保険の役割とは?社会課題のリスクを分かち合う“社会の仕組み”
[このコラムを書いた研究員]
- 専門領域
- 人的資本、社会保障
- 役職名
- 上席研究員
- 執筆者名
- 小沢 潤子 Junko Ozawa
2026.5.19
皆さんは「保険」と聞いて、どんなイメージをお持ちでしょうか?
「病気や事故の時にお金が出る仕組み」「必要そうだけど、内容が難しい」といったことを思い浮かべる人もいらっしゃるかもしれません。
実は保険には、「社会課題のリスクを共同で分かち合う“社会の仕組み”」という側面もあるんです。 今回は、そんな保険の役割について、わかりやすく解説します。
流れ
- そもそも保険ってどんな仕組み?みんなでリスクを分かち合うという考え方
- 公的保険と民間保険の違いとは?支え合いには“役割分担”がある
- なぜ保険会社は“予防”にも関わるの?キーワードは「情報の差」
- 社会課題と保険はどう関係する?
- おわりに 公的保険を補完する民間保険の役割がいっそう重要に
そもそも保険ってどんな仕組み?みんなでリスクを分かち合うという考え方
保険は、多くの人や企業が将来の不確実なリスクに備えて保険料を出し合い、そのリスクが現実化して損害を被った人や企業に保険金を支払う、相互扶助の仕組みです。
リスクの具体例としては、自然災害、事故、疾病、介護、失業などが挙げられます※1。こうしたリスクが現実化すると、家屋の損壊、けがや病気による収入減少、生活基盤の喪失など、私たちの生活や事業に大きな影響を及ぼします。
多くの場合、こうしたリスクの高い状態が続くことや、リスクが現実化した結果は、社会全体にとっても望ましくないものとして受け止められます。
保険は、こうしたリスクによる損失を社会全体で分かち合うことで、個人や企業の生活・事業の再建を支えるとともに、社会の安定にもつながる仕組みです。
※1) 厳密には、リスクには純粋リスクと投機的リスクの二種類があり、本稿では純粋リスクを扱う。純粋リスクとは損失のみをもたらす可能性のあるリスクであるのに対し、投機的リスクとは損失と利益のいずれをももたらしうるリスクであり、株式投資などがその代表例である。
公的保険と民間保険の違いとは?支え合いには“役割分担”がある
保険には、政府が提供する公的保険と、民間会社が提供する民間保険があります。
日本の公的保険の代表例は、医療保険、介護保険、年金、雇用保険、労災保険です。
こうした公的保険は、加入者に一定の水準を保障するセーフティネットとして、生活の土台を支えることを目的としています。
一方、民間保険は、公的保険ではカバーしていない部分の保険を提供したり、個人や企業のニーズに応じた補償を提供したりしています。また、公的保険だけでは対応しにくい新たなリスクに対しても、社会の変化に応じて商品開発やリスク評価など、重要な役割を果たします。さらに、再保険市場を活用することで、世界全体にリスクを分散できるため、自然災害のような大きなリスクにも対応しやすくなります※2。
※2)再保険とは、元受保険会社が引き受けたリスクの一部または全部を他の保険会社に引き受けてもらうことである。高額な保険金を支払う可能性のある契約は、損害が発生した場合に、契約している保険会社の経営に大きな影響を与えるため、他の保険会社にリスクを分散することで経営の安定を図っている。
| 公的保険 | 民間保険 | |
|---|---|---|
| 提供主体 | 政府・公的機関 | 民間会社 |
| 目的 |
|
|
| 具体例 | 医療保険、介護保険、年金、雇用保険、労災保険 | 自動車保険、火災保険、任意の医療保険・介護保険など |
| 特徴 |
|
|
出典:筆者作成
なぜ保険会社は“予防”にも関わるの?キーワードは「情報の差」
保険には、保険会社と契約者の間で、情報の量や質に差がある「情報の非対称性」の問題があります。代表的なものが、逆選択とモラルハザードです。
逆選択とは、保険会社が契約者の情報を契約前に完全に把握することは難しいため、リスクの高い人ほど保険への加入ニーズが高くなり、契約者に偏りが生じてしまう問題です。結果として、保険会社が支払う保険金が増え、損害率の上昇や保険料の高騰につながる可能性があります。
モラルハザードとは、保険に加入している安心感から、事故や損害を防ぐ意識が、加入していないときと比べて弱くなる現象をいいます。たとえば、自動車保険に入っていることで安心し、運転が雑になるような場合です。
保険会社は、こうした問題に対応するため、保険金を支払うだけでなく、保険契約の前後を通じて、リスクの評価や予防・軽減策に関与することが重要です。
実際に、保険会社は保険引受時のリスク評価に取り組むとともに、交通事故防止、防災・減災、健康増進、サイバーセキュリティ対策など、さまざまな分野でデータ分析やコンサルティング、啓発活動を通じて予防・軽減策に取り組んでいます。
予防・軽減に加えて、損害が発生した後の復旧や回復の面でも、保険会社が関与することは可能です。早期に保険金を支払うことは、当面の生活や事業継続に必要な資金を提供することにつながり、早期の復旧や回復を後押しする役割を果たします。
以下では、損害発生前・発生時・発生後のタイミング別に、保険会社の取り組みを整理します。
| タイミング | 主な取り組み |
|---|---|
| ① 予防・軽減(損害発生前) | リスク評価、データ分析、行動変容支援 |
| ② 補償・保障(損害発生時) | 保険金の支払い |
| ③ 復旧・回復(損害発生後) | 早期復興支援、再発予防支援 |
出典:筆者作成
このように、保険会社は「予防・補償・復旧」の三段階での関与に取り組んでいます。
社会課題と保険はどう関係する?
社会課題に関係するリスクへの対応は、「どのリスクを、誰が、どのように負担するのか」が重要な論点になります。
その際には、予防や復旧への関与を含め、公的機関と民間保険会社がそれぞれ異なる役割を担っています。
| リスク分野 | 公的機関の役割 | 民間保険会社の役割 |
|---|---|---|
| 自然災害に 関するリスク |
国土強靭化政策や防災インフラ整備などの公的投資 | 住宅・企業向けの保険の提供 |
| 医療・介護に 関するリスク |
公的医療保険・介護保険による基本的なサービスの提供 | 差額ベッド代、先進医療、在宅介護支援などの補完 |
| 技術革新・新産業に 関するリスク |
制度整備・ルール作り | リスク評価、商品開発で新たなリスクに対応 |
出典:筆者作成
このように、公的機関と民間保険会社は、役割を分担しながら、社会課題に関係するリスクを支えています。
おわりに 公的保険を補完する民間保険の役割がいっそう重要に
このように、公的保険と民間保険の役割分担や、予防・軽減策の重要性を踏まえると、民間保険会社には、公的保険の補完、新たなリスクへの対応、予防・補償・復旧への関与といった視点が、今後いっそう重要になると考えられます。
【参考資料】
中出哲・中林真理子・平澤敦監修,公益財団法人損害保険事業総合研究所編(2024)『新しい時代を拓く損害保険』有斐閣