COP30の要点と現地参加者の声―「ネイチャーCOP」の現場から
[このコラムを書いた研究員]

- 専門領域
- 気候変動、自然資本、サステナブルファイナンス
- 役職名
- 研究員
- 執筆者名
- 山根 未來 Miki Yamane
2026.3.24
2025年11月、アマゾンの玄関口・ブラジルのベレンで開催されたCOP30は、「ネイチャーCOP」「実践のCOP」とも呼ばれ、気候変動と自然保全の統合、そして“合意から実装”への歴史的転換点となりました。本コラムの前半では、COP30がどのような会議で、なぜ世界が注目するのか、そして今回の交渉結果の重要なポイントを分かりやすく解説します。後半では、実際に現地を訪れた当社グループのサステナビリティ推進を担当する浦嶋裕子が、会議のリアルな様子や現地で感じたことを紹介します。気候変動問題の現状と、これからの社会・ビジネスのヒントが詰まった現地参加者の声をぜひご参照ください。


COP30本会場(ブルーゾーン)入口の様子
流れ
- COP30とは?気候変動対策の「いま」を知る国際会議
- なぜCOP30は重要なイベントなのか─「1.5℃目標」と世界の分岐点
- COP30交渉に関する4つの注目ハイライト
- 現地参加者が語るCOP30─「合意」から「実装」への転換点
- 「ネイチャーCOP」─自然と気候の統合的アプローチの幕開け
- おわりに
COP30とは? 気候変動対策の「いま」を知る国際会議
UNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change)COP(Conference of the Parties)は、「国連気候変動枠組条約締約国会議」の略称です。毎年、世界各国の政府や企業、NGOなどが一堂に会し、気候変動や地球温暖化対策の国際的なルールや目標を話し合います。
2025年11月、記念すべき第30回会議(COP30)がブラジル・ベレンで開催されました。ベレンはアマゾン河口に位置し、世界最大級の熱帯雨林の玄関口でもあります。
今回のCOP30は「ネイチャーCOP」とも呼ばれ、気候変動対策と自然保全を一体的に議論した点が大きな特徴です。開催地がアマゾンであることから、森林減少の防止や生態系保全へ注目が集まりました。
さらに、COP30は「実践のCOP(Implementation COP)」とも位置付けられました。これは、これまでの「合意形成」に重きを置いた会議から、「実行・実装」に軸足を移した転換点であったことを意味します。パリ協定(2015年採択)から10周年という節目の年であり、各国の目標だけでなく、実際にどうやって気候変動対策を社会に根付かせるか、多層的なプレイヤー(企業・金融機関・自治体・NGOなど)による「実践」の重要性が強調されました。
なぜCOP30は重要なイベントなのか─「1.5℃目標」と世界の分岐点
COPが重要なのは、気温上昇を産業革命以前から1.5℃以内に抑えるという世界の長期目標の進捗を締約国間で確認する場だからです。1.5℃目標の達成には、2035年までに2019年比で温室効果ガス排出量を60%削減する必要があります。しかし世界の温室効果ガス排出量は増加傾向にあり、各国の削減目標(NDC)をすべて達成しても、21世紀末には2.3~2.5℃の気温上昇が見込まれています。
特に2025年は各国が2035年のNDCを提出する年であり、COP30では目標の引き上げや本気度が問われる重要な局面でした。しかしCOP30終了時点では、NDC未提出国が全体の約4割にのぼり、1.5℃目標達成に向けた国際的な取り組みが十分に加速しているとは言い難い状況が明らかになりました。このためCOP30の決定文書「グローバル・ムチラオ」では、NDCや長期戦略の未提出国へ早期提出を求める内容が盛り込まれました。なお2026年2月18日時点では、締約国196カ国のうち、133カ国が提出しています。
また、途上国への資金支援も大きな焦点でした。2024年のCOP29で合意された「2035年までに年間3,000億ドルの公的資金、官民あわせて1.3兆ドルの支援」は、実現に向けて具体策が求められていました。加えてCOP30では、森林保全やエネルギー転換、適応策の強化など、気候変動と自然資本の両立を図る統合的なアプローチが議論されました。
COP30交渉に関する4つの注目ハイライト
① 化石燃料の脱却に関するロードマップは持ち越し
今回のCOP30では、「化石燃料からの移行ロードマップ」策定に向けた議論が注目されました。議長国ブラジルの主導で80カ国以上が賛同したものの、産油国や化石燃料依存度が高い国の反発もあり、全会一致の合意には至りませんでした。
決定文書では直接的な「化石燃料からの脱却」に関する言及は見送られましたが、COP31(2026年11月)に向けて、COP30議長国主導のもと、交渉外で具体的な議論が続く見込みです。
② 気候資金の拡大─先進国からの適応資金は3倍の「努力目標」に留まる
気候資金の拡大も大きな注目点となりました。COP30の議長国ブラジルは、開催前から途上国への気候変動対策資金の協力を強調していました。議長国が提出した草案では、「2030年までに先進国からの適応資金を3倍にする目標を”決定する”」選択肢を掲載していました。しかし交渉では先進国の反対もあり、最終的には努力目標になったうえ、期限も2035年までと先送りになりました。現状の資金ギャップは依然として大きく、実効性のある資金動員の仕組みづくりが課題となっています。
③ 適応に関する指標(ベレン適応指標)の決定
気候変動の影響を受ける社会や経済の「適応力」を高めることも、COP30の大きなテーマでした。今回、パリ協定の「適応の世界目標(Global Goal on Adaptation: GGA)」を具体化するための「ベレン適応指標」(59項目)が採択されました。これは、水、食料、健康、生態系、インフラ、貧困、文化遺産など多様な分野をカバーし、各国の適応策の進捗を定量的に評価するための枠組みです。しかし交渉では完全な合意には至らず、COP30の結果をベースに継続検討することが決定しました。
〈図表〉ベレン適応指標の主な項目一覧


