コラム/トピックス

有報の非財務情報の開示ミスで新ルール案─金融庁、課徴金免責で企業開示を後押し

2025.11.27

金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(WG)が2025年8月から、有価証券報告書でのサステナビリティ開示への「セーフハーバー・ルール」導入を中心とした制度改正の検討を開始した。サステナビリティ関連情報の開示が進む中、企業が温室効果ガス排出量などの非財務情報を開示する際の「虚偽記載リスク」や「課徴金リスク」が、積極的な情報発信の阻害要因とならぬよう、企業負担にも配慮しつつ、投資判断や建設的な対話に資する情報開示を充実させていくための環境整備が狙い。

「セーフハーバー・ルール」は、合理的な開示プロセスを経た場合には、民事責任や課徴金の免責を認めるもの。企業の萎縮を防ぎつつ、より信頼性の高いサステナビリティ情報の開示を後押しするのが狙い。本記事執筆時点では、WGの第1回(8月19日)と第2回(9月15日)で同ルール導入が審議され、関連する事務局資料・議事録が公表されている。

WGでは、まず同ルールの効果が検討議題となった。「民事責任の免責」を基本としつつ、課徴金(行政責任)についても免責対象とするかが議論となった。刑事責任は故意犯処罰の原則から免責対象外とする意見が多いものの、民事・行政責任については、開示の萎縮防止・積極的な情報提供の促進という観点から、課徴金も含めた統一的な免責が妥当との方向性が示された。

また、対象になる非財務情報の適用範囲も論点となっている。WGでは、セーフハーバーの対象は、主に▽将来情報▽見積り情報▽統制の及ばない第三者から取得した情報――に限定する方向で検討している。Scope3の排出量など企業が直接コントロールできない外部情報や仮定・推論を含む見積りは、正確性を過度に求めるよりも、合理的な開示プロセスや前提条件の説明を重視する枠組みが求められていることが背景にある。なお、すべての非財務情報を対象にすることには慎重な意見もあり、まずは不確実性の高い情報に限定する運用が想定されている。

【図1】セーフハーバー・ルールの適用範囲

将来情報
  • 有価証券報告書の作成時点からみて将来に関する情報であって、作成時点にお
    いて金額、数量、事象の発生の有無等が確定していないもの
  • 有価証券報告書の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー
    の状況の分析」(MD&A)等に含まれる将来の業績予想等についてはセーフハー
    バーの対象となるが、財務数値を活用した上で当期中の業績を分析する部分に
    ついては過去情報であり、対象外
統制の及ば
ない第三者
から入手し
た情報
  • 子会社や関連会社を除く第三者から取得した情報に基づき開示される情報
  • データプロバイダーから取得した情報についても、企業においてその情報の正
    確性を検証することは困難であり、企業にとって不確実性が高いと考えられる
    ため、セーフハーバーの対象
見積り情報
  • 不確実性のある数値について、入手可能な情報を基に合理的な数値を算出する
  • 一般に不確実性があると考えられる情報をセーフハーバーの対象とするとの考
    え方から、過去情報であっても、見積り情報である限り対象
  • 引当金の金額等、財務諸表に記載される情報が非財務情報の項目に記載されて
    いた場合、財務諸表に密接に関連する情報として、セーフハーバーの対象外(「主
    要な経営指標の推移」等も同様)。

出典:第2回 WG事務局説明資料

3つ目の論点は、セーフハーバー・ルールの内容・適用要件についてだ。①主観要件(行為者の内面的な意思に関する要件)を過失責任から重過失責任に見直す②一定の要件下で合理性のある開示がなされていれば不正な記載とはみなされない――の2案が示された。現状ではセーフハーバーとしての明確性や法技術的な観点から、②案が優位とされ、具体的には情報開示に係る体制整備や開示手続の実効性確認、経営者による確認書への明記などが要件となる見通し。これにより、企業が合理的なプロセスを踏んで開示を行っていれば、虚偽記載等の責任を問われない仕組みとなる。過度なリスク回避により情報開示が控えられることを防ぐ狙いだ。

このような制度改正が検討される背景には、企業戦略やリスク情報などの非財務情報の拡充が進む一方で、企業の統制が及ばない第三者から取得したデータや見積り情報の開示を求められる場面が増えていることが挙げられる。例えば、「Scope3温室効果ガス排出量」などサプライチェーンの情報は不確実性が高い。現行の金融商品取引法では虚偽記載等に対し企業側の過失責任が問われやすい構造なため、訴訟や課徴金のリスクへの懸念が企業の開示萎縮要因となっているとの意見が出ている。

日本以外では、非財務情報に関するセーフハーバー規定が整備され、合理的な開示プロセスを経ていれば民事責任を免責するなど、企業負担と投資者保護のバランスを取る動きが進んでいる。日本でも国際的な整合性を意識しつつ、制度見直しが求められている。

【図2】各国における年次報告書の虚偽記載等に対する責任(抜粋)

日本 米国 英国
民事責任 立証責任の転換された
過失責任
詐欺防止条項違反
としての責任
  • 法人:役員等に悪意・重過失が
    ある場合のみ
  • 役員:悪意・重過失の場合に、
    会社に対してのみ
民事責任
における
原告(投資
者)の立証
事項
  • 重要な虚偽記載等の存在(損害額の推定規定を使え
    ない場合)
  • 重要な虚偽記載等と損害との
    因果関係
  • 損害額
  • 重要な虚偽記載等の存在
  • 被告の欺罔の意図
  • 重要な虚偽記載等と損害との
    因果関係
  • 損害額
    (重要な虚偽記載等のある
    情報に依拠して証券を取得
    したことの立証(信頼の要
    件)については、重要性の立
    証により推定)
  • 重要な虚偽記載等の存在
  • 重要な虚偽記載等のある情報
    に依拠して証券を取得したこ
    と等(信頼の要件)
  • 重要な虚偽記載等と損害との
    因果関係
  • 被告の悪意・重過失
民事責任
における
被告(会社)
の立証事項
  • 自己に故意又は過失がない
  • 被告が虚偽記載等を知っていた
信頼の要件の推定は、市場が虚
偽記載等の影響を受けていなか
ったこと等の反証可
刑事責任
  • 行為者:10年以下の懲役若しく
    は1,000万円以下の罰
    金又は併科
  • 法人:7億円以下の罰金
  • 行為者:$500万以下の罰金若し
    くは20年以下の懲役又は併科
  • 法人:$2,500万以下の罰金
詐欺的行為に対する罰則あり
行政責任
(課徴金)
600万円と時価総額の10万分の
6のうち大きい額の課徴金
$5万($25万、$50万)の民事
制裁金
(市場詐害行為に対して)
当局が適当と認める額の制裁金
セーフハーバー 非財務情報のうちの将来情報の
責任を負わない
将来予測情報につき民事責任を
負わない
上記の民事責任の要件は、セー
フハーバーとして理解されている

出典:第1回WG事務局説明資料

【参考情報】
2025年8月26日、9月19日 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」HP
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclosure_wg/disclosure_wg_index.html

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