レポート/資料

「持続可能なスポーツ」のためのスタンダード -地域社会を動かし、環境も経済も育むための8つの計画【リサーチレター 2025 No.5】

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[このレポートを書いた研究員]

衣笠 功次郎
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
部署名
基礎研究部 基礎研究グループ
執筆者名
上席研究員 衣笠 功次郎

2026.2.2

いま、スポーツに「環境の視点」が足りない。

中高生の部活動は、約175万人の生徒とその保護者・指導者を巻き込む、きわめて大きな「社会の基盤」である。スポーツ庁は、教員の長時間労働是正や少子化への対応を目的として、「部活動の地域展開」を進めてきた。これを支えるように、民間主導の「ブカツ・サポート・コンソーシアム」が設立され、地域クラブの立ち上げや指導者育成を行う好事例も広がっている。こうした動きは、喫緊の課題に対応する重要な一歩であることに間違いない。

この取組みには、別の視点から検討する余地がある。それは「気候変動」と「生物多様性」のリスクである。近年、記録的な猛暑や頻発する豪雨、そして生物多様性の損失といった地球規模の環境課題が、日々の部活動の安全性や継続性を直接的に脅かす現実的なリスクとして顕在化している。また、2025年に改正されたスポーツ基本法では「気候変動への対応」にようやく言及したものの、生物多様性への言及はない。

一方で、科学的データが示すのは、「スポーツの在り方そのものを変えざるを得ないレベル」での変化である。猛暑日や豪雨、降雪量の減少、河川・湖沼の水質悪化、プラスチック汚染、生態系の劣化―これらは、すでにスポーツの安全性・継続性・コストに影響し始めている。

本稿の目的は二つである。

  1. 「持続可能なスポーツ」に関わるサステナビリティリスク(特に気候変動と生物多様性)の現状を、データに基づき「見える化」すること。
  2. そのうえで、スポーツ団体・自治体・企業などが共有できる「持続可能なスポーツのためのスタンダード(Standards for Sustainable Sport)」を提示すること。

以下では、部活動の改革状況を確認したうえで、リスクを特定・評価し、最後に具体的な対応策について解説する。

1.「持続可能なスポーツ部活動」における現在のサステナビリティの捉え方

(1)部活動改革の現状と成果

中学・高校のスポーツ部活動は、本来「自主性・継続性・公認性」を備えた教育課程外活動であり、心身の成長・自己管理・人間関係構築など、多くのメリットを持つ(図表1参照)。一方で、少子化による部員数の減少や、活動を支える教員の過重負担、ハラスメント、競技成績偏重などの問題も顕在化してきた。こうした課題を受けて、スポーツ庁は2022年に「学校部活動及び地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を策定し、「部活動の地域展開」を推進している。これは、学校単位での維持が困難になった部活動を、地域のスポーツクラブや団体が主体となって運営するモデルへ移行させる改革である。2023年度から2025年度までを「改革推進期間」とし、地方公共団体による実証事業は510市区町村(2024年時点)にまで拡大した。こうした動きは、官民連携によっても力強く後押しされている。三井住友海上社などが設立した「ブカツ・サポート・コンソーシアム」は、地方公共団体が抱える指導者の確保や運営ノウハウといった課題に対し、企業が持つ専門性を活かした支援を提供する枠組みとして機能しており、改革の推進に大きく貢献している。

【図表1】スポーツ部活動のメリットとデメリット

【図表1】スポーツ部活動のメリットとデメリット
【図表1】スポーツ部活動のメリットとデメリット

(スポーツ庁広報誌他より筆者作成)

(2)サステナビリティ視点の欠如という課題

これらの改革は、運営体制の持続可能性を高める上で大きな成果を上げている。しかし、その主眼は、少子化下での部活動の維持や教員の働き方改革、地域コミュニティによる子ども支援といった「社会・経済」の持続可能性に偏っている。つまり、土台となる「環境」への視点は残念ながら十分とは言えない。

政策レベルを見ても、いまだ不足がある。2025年に改正された「スポーツ基本法」では、気候変動への対応の必要性が初めて明記され、大きな前進となった。それでも、気候変動の影響を受けた暑熱対策などの安全確保に留まっており、緩和のための行動に言及していない。加えて、気候変動と並ぶ深刻な環境問題である生物多様性の損失に関する視点は含まれていない。つまり、いまの改革には「環境リスクを前提に、スポーツの在り方を再設計する」という発想が欠けている。スポーツ部活動がもたらす本質的な価値を将来にわたって享受し続けるためには、運営体制の改革だけでなく、活動の土台となる環境の変化に起因する広範なサステナビリティリスクに正面から向き合うことが必要である。

2.「スポーツ部活動」におけるサステナビリティリスクの特定・重要性評価

これまでに明らかになっている科学的データや将来予測に基づき、スポーツ部活動において十分に認識されてこなかった気候変動および生物多様性に関するリスクを特定した。これらのリスクは、活動の安全性から運営コスト、選手のパフォーマンスに至るまで、スポーツ部活動のあらゆる側面に影響を及ぼす可能性がある。また…

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