コンサルタントコラム

要配慮者利用施設における避難確保について

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
医療・福祉リスク
役職名
リスクマネジメント第四部 医療福祉マーケットグループ 上席コンサルタント
執筆者名
田名邉 雄 Yu Tanabe

2023.2.27

平成28年8月の台風や令和2年7月の豪雨による災害で、高齢者が利用する施設で避難が間に合わず入所者が亡くなる被害が発生している。そういった事例からもわかるように特に要配慮者利用施設(高齢者、障害者等が利用する福祉施設、学校、医療施設等)では、災害時の避難行動の遅れや事前準備不足は命に関わる事態にもつながりかねないことから、本稿では要配慮者利用施設における避難確保に関する考え方について改めて確認したい。

(1) 災害は他人事ではない

内閣府によれば、2010年から2019年の10年間で、全国の実に98%以上の市町村で水害・土砂災害が発生しており、これはもはや日本国内の誰にとっても他人事ではない状況だと言える。ニュース等の被災者のインタビューでは「これまで災害が起こったことはないので大丈夫だと思っていた」「避難情報が出ていたが、まさか本当に自分が被災するとは思わなかった」といったコメントをよく目にする。これは社会心理学などでいう「正常性バイアス」によるもので、自分が置かれている状況を正しく把握できず、リスクを過小評価してしまうといった人間のもつ認知の特性であり、災害時の避難が遅れることの原因のひとつである。

実際に被害にあった施設でも、浸水想定区域内に建物があったものの過去に洪水など発生したことがなかったため、水害対策は想定しておらず、避難の判断が遅れ死傷者が発生したというケースも多い。特に要配慮者利用施設では、避難行動を早期に開始する必要があり、適切な避難先や経路を確認しておくなど事前準備も重要である。そのため、要配慮者利用施設においては、「今回は大丈夫」「自施設が被災するはずはない」といった思い込みでの判断の遅れは、文字通り命に直結することとなる。

ハザードマップなどで浸水想定区域となっているのなら、たとえ過去に洪水被害がなかったとしても「自分の施設は大丈夫」ではなく、本当に危険なエリアであり、気象警報や避難情報は命に関わる重要な情報であると理解する必要がある。

現在は行政などから信頼性の高い情報も容易に得られるため、改めてそれらを確認し、災害を他人事ではなく自分事として認識することが重要である。

(2) 住み続けられるまちづくりを

SDGsの目標として掲げられている「11住み続けられるまちづくりを」では、だれも取り残さない持続可能なまちづくりや、水害などの災害によって命を失う人や被害を受ける人の数を大きく減らすことがターゲットとして示されている。

要配慮者利用施設においては、もちろん施設内で十分な対策を検討し、体制を整えることが重要であることは言うまでもないが、施設の性質上、人員についても避難先についても施設や法人内だけでは十分に対応することが難しい場合も多い。過去の災害でも、もう数人人員がいたら、あるいは、近くに安全に避難できる建物があったら、避けることが出来た被害も多くあったはずである。

そのため、地域の自治会や自主防災会はもちろんのこと、企業等においても地域の施設との交流や合同での避難訓練、災害時の避難場所としての施設の提供なども検討いただき、地域全体で協力・連携できる関係性の構築をぜひとも推進していただきたい。

それがひいては、だれも取り残さない持続可能なまちづくりにもつながると考えられる。

本稿が要配慮者利用施設における避難確保について改めて考えるきっかけになれば幸甚である。

以上

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