(出典)United Nations 「Global goal on adaptation. Draft decision -/CMA.7. Proposal by the President」をもとに筆者作成
④ オーバーシュート(1.5℃超過)に初めて言及
決定文書では、初めて「1.5℃を一時的に超過する可能性」について言及されました。この現象は「オーバーシュート」と呼ばれ、世界の気温が一時的に1.5℃を超えた後、再び1.5℃以下に戻る経路を指します。オーバーシュートは避けられないという認識が前提となり、決定文書では、「オーバーシュートの規模と期間を抑制するための努力を追求する」ことが表明されました。そのためには、大気中から直接炭素を除去するCDR※1技術の導入などが必要です。
国連のグテーレス事務総長はCOP30開会にあたり、「(産業革命前からの地球の平均気温の上昇が)一時的に1.5℃を超えることは、今や避けられない」と述べました。実際、2024年には産業革命前と比べて地球の年平均気温が初めて1.5℃を超え、1.6℃に達しました。単年で1.5℃を超えても、すぐに1.5℃目標が実現できなくなるわけではありませんが、気候変動の深刻さが増している状況です。
〈図表〉世界の年平均気温と工業化以前(1850~1900年)の平均気温の差


(出典)欧州連合コペルニクス気候変動サービスのデータ(ERA5)をもとに筆者作成
※1)CDRとはCarbon Dioxide Removalの略。二酸化炭素除去、つまり大気中のCO2を除去することを指す。
現地参加者が語るCOP30─「合意」から「実装」への転換点
今回のCOP30には、当社グループでサステナビリティ推進を担当する浦嶋裕子が、国際的トレンドや海外の取組みなど、情報収集のために参加しました。また現地では、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)※2主催の「COP30グローバル・サステナブル保険サミット」のプログラムに登壇しました。現地の様子はどういったもので、どんなことに注目が集まっていたのか?その点について浦嶋は、次のようにコメントしています。
【COP30現地参加者】
浦嶋 裕子 Hiroko Urashima
MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社
サステナビリティ推進部 上席スペシャリスト
国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)の活動やTNFDタスクフォースメンバー原口フェローのオルタナティブメンバーとしての参画、またネイチャーポジティブイニシアティブ(NPI)が進める自然の状態を測る指標の開発における議論など、様々な国際イニシアティブの議論に関与する。
国内でも、国土交通省、環境省において、グリーンインフラ・NbS(ネイチャー・ベースド・ソリューションズ)に係る委員などを歴任する。
「『実践のCOP』という言葉通り、現地では国家間交渉の限界が明確となり、国際組織・民間セクター・開発金融機関・自治体など「多層的な実装プレイヤー」の存在感が急速に高まっていることが強く感じられました。
COPは国が合意をつくる場から、ビジネスや自治体などが実装する場へと役割がシフトしつつあります。国家間交渉は目標の合意とそれに伴うルールメイクが中心ですが、実際の脱炭素や自然保全は、企業や金融機関、自治体、開発金融などが主導して実装を進めています。
特に印象的だったのは、気候変動や自然資本の持続可能性向上が「ビジネスの制約」ではなく「成長領域」として認識されている点です。再生可能エネルギーの普及や森林クレジット、炭素除去(CDR)、脱炭素が困難な産業の移行支援、自然を活用した適応策(NbS:Nature-based Solutions)など、様々なビジネスモデルが議論されていました。
また、適応策として、リスク予測や災害時の即応、被害低減効果の可視化、行動変容インセンティブなど、保険セクターへの役割が拡大しています。一方で、広域災害や複数産業の同時被災といった複合リスクへの対応が今後の課題として指摘されました。」
浦嶋は「COP30グローバル・サステナブル保険サミット」のプログラムに登壇(左から3番目)


