レポート/資料

まだ間に合う!これから始める健康経営の進め方【人的資本・健康経営インフォメーション 2024 No.3】

[このレポートを書いたコンサルタント]

会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
所属名
リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第四部 人的資本・健康経営グループ
執筆者名
上席コンサルタント 原 佑輔 Yusuke Hara

2025.3.5

要旨
  • 「健康経営」は、労働力減少や高齢化を背景に取り組む企業・団体が拡大し、今後、取り組まないことが将来の経営リスクにつながる。
  • これから健康経営に取り組む企業は、まず3つのポイントを押さえると良い。(①健康経営のゴールは経営課題の解決、②3つの健康の考え方、③基盤整備)
  • 健康経営優良法人認定制度(顕彰制度)が運営され、年々、参加企業は増加傾向にある。自社の取り組みを客観的に把握する機会として有効活用すべく、認定へのチャレンジを推奨する。

1. 今、健康経営が求められる背景

(1) 経営を取り巻く環境の変化

VUCA(ブーカ)の時代という言葉で表されるように、経営を取り巻く環境は、日々、急速に変化し、より複雑で不明確な状況になっている。対応策として挙げられる「多様な人材の労働参画」も、少子高齢化・労働者不足の現状において、採用も容易ではない。人材の流動化も進んでおり、定着に課題を持つ企業も多い。SDGsやサステナビリティ、人的資本経営、ウェルビーイングといった考えの広がりも後押しとなり、労働者・求職者ファーストの労働市場が形成されつつある。

一方で、労働法制の強化(上限規制等)や時間制約をもつ社員の増加により、かつてのような長時間に及ぶような労働が許容されない中では、イノベーションや生産性向上の取り組みは、企業利益に直結し、ひいては事業継続の為にも必要不可欠と言える。

(2) 処方箋としての健康経営

このような経営課題解決の処方箋の一つになり得るのが健康経営である。健康経営は、「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と整理されており、「企業理念に基づき、従業員等の健康保持・増進に取り組むことで、従業員の活力向上や生産性向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がる」効果が期待されている。

つまり、健康経営は、「従業員の採用や定着」「組織の活性化」や「生産性向上」などの経営課題に対し、各種の健康施策を通じてその解決や改善につなげるアプローチ手法のひとつと言える。

既に多くの企業・団体が健康経営に取り組んでおり、成功事例も発信されているが、中堅・中小企業を中心にまだ取り組めていない企業・団体も多く、今後、健康経営に取り組まないことが将来の経営リスクにつながると考える。始めるに遅いということはなく、是非、取り組んでいただきたい。

(3) 健康経営のメリット

代表的な健康経営のメリットを下表にて整理する。(表1)

表1 健康経営のメリット

メリット 効果(一例)
①生産性向上 ・生活習慣の改善により、就業中の業務効率の向上
・心身の不調による休暇取得や休職の減少
②リスクマネジメント ・就労中の事故・災害の減少(安全配慮義務の履行)
・感染症などによる事業継続リスクの抑制
③組織の活性化 ・施策を通じた、組織内コミュニケーションの促進
・従業員エンゲージメント等の向上および離職抑制
④社内的評価 ・社外発信を通じた、企業イメージの向上
・優秀な人材の確保(リクルート効果)
・自治体、金融機関からのインセンティブ(入札時の加点など)
⑤医療費の削減 ・中長期的な視点での医療費削減

2. 健康経営推進のポイント

これから健康経営に取り組む企業には、以下、3つのポイントを押さえていただきたい。これらを意識し取り組むことで、経営課題の解決につながる本質的な取り組みを、持続的なものとすることができる。

(1) 健康経営のゴールは経営課題の解決 【ポイント①】

前述の通り、健康経営は、経営課題の解決や改善につなげるアプローチ手法のひとつである(図1)。従業員の健康増進や組織の活性化も健康経営の取り組みを通じて得られる効果であるが、経営的視点で考えたときには、本来のゴールはその先にあるべきと考える。開始にあたっては、これをふまえ、なぜ健康経営に取り組むのか、その目的を社内で明確にした上で取り組むことが推奨される。施策ありきの推進ではなく、まずは目的をしっかり検討いただきたい。

図1 健康経営のイメージ
図1 健康経営のイメージ
出典:経済産業省「健康経営の推進について」(2024年3月)を参考にMS&ADインターリスク総研にて作成

(2) 3つの健康の考え方 【ポイント②】

そもそも「健康」とは、WHO(世界保健機関)憲章前文で「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」(日本WHO協会仮訳)と定義づけられている。健康というと、一般的には、心(精神)と体(身体)の2面でとらえがちだが、もうひとつ「社会的健康」があり、この3つの健康が満たされた状態が(真の)健康ということである。社会的健康は、他人や社会と建設的で良い関係を築けることとされ、ワーク・ライフ・バランスや働きがい、働きやすさ、職場のコミュニケーションに関する施策もそのひとつに挙げられる。これまでに、働き方改革の一環として取り組んでいるケースもある。

健康経営というと、食事や運動などの身体的健康に関連する取り組みが中心となるケースも散見されるが、この3つの健康の考えを念頭に、自社の健康課題を把握し、優先順位をつけて取り組んでいただきたい。

図2 3つの健康のイメージ
図2 3つの健康のイメージ
出典:世界保健機関憲章前文(日本WHO協会仮訳)を参考にMS&ADインターリスク総研にて作成

(3)基盤整備 【ポイント③】

経済産業省が作成するガイドブックによると、健康経営は、?経営理念・方針、?組織体制、?制度・施策実行、?評価・改善の順序で進める。具体的には、経営層が健康経営に取り組む意義・重要性を認識し、その理念を社内外へ表明し、実行力のある組織体制を構築、この組織体制を中心にPDCAを回すという流れである。基盤整備はこの中で、?経営理念・方針、?組織体制が該当する。

どうしても様々な施策の企画や実行に関心が行きがちであるが、中長期的な視点では、しっかりと基盤整備をすることが継続のポイントとなる。繰り返しになるが、「何のために健康経営をするのか」という目的を明確化しておくことが重要である。また、実行力ある組織においては、経営層のコミットメントや管理職層の関与は欠かせない。これまでの健康管理の延長線で、担当者や担当部署任せにするのではなく、多くの関係者を巻き込み経営層が関与した上で体制を整備できることが望ましい・・・

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