
海外駐在員の安全管理
[このコラムを書いたコンサルタント]

- 専門領域
- 災害リスクマネジメント リスクサーベイ・診断/ロスプリ提案 等
- 役職名
- インターリスクアジアタイランド 課長代理
- 執筆者名
- 佐藤 周作 Shusaku Sato
2025.3.7
新型コロナウイルス流行のピークが過ぎた2022年4月からタイに駐在して3年が経過しようとしている。振り返れば、初めての駐在生活では様々な危険に直面してきた。
街中で寸借詐欺に遭遇したり、財布を盗まれそうになったり、慣れない食事でお腹を壊したりした。通勤時には交通事故の現場に出くわすことも少なくなく、最近ではPM2.5の大気汚染濃度に注意を払いながら外出している。
海外生活には、日本とは異なるリスクが潜んでいる。例えば、タイではバイクの交通量が多く交通ルールが日本とは大きく異なる。また、政治情勢も日本と比較すると不安定である。経済産業省の「海外事業活動基本調査(2022年度実績)」によると、日本企業の海外現地法人は2万社を超えているが、近年、日系企業の駐在員やその家族が事故に巻き込まれる事件が大きく報道されている。
規模の小さな海外拠点では、駐在員は業務遂行だけでなく、マネジメントや現地社員の教育まで担っている。そうした中で、たった一人の駐在員が働けなくなるだけで、拠点全体に与える影響は計り知れない。しかし、他社の駐在員と会話すると、現地に任せきりで本社からはほとんどサポートを受けられていないケースも多い。海外で事業を展開する企業にとって、駐在員の危機管理体制の構築は喫緊の課題である。また、帯同家族の健康と安全も極めて重要だ。現地での生活を駐在員に任せきりにしてしまい、帯同家族の健康や安全が損なわれれば、駐在員が業務継続できなくなる可能性が高まる。
安全管理の第一歩として、現地のリスク情報を収集・分析・共有することが欠かせない。駐在員は、リスク情報に基づき日本との違いを理解しながら日常生活を送り、本社側は、赴任前に社員および帯同家族に対して地域特有のリスクに関する教育を行うべきである。情報源として、外務省や現地の大使館・領事館が提供する情報はもちろん、現地日本人会など人的ネットワークを通じて得られる情報も有効だ。さらに、現地社員が持つ情報は、日本人が入手する情報よりも鮮度が高く信頼性がある場合が多い。現地社員から最新情報を駐在員や本社担当者に提供してもらえる仕組みを構築することも推奨したい。
もちろん、事前に対策を講じても事故やトラブルが起こる可能性は残る。そのため、限られた時間の中で合理的な判断を下せるよう緊急時対応体制の整備が重要となる。危機発生時には、誰が情報を受け取り、その後にどのような行動をとるのか、関係者・報告ライン・具体的なアクションを整理する必要がある。これが「緊急時対応計画」となる。この計画を現地と本社双方で共通認識を持ち、定期的に訓練を実施し、計画をブラッシュアップしていくことが望ましい。
最後にメンタルケアに関しても触れたい。駐在員の中には、日本在籍時より大きなストレスを抱えている人もいる。カウンセリングサービスを活用するのも効果的だが、会社として定期的にコンタクトを取ることも重要である。また、日本在籍時に交流があった人から個人的に連絡が来ることも、筆者の経験上、非常に助けになる。もし、読者の方々の会社にも海外駐在員がいれば積極的にコミュニケーションをとっていただきたい。
(2025年2月27日 三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)