コラム/トピックス

ESRS簡素化案を欧州委に提出、 企業の報告負担軽減で必須開示項目を61%削減

2026.1.22

欧州の財務報告助言機関EFRAGは2025年12月3日、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の簡素化ドラフト(改訂版)の技術的助言を欧州委員会に提出した。公表済のESRS原案から、必須開示項目を約61%削減する。企業の開示負担の軽減を図る同委2025年オムニバス・イニシアチブの一環。2024年の初適用企業の教訓や700件超の意見を踏まえ、柔軟性や救済措置、段階的導入等の要素を反映した。

象徴的な変更は開示項目の削減だ。任意開示の廃止や重複項目の統合により「コアとなる基礎情報(Core Disclosures)」が明確化され、まず報告すべき重要情報に集中できる設計となった。EFRAGは、「説明責任を維持しつつ負荷を下げる、明確でバランスの取れた枠組みだ」と強調している。主な削減の内容は以下のとおり。

  • 気候変動(ESRS E1)では、温室効果ガス排出量や気候目標など主要開示を維持しつつ詳細要件を緩和
  • サプライチェーン(ESRS S2等)は一次データ収集の原則を見直し、信頼できる一次データが困難な場合に推計値(見積もりデータ)の活用を正式に容認
  • スコープ3や人権関連などバリューチェーン全域の定量化負担を軽減
  • 段階的導入を設け、難度の高い情報領域には経過措置や免除を用意
  • 中小企業向け簡易基準(VSME)との整合も強化し、グループ内子会社やサプライヤーとの情報連携の円滑化に配慮

<主要な変更点・簡素化の例>

項目 原案の要件 改訂版の主な変更点 企業への実務的影響
開示項目数 必須・任意含め多く網羅的 必須項目を6割削減
任意項目は廃止
報告負担・コスト削減
コア情報の明確化 広範囲・詳細な情報 コア開示に絞り込み 重要情報に集中しやすい
気候変動 詳細な計画書・データ提出 要点報告を許容
詳細要件緩和
業務負担軽減
サプライチェーン 一次データ収集推奨 推計値利用を容認 グローバル企業の負担減
段階的導入 即時全面適用 フェーズイン・経過措置 難しい項目は猶予期間あり
中小企業対応 VSME基準との整合性弱い VSME基準との整合性強化 グループ内連携が円滑に

(EFRAG公開資料に基づき当社が作成)

ESRS簡素化案は、競争力とサステナビリティの両立を目指して規制を見直すEUの政策的流れの具体策に位置づけられる。企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく新たな報告義務に対する負担増の懸念に対応する。サプライチェーン全体のデータ収集の難しさや各国の監督・ガイダンスの遅れが不安材料となる中、報告対象の重点化により中小やサプライヤーの間接負担を軽減。報告適用の延期でも合意し、準備期間を延長した。

今回の簡素化では、原案のチェックリスト的開示から転換し、潜在トピックの網羅ではなく最も明らかな課題に焦点化している。そのため、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の気候基準などとの整合を確保しているが、ISSBと類似の要求事項がESRSには含まれない場合もある。将来、双方の基準の適用を目指す企業は注意が必要だ。

ESRS簡素化案は今後、欧州監督当局(ESA)や欧州中央銀行、加盟国政府などとの協議やパブリック・コンサルテーションなどを経て、2026年末までの発効・適用開始が見込まれている。企業実務では同年度報告から本格適用の見通しだ。

【参考情報】
2025年12月3日、EFRAGリリース
https://www.efrag.org/en/news-and-calendar/news/efrag-provides-its-technical-advice-on-draft-simplified-esrs-to-the-european-commission

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