不確実な時代こそ、サステナ戦略には長期視点が必要
[このコラムを書いたコンサルタント]

- 専門領域
- サステナビリティ
- 役職名
- リスクマネジメント第五部 サステナビリティ第二グループ
マネジャー上席コンサルタント - 執筆者名
- 冨樫 容子 Yoko Togashi
2026.4.23
先日、初めて鹿児島県の屋久島を訪れる機会を得た。屋久島では、民需電力の約99%を水力発電で賄っているという。豊富な降水量、急峻な地形、そして森林の高い保水力が、再生可能エネルギーの基盤を支えている。苔むした森や清流を前にすると、自然そのものが大きな価値を持つことを実感する。
人が自然に魅了され、守りたいと願う感覚は、万国共通だろう。ただ、現実には、その自然が失われる事例が後を絶たない。南米アマゾンの乱開発や米カリフォルニア州の大規模火災(2025年)がその象徴だ。背景には土地利用や森林管理など複数の要因があるが、気候変動の影響も指摘される。自然資本の毀損は、生態系の問題にとどまらず、人々の暮らしや産業基盤にも直結する。
トランプ政権以降、パリ協定からの離脱、EV化などの脱炭素投資を促す法令における補助金や減税措置の削減、温室効果ガスの「危険性認定」撤回など、米国では気候変動政策の後退が続いている。また、欧州連合(EU)も、企業にサステナビリティ開示やデューデリジェンスを求める制度の要件を緩和した。これらの動きは、短期的には世界の脱炭素の進展に影響し得る。一方で、カリフォルニア州のように積極策を維持する地域もある。気候変動の影響を強く受ける地域ほど、脱炭素は環境対策であると同時に経済合理性を伴う課題になっている。
日本国内に目を向けると、2026年度からCO2排出量取引制度「GX-ETS」が始まる。「排出枠」を超えた企業は他社から枠を購入して相殺する仕組みだ。企業に脱炭素を促す有効策とみられ、EUや中国、韓国が先行して導入している。日本もようやく追いつく格好だが、「排出枠」は当面無償配布が中心で、炭素価格も欧州ほど高くないなど、企業負担は限定的との評価だ。将来的には「排出枠」が有償化されるなど本格運用に移る見通しであり、企業の負担増につながる可能性がある。
このように、国内外の先行きが見通しにくい中で、企業のサステナビリティ経営では、長期戦略とそれを支えるガバナンスが一層重要になる。先日、自然資本開示についてESGアナリストの方の話を伺い、「機関投資家は開示を通じて企業のガバナンスを見ている」という言葉が印象に残った。気候変動や自然資本への対応は、数年で完結するテーマではない。だからこそ、明確な戦略を定め、開示し、進捗を継続的に示す企業は、そこに経営の本気度とガバナンスの強さが表れている。
戦略策定においては、短期・中期・長期の時間軸ごとに、自社にとってのリスクと機会を丁寧に見極める必要がある。調達コストや規制対応といった足元の課題だけでなく、事業ポートフォリオの転換、顧客ニーズの変化、新たな技術や市場の創出まで視野に入れなければならない。サステナビリティは「守り」の対応に見えがちだが、中長期の競争力を左右する「攻め」のテーマでもある。
VUCAの時代といわれて久しいが、不確実性や複雑さはむしろ高まっている。だからこそ企業には、目先の制度変更や市場の揺り戻しに一喜一憂するのではなく、10年後、20年後に自社がどのような社会で、どんな価値を提供しているのかを起点に考える姿勢が求められる。脱炭素をはじめとしたサステナビリティ課題は、特に中長期で重要性を増す。長期の視点で自社の進む方向を見据え、いま打つべき手を選び取ること――それこそが、企業経営に求められる視点ではないだろうか。
(2026年4月16日三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)