なぜCSO(最高サステナビリティ責任者)という役職が求められるようになってきているのか? 京都大学経営管理大学院 加藤晃特命教授に聞く
2026.2.9
近年、企業でCSO※1(Chief Sustainability Officer・最高サステナビリティ責任者)というポジションを設置する動きが世界的に進んでいます。日本でも同様の動きが出てきていますが、まだまだ、耳なじみのない方もいらっしゃるかもしれません。
こうした中MS&ADインターリスク総研では、国内企業でCSOやサステナビリティ部門責任者を務める方たちにインタビューし、“あるべき姿”をまとめた『CSOと拓くサステナビリティ経営 価値創造の現場』(経済法令研究会刊)を2026年2月に発行します。
そこで今回は、そもそもCSOとはどんな役職で、そうした役割が求められるようになってきたのにはどんな背景があるのかなどについて、書籍の編著者で京都大学経営管理大学院の特命教授を務める加藤晃氏に、わかりやすく解説してもらいます。
※1 以前から存在する最高戦略責任者(Chief Strategy Officer)と区別するため、最高サステナビリティ責任者を「CSuO」とするケースもある。
流れ
- 企業はなぜサステナビリティに取り組む必要があるのか?
- CSOが担う役割とは?
- CSOを置く日本企業はまだまだ少ない
- CSOを置くことで、企業としてのスピード感と質が変わってくる
- CSOに求められるスキルセットとは?
企業はなぜサステナビリティに取り組む必要があるのか?
ーーそもそもの話になりますが、企業はなぜサステナビリティに取り組む必要があるのかという点から、教えてもらえますか?
加藤)背景には2つのことがあると考えています。1つめは、企業も社会の一員であり、環境問題や社会問題の解決に貢献することで対価や利益を得るべきだという考え方の広まりです。これは「倫理資本主義」と言われたりして、ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルやノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティグリッツが提唱しています。
もう1つは、制度上の変化に合わせて対応を迫られるようになってきている点です。いわゆるコンプライアンス対応です。例えば、SDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際的な約束で、2015年の国連サミットで採択されました。これを受けて、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が、企業がESG・サステナビリティに関する情報を開示する際のルールを作り、日本ではSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が2025年3月に新しい基準を公表しました。これによって、新たな法規制・制度ができたりして、企業は対応していく必要が出てくるわけです。
京都大学 経営管理大学院 加藤晃 特命教授
貿易商社、AIU保険会社、愛知産業大学、東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻教授を経て、2025年から同大学嘱託教授。情報開示/経営戦略、サステナブルファイナンスが専門分野。
日本では大企業を中心に、こうした状況に対して危機感を持って取り組んでいると思いますが、中堅中小企業は、まだまだ“自分事”として考えられていない所も多いのではないでしょうか。私は中堅中小企業こそ、危機感を持つべきだと考えています。
なぜかというと、サプライチェーンでものを考えたときに、例えば自動車産業であれば、自動車メーカーが完成車を作るわけですが、部品は部品メーカーに依頼して製造し、その部品メーカーも自社内で製造が完結することはなくて、全体としては大きなピラミッド構造になっているわけです。
このため、自動車メーカーが温室効果ガスの排出量を算定して情報開示しようとすると、自社に加えてサプライチェーン全体の排出量を把握する必要があります。つまり、サプライチェーンを構成する中堅中小企業も、排出量の算定一つとってみてもサステナビリティの取組は、決して“他人事”ではないんですね。
もし、自動車メーカーからの求めに応じて、サステナビリティの取組に関する情報を適切に開示できないようであれば、サプライチェーンから外されることもありえます。中堅中小企業こそ危機感を持って取り組むべき経営課題だと考えています。
CSOが担う役割とは?
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ーー本題のCSOというポジションについてですが、どのような役割を担う立場だと考えていますか。
加藤)CSOは、環境問題に責任を持つ立場のイメージが強いかと思いますが、ESGの視点では、環境(Environment)だけでなく、社会(Social)も所管しています。ガバナンス(Governance)は、直接統括する責任者ではありませんが、EとSを実現するためにはGの設計・運用に関与する必要があります。CSOは、広い領域をカバーする中核人材・リーダーなんですね。
実際に何をやるかというと、サステナビリティの取組に関して、社内外でコミュニケーションをして、理解・共感してもらい、サポートを得て実現していく役割を担っています。
CSOは、CEOやCFOなどと同じCxO(Chief x Officer)に位置づけられる、いわゆる役員に相当する立場で、企業を実際に動かし、企業文化を変革するぐらいの相当パワーのある人でないと務まらないのではないかと思っています。ただし、職位・職名は企業によって様々です。
CSOを置く日本企業はまだまだ少ない
ーー日本では、CSOを置く企業は増えてきているのですか?
加藤)日本監査役協会が2023年に実施したアンケート※2によると、557社のうちプライム市場を中心に36.6%にあたる204社がCSOを設置していると回答しています。日本の企業全体で見ればごく一部にとどまっているというのが現状だと思います。
※2 日本監査役協会「サステナビリティの取組みについてのアンケート調査(第2回)の集計結果」
ーー企業にとって、サステナビリティ取組の推進が求められるトレンドが続くとすると、徐々にCSOを設置する企業は増えていく傾向になっていくかと思いますが、こうしたポジションがどうして求められるようになってきているのですか?
加藤)サステナビリティという分野がカバーする範囲があまりに広いということが挙げられます。環境問題一つとっても、脱炭素だけではありません。生物多様性、砂漠化の問題もあります。社会問題であれば、貧困、性差別、人権問題、児童労働などまで含まれます。
CSOを置かなくても、企業の各事業部門の長が担当を兼ねればいいのではないかという議論もあり得るのですが、環境問題や社会問題だけでもこれだけの範囲なのに、さらに広範な課題まで考慮すると、現実問題として、事業部門の長が兼務で担うのは難しいと思います。
ーーそれだけ広い範囲を担当する責任者としてのCSOには、どのようなことが期待されているのでしょうか?
加藤)企業は、理念、ミッション、ビジョンを掲げて、その下に実際に実行するための具体的な戦略を策定するわけですが、この戦略の中にサステナビリティという概念を入れ込まないと全社的な動きにはなりません。
入れ込むためには、CEOやCFOといった立場の人たちとよく話して、その必要性を理解してもらい、トップのコミットメントとサポートを得なければなりません。そして、概念を戦略の中に入れ込むことができたら、今度は、各現場に落とし込んでいかなければなりません。つまり、実務的なカスケードダウンです。
年初に1回、社長があいさつで触れただけで、現場が動くほど企業という組織は甘くありません。社員とコミュニケーションを取りながら、一人ひとりに理解してもらわないと、現場は動きません。もっと言えば、人事制度などにも落とし込んでいく必要もあります。
そして社内だけでなくて、社外には株主もいますし、サプライチェーンで考えると自社に部品などを納入してくれる企業がサステナビリティに対する考え方を理解してくれないと、実現できません。
そのためには、社内外のステークホルダーにも自社のサステナビリティの取組に共感してもらい、実際に動いてもらわなければなりません。だからこそ、CSOには「巻き込む力」が求められると考えています。


CSOを置くことで、企業としてのスピード感と質が変わってくる
ーーCSOというポジションを置く企業と、そうでない企業ではどのような差が生じてくると考えていますか?
加藤)CSOというポジションが日本企業において十分に浸透しているわけではないので、確定的なことは言えませんが、サステナビリティの取組を推進する“スピード感”が違ってくると考えています。
事業部門ごとにサステナビリティを推進した場合、どうしても取組みにばらつきが出てきてしまいますが、CSOがいることで統一感を持って社内を動かすことが可能になります。経営資源を集中的に投じることができるようになれば、スピード感だけでなくクオリティも変わってくると思います。
ーーサステナビリティが扱う内容が非常に広範に及ぶ中で、企業・CSOはどのように優先順位を付けて取り組む必要があるのでしょうか?
加藤)結論から言えば、業種によって全く異なってくるだろうと思います。例えば鉄鋼業界や運輸業界は、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスを排出していますから、まずはそこを重点的に取り組む必要があると考えられます。
一方、労働集約型の産業であれば、現地で労働者を低賃金で雇用するなどの人権問題にフォーカスする必要があるかもしれません。
また、それぞれのサステナビリティの課題が、自社の売上、コスト、ブランド、リスク管理にどれだけ影響するのかという観点も重要です。
CSOに求められるスキルセットとは?
ーーCSOにはどのようなスキルセットが求められると考えていますか?
加藤)繰り返しになりますが、CSOが担う分野はあまりにも範囲が広いんですね。サステナビリティ情報を開示するにあたっては、広報的な知識も必要ですが、財務会計やマーケティングの知識も必須です。場合によっては、技術系のことも知らなければなりませんし、経営戦略もわかってなければなりません。ある意味では「スーパーパーソン」と言えるかもしれません。
一方で、実際に日本でCSOを務めている人の話を聞いてみると、それぞれいろんなキャリアをお持ちで、専門分野を持ちつつ、不十分な分野については勉強をされているようです。そうした意味では、知識面ではビジネススクールの基礎科目ぐらいのことは知ったうえで、自分の得意分野をベースにして広げていくイメージだと思います。
そして、それ以上に重要なスキルは、コミュニケーション力、巻き込む力だと考えています。自分の考えを伝えて共感してもらい、実際に動いてもらえるかどうか。そこが非常に重要な部分だと思います。
ーー『CSOと拓くサステナビリティ経営 価値創造の現場』が出版されます。CSOの設置を検討している企業や、サステナビリティを担当している読者の皆さまには、この本を通じてどのような学びを得てもらいたいと考えていますか?
加藤)サステナビリティの分野はまだまだ新しく、CSOを担える人材を育成する大学の学部もありませんし、企業の中でも戦略的に人材を育成しているようなケースも少ないと思います。
そうなると、CSOの設置を考えた際には、適切な人材が社内に見当たらない場合には社外から採用する必要があります。これは、時間で専門性を買うという面からすると必要なことですが、長い目で見ると、社内でも人材を育てていかなければなりません。
書籍の中の「実践編」では、金融サービス、食品・ライフサイエンス・消費財、流通・小売、環境ビジネス、総合技術・製造業という業種から10社のCSO・サステナビリティ部門の責任者のインタビューも掲載しています。
それぞれの責任者が、どういうことを考え、どのような工夫をしているのか。そして、どうアプローチしているのかといった生の声を知ることができる貴重な機会だと思います。成功だけでなく、失敗を含む具体的なエピソードのほか、CSOに必要な知識・スキル、獲得・育成の方法、サステナビリティ部署のあり方など多彩なトピックスに触れています。 CSOの設置を検討している企業、CSOを志す人、サステナビリティ部門の一員としてCSOと働く人たちに役立てていただければと思う次第です。
(本インタビューは、2026年1月23日に実施されたものです)
