは、次頁図2に示すように、被害認定調査から罹災証明書発行、さらには被災者台帳による支援まで、一連の業務を途切れることなくワンパッケージとして提供するものである。このシステムには、応急対応期における災害対策本部の情報集約業務や応急危険度判定業務に加え、平常時の研修、訓練、計画策定や避難行動要支援者対応も含まれている。これにより、平常時から復旧・復興期に至るまでフェーズフリーな活用が可能となる。このシステムが多くの自治体に導入されている理由として、上記のようなシステムであることに加えて、多くの被災地で実際に利用されていること、同じシステムを利用することでスムーズな応援・受援が実現できること、などが挙げられている。
(2)研究成果の社会実装とシステム進化サイクル
このシステムは1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災を契機として、産学官連携により開発された。阪神・淡路大震災では、被災自治体における罹災証明書の発行業務は困難を極めた。罹災証明書とは、被災者が日常生活を取り戻すために必要な書類であり、各種支援を受けるための「パスポート」とも称される。この証明書を発行するために、自治体の職員が被害認定調査を実施する。この調査では、住家被害の程度を「全壊」や「半壊」といったカテゴリーに分類し、その結果に基づいて罹災証明書が発行される。しかし、阪神・淡路大震災における被害認定調査の方法は各自治体で異なり、一般の自治体職員を総動員して大量の調査を実施せざるを得ない状況が生じた。そのため、再調査の依頼が殺到し、被災地では大きな混乱が発生した・・・
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