
海外ビジネスにおける新たなリスクへの対応
[このコラムを書いたコンサルタント]

- 専門領域
- 自然災害
- 役職名
- 経理
- 執筆者名
- 阿部 龍之介 Ryunosuke Abe
2023.11.9
筆者は現在中国に駐在し、企業のリスクマネジメントに関するコンサルティング業務を行っている。海外事業を取り巻くリスク(事業や生活に影響を与える不確実性)は多種多様であり、目まぐるしく変化する。ここ数年間の中国だけを見ても、コロナ禍(感染リスク、国内の外出・移動制限、日中間の往来制限)、電力不足による大規模停電、河南省で発生した都市型水害、随時公布・改訂される法規制への対応(サイバーセキュリティ法、個人情報保護法、消防法、安全生産法等)、国際間の政治的な緊張の高まりなど、枚挙にいとまがない。
新たなリスクが現れ、社会的な関心が集まるたび、当地の日系企業より「どのような対応を行なえばよいのか」と相談を受ける。ところが、日本本社からリスクへの対応状況について頻繁に報告を求められることにより「リスクを防止・低減するためのリスク対策」ではなく「日本本社に報告するためのリスク対策」に陥っているケースも少なくない。これでは本質的なリスク対策につながらず、時間の浪費となってしまう。こういったことにならないよう、海外ビジネスにおいて新たなリスクへの対応を迫られた場合の対応のコツについて紹介したい。
まず、リスクの性質に応じて、以下のような分類を行う。
ステップ1:
リスクはどのように発生するか(漸進的/突発的)
→漸進的なら「分類1」へ 突発的ならステップ2へ
ステップ2:
リスクはどの程度の頻度で発生するか(日常的/非日常的)
→非日常的ならステップ3へ 日常的なら「分類2」へ
ステップ3:
リスクは事業全体にどの程度影響するか(限定的/甚大)
→限定的なら「分類2」へ 甚大なら「分類3」へ
以下に、各分類に該当するリスクへの対応の方向性を示す。
分類1:漸進的なリスク
地球温暖化、環境汚染、国家間における政治的な緊張の高まりなどが該当する。企業にとっては短期的な対策でリスクに対処することは現実的ではないと考えられるため、基本的には中長期的な経営課題として捉えて検討を進めることが求められる。また、分類1のリスクの特徴として海外拠点単体で対処することは困難なケースが多いため、日本本社と連携しながら、双方の役割分担を明らかにして対応することが望ましい。
分類2:突発的だが日常的に発生するリスク/突発的かつ事業への影響が限定的なリスク
コンプライアンス、与信管理、交通事故、労働災害などが該当する。海外ビジネスを行う上で、一定の頻度で出現が見込まれるリスクについては、リスク毎に責任部署を定め、日常業務の一環として対処することが求められる。リスク発生時の対応マニュアルを整備して社内周知するとともに、社員向けの教育や訓練を実施することも有効である。
分類3:突発的かつ事業への影響が甚大なリスク
激甚災害(地震・自然災害・火災)、パンデミック、サイバー攻撃、テロ・デモなどが該当する。こういった事業に甚大な影響を及ぼす可能性のあるリスクについては、「事業継続計画(BCP)」を整備することが有効である。人命の安全を確保するため対策のみならず、経営資源(ヒト・モノ・システムなど)が利用できなくなる局面を想定した応急対応手順や事前対策について、全社的な検討を行うことが望ましい。
発生したリスクに伴う海外ビジネスへの影響を最小限に抑えるためには、「リスクの性質を正しく理解したうえで、特徴に応じたリスク対応を行うこと」が必要不可欠である。
以上