登壇プログラム:UNEP FI主催 COP30グローバル・サステナブル保険サミット(The COP30 Global Sustainable Insurance Summit)
「Net-Zero, Nature positive & Just Transition Day. Insuring a resilient nature-positive future. Launch presentation: PSI Working Group for Nature global guidance series and new report, “Breaking Ground: Getting practical with nature practical examples of assessing nature-related issues in underwriting portfolios」
※2)UNEP FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)は、およそ200以上の世界各地の銀行・保険・証券会社などで構成されるパートナーシップ。経済的発展とESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮を統合した金融システムへの転換を目指す。
「ネイチャーCOP」─自然と気候の統合的アプローチの幕開け
「ネイチャーCOP」とも称された今回、気候変動対策と自然保全の統合的な議論が進みました。アマゾン開催という象徴的な舞台設定のもと、森林・生態系の保全や自然を活用した気候変動対策が数多く取り上げられました。
交渉外では新たなイニシアティブとして、「熱帯雨林保護基金(Tropical Forest Forever Facility:TFFF)」が設立されました。TFFFは寄付ではなく投資として官民から資金調達を行う新しいファイナンスの枠組みとなります。また現地では、自然を主軸に、または統合的に取り組む国際的な民間イニシアティブ(Nature Positive Initiative※3やWBCSD※4、Capitals Coalition※5など)が存在感を強め、自然リスク評価や自然資本への投資がビジネス戦略の一部として語られていました。「ネイチャーCOP」で示された自然と気候の統合的な取組みは、今後の気候変動対策の新たなスタンダードとなり得るでしょう。
COP30で初めて開設された「プラネタリー・サイエンス・パビリオン」の様子


議題は「水・気候・生物多様性ネクサスの科学」。気候変動、生物多様性、水資源の相互連関や依存関係について議論された。同パビリオンは科学に完全特化した初の公式パビリオン。写真真ん中はポツダム気候影響研究所(PIK)所長のヨハン・ロックストローム氏、同パビリオンの共同議長を務める。
※3)NPI(Nature Positive Initiative)は、自然保護団体、研究機関、企業、金融連合など27団体が集った、自然資本分野の国際的な連携プラットフォーム。
※4)WBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)は、持続可能な開発を目指す企業CEOや幹部が参加する国際的な組織。
※5)Capitals Coalitionは、自然資本、社会資本、人的資本に関するインパクト測定・評価のガイドライン策定などを実施する国際組織。
おわりに
世界の気温上昇や温室効果ガス排出量のデータを見ると、依然として危機的な状況が続いています。科学者たちは、世界のネットゼロ排出を達成するには、すべての国でガバナンスとマインドセットの根本的な転換が必要であると警鐘を鳴らしています。
次回COP31(2026年11月)はトルコ、COP32(2027年)はエチオピアで開催される予定です。各国だけでなく、企業や自治体、金融機関、市民社会が連携し、多層的に気候変動対応の実装を加速させることが、世界の持続可能な未来づくりのカギとなります。
【参考文献】
- COP30 Brasil 2025(2025年11月16日)
「COP30 Launches the First Planetary Science Pavilion, Placing Science at the Center of Climate Decision-Making」 - Copernicus Global Climate Highlights 2025 graphics gallery「Annual temperature anomalies since 1940」
- Potsdam Institute for Climate Impact Research(2025年11月14日)
「Statements from Scientists at the Planetary Science Pavilion: current state of COP30 negotiations」 - United Nations Environment Programme - Finance Initiative「COP30 Global Sustainable Insurance Summit 2025」
- United Nation(2025年11月6日)
「Secretary-General's remarks at the Plenary of Leaders of the Belem Climate Summit」 - United Nations(2025年11月18日)
「Mutirao Decision: uniting humanity in a global mobilization against climate change. Proposal by the Presidency」 - United Nations(2025年11月22日)
「Global goal on adaptation. Draft decision -/CMA.7. Proposal by the President」 - 外務省(2025年12月5日)
「国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(結果)」 - 環境省(2025年12月)
「『ネイチャーポジティブ経営への移行に向けた情報開示とデータの活用』COP30等における自然関連動向の概要」 - 経済産業省 資源エネルギー庁(2023年10月6日)
「知っておきたいエネルギーの基礎用語〜大気中からCO2を除去する『CDR(二酸化炭素除去)』」
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