コラム/トピックス

OECDがAIのデューデリ指針を公表、企業に人権侵害リスクなどの特定・防止を求める

2026.4.9

経済協力開発機構(OECD)は2026年2月19日、「責任あるAIのためのデューデリジェンス・ガイダンス」(OECD Due Diligence Guidance for Responsible AI)を公表した。AIの開発・展開・利用に関わる企業に対し、人権・労働・環境などへの悪影響を特定・防止・軽減するためのリスクベースのデューデリジェンス(DD)を求める内容で、AI分野に特化した国際的なDD指針としては初の文書となる。既存のOECDデュー・デリジェンス・ガイダンス(2018年)と同様の6つのステップ構造を採用している点が特徴である。

ガイダンスは、主に①AIを開発する企業(基盤モデル開発者、アプリケーション開発者等)、 ②AIを業務に利用する企業(テクノロジー分野以外を含む)、③AI開発に必要なデジタルサービスや物的・金融資源を提供する企業(クラウド、データ、半導体、投資家等)――を対象としている。業種・規模を問わず、AIバリューチェーンに関わる多国籍企業が広く想定されている。

ガイダンスが企業に求める6つのステップは、方針・体制への組込みから、悪影響の特定・評価、停止・防止・軽減、実施状況の追跡、情報開示、救済措置の提供・協力で構成される。これは、OECD「責任ある企業行動(RBC)のDD枠組みおよびセクター別ガイダンス」と同一の構造であり、同様の枠組みを採用する企業も多い。そのため、人権DDを既に構築・運用している企業は、新たに独立した体制を構築しなくても、既存の枠組みにAI固有のリスク項目(バイアス、プライバシー、説明責任等)を追加・拡張することで、本ガイダンスに沿った対応を進めることが可能だ。一方で、これからDDに着手する企業は、人権・AIの各DDを統合的に設計することで、重複を避け効率的に構築・運用することが可能だ。

一方、ガイダンスは、ステークホルダーの関与や救済措置については、AI特有の論点(バリューチェーン構造の特殊性や影響の性質など)を踏まえ、追加的な対応が必要になる場合があることにも言及している。

【図1】本ガイダンスが企業に求めるデューデリジェンスの6ステップ
Step1 方針・管理体制へのRBCの組込み
Step2 実際・潜在的な悪影響の特定・評価
Step3 悪影響の停止・防止・軽減
Step4 実施状況・結果の追跡
Step5 影響への対応状況の情報開示
Step6 救済措置の提供または協力

出典:ガイダンスに基づきMS&ADインターリスク総研株式会社作成

ガイダンスの公表は、欧州連合(EU)における関連法制度の動きとも時期的に重なる。企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく開示や、2024年に採択されたAI規制法では、高リスクのAIシステムに対しリスク管理体制の構築などを求めている。企業は、こうした規制の要件を実務に落とし込む際に、ガイダンスが示すDDの枠組みや具体的な対応プロセスを参照することができる。

企業のAI導入が加速する一方で、AIが人権や労働にもたらす悪影響も顕在化している。例えば、グローバル企業が従業員採用で候補者選考に用いたAIが、過去データの偏りを学習し、女性候補者を一律に低評価していた事例が報じられている。また、OECDが2022年に欧米7カ国の企業と労働者計7,000人を対象に実施した調査では、多くの労働者が、所属企業が自身や働き方に関するデータをAIで収集していることに懸念を示している。特に金融セクターでは、そうしたデータ収集で「仕事の成果を出さなければならない」というプレッシャーをいっそう強く感じていると回答した労働者が62%に上った。

こうした状況を背景に、2024年のOECD AI原則の改訂を経て、AIに特化した実務的なDD指針として本ガイダンスが策定された。上位には、OECD多国籍企業行動指針、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGPs)、ILO多国籍企業宣言といった責任ある企業行動に関する国際規範が位置付けられている。本ガイダンスは、これらの国際規範およびCSRDやAI規制法等の法規制と整合した、企業がAIに関するリスクを管理するための実務指針として位置付けられる。

【図2】本ガイダンスと責任ある企業行動に関する国際規範・法規制の位置付け
国際規範
OECD MNE行動指針、OECD AI原則、UNGPs、ILO MNE宣言
規制(ハードロー)
AI規制法、独LkSG、仏注意義務法 等
OECD AI DDガイダンス(2026年)
上位規範の実施を支援する実務指針。人権DD(RBC DD)と同一の6ステップ構造を採用。
EU AI Act等の規制対応においても参照可能な方法論を提供。
OECD DD Guidance for RBC(2018)の6ステップ枠組み
NIST AI RMF / ISO 42001等の技術標準

出典:MS&ADインターリスク総研株式会社作成

【参考情報】
2026年2月19日 OECD HP
https://www.oecd.org/en/publications/oecd-due-diligence-guidance-for-responsible-ai_41671712-en.html